新しい遊び体験をどう作るか。 愚直にやり続けるしかない。 取締役執行役員 多留 幸祐〈後編〉

新しい遊び体験をどう作るか。 愚直にやり続けるしかない。 取締役執行役員 多留 幸祐〈後編〉

デジタルエンターテインメント領域の執行を担う 取締役執行役員 多留のインタビュー後編です。前編はこれまで築いてきたキャリアを中心に、後編では、多留が考えるサービスの未来やキャリア構築、取締役としての会社の戦略など、ゲームプロデューサー以外の側面についても語ってもらいました。

※前編はコチラ

デジタルエンターテインメントの未来

新しい遊びを提供できるか

現在デジタルエンターテインメント事業領域の執行役員として、エンタメ事業における新規事業を中心に管轄しています。これまで、モンスト事業部と新規事業と広い範囲を管轄していましたから、今は少し絞ってやらせてもらってます。ここでの私の使命は、各新規サービスの成功確度を向上させることです。既存のIPですと、先日パブリッシャー変更を発表した「コトダマン」や新規アプリ「モンストドリームカンパニー」、新規のサービスだとモック開発中も含めて数本を管理しています。

 

執行の責任者として、“どうしたらゲームが流行るか、利益をあげられるか”を考え実行していかなければなりません。とはいえ、ゲームマーケットは成熟しており、レッドオーシャンで熾烈を極めているのも事実。ユーザー視点から見ても盛りあがる沸点は高いのですが、そのぶんアップダウンが激しい。マーケットの人気タイトルを見ても、今流行っているのはシンプルなアクションで楽しめるライトゲームか、強力なIPを所有するものばかりです。

 

では、何を作るべきか。

 

もう単純に当たり前ですが、今までにない新しい“特別な”体験ができるゲームを作らないといけないのです。そのゲームで満たされる欲求が他では満たされない、他に替えの利かない体験を提供できるかどうか。具体的に言うと…まぁ言語化は難しいのですが(苦笑)。新しい遊びをつくることは簡単ではありませんが、今は顕在化してない世の中の欲求、潜在的な欲求に恐れずアプローチしていくことにこだわって、我々はサービスを提供していきたいと思っています。例えば「コトダマン」はグローバル展開したくても日本語の壁があり非常に難しいですが、日本に特化したサービスだからこそ、逆にコトダマンにしか提供できない価値がある、「モンスターストライク(以下モンスト)」とは違う体験が提供できるとも感じています。

 

事業戦略について

ホームラン級を狙う

ミクシィは新規事業も含めて全てホームラン級のサービスを狙っています。これまで、世の中に驚きを提供できたSNS「mixi」や「モンスト」といったホームラン級のサービスです。そのため、結果として三振となるサービスもでてくるかもしれません。それは通常ストライクゾーンではないところにバットを出していくわけですし、我々も天才ではないので狙って振っても空振りをすることも多いと思います。しかし、他の人たちと同じストライクゾーンで待っていても、多くの人がそこにバットを出してくるわけですから、競争が激化して打てそうにないですし、バットに当たったとしてもホームランには到底ならない。もちろん、闇雲に何も考えず誰も振らないところにバットを出せばいい、というわけではありません。世の中を賑わせトレンド化するような大きなインパクトを与えるサービスを提供するには、独自の意志や戦略を持ち、三振をし続けてもホームランを目指して他の人にはストライクゾーンと思えないところにバットを振り続けていくような事業スタンスが、会社として市場で生き残っていくためにも必要だと思っています。mixiやモンストの当時の生い立ちやプロダクトの性質を振り返って考えてみると、そう信じられます。

とはいえ、現場サイドから考えると、リリースされなければ悔しい想いを抱くでしょうし、長期間待てない気持ちもあるでしょう。しかしながら、意志をもってホームランを目指していける行動や判断をしてくれるメンバーが増えると嬉しく思いますし、仮に三振をし続けたとしても、私がミクシィ社の役員である限りはその人を応援し続けたいですし、守り続けたいと考えています。

 

ヒントはコミュニケーションにあり

ミクシィは、SNS「mixi」と「モンスト」など親しい友人とのコミュニケーションをベースにしたサービスで、世の中にムーブメントを起こした実績があります。この“コミュニケーション”を基軸にサービス展開を考えていくと、ヒントがあるかもしれません。親しい人とのコミュニケーションは、時代を経ても変わらない大切なコンテンツだと考えているからです。

前職のLINE時代にサービス設計で大きな学びに繋がった事例があります。コンテンツやサービスの強みだけで成長させるのではなく、いかに「LINE」の友人や知り合い同士を巻き込んで楽しんでいけるのかという視点。「LINE」アプリで繋がっている友人関係を追求していかないと、爆発的なサービスの成長は実現できないことを学びました。これはバイラルによって拡大していくサービス設計を大切にしている、ミクシィの戦略と同じような考え方ですね。

家族の話になってしまいますが、私個人の体験としても、これまで全く実家に帰っていなかった自分が、両親から「親族に子供が生まれた」と聞くやいなや、顔を見るために頻繁に帰るようになった。一度接するとこれがまたかわいくて、また会いたくなるわけです。妹の子供が家族との共通の“コンテンツ”の一つとなり、家族のコミュニケーションを活性化させました。時代を問わず、親しい間柄だからこそ本能的に欲してしまう。そういうコンテンツを作りたいですね。

 

ユーザーインサイトへの意識

よくサービスで友人招待というキャンペーンや施策があるかと思いますが、ユーザーの本質に気付けたエピソードを一つ紹介しましょう。

LINEで働いていたある日、占いのサービスを展開するプロジェクトの担当になりました。占いのマーケットやサービス概要は理解していたものの、私自身そこまで興味も持っていなかったため、リアルな占いの体験をしたことがなかった。そんなある日、LINE時代の上長にあたる慎さん(現LINE代表取締役CWO 慎ジュンホ氏)から「占いサービスをヒットさせようとしているのに、まさか多留さんは占いを経験していないのか」と指摘されて、焦って即座に有名な占い師を予約し、体験したんです(苦笑)。実際に行ってみると、私が家族構成に関する情報を伝えてないにも関わらず、占い師さんに家族構成を当てられてしまったんです。それ以来、「占いしてもらったら、家族構成を当てられてさ、お前も行ってみなよ」と、つい興奮しながら友人に紹介してしまう自分がいたんですよ。友人からすれば、占いに興味がなかった多留がここまで変わったなら…と思って、興味津々になりますよね。これが友人招待や友人にサービスを勧めるということの本質なんだ、と学びました。自身が印象に残るような強烈な体験をした場合、友人や知り合いについ教えたくなるものなんだ、と。まぁこれは、慎さんのプレッシャーもあったからなんですけどね。強烈に印象に残っている実体験です。

 

組織で働くメンバーへ

取締役としては、自分も含めてですが、ミクシィで働くメンバー全員に、いつも明るく楽しく働いてほしいと願うばかりです。もちろん、お給料をもらって働く中では苦しいこともあるのですが、自分たちが何をやりたいのか、何を実現したいと思っているのかを念頭に置いて、能動的に動いてほしい。また、嫌なことや苦しいことがあって落ち込んでいても何も生まれないので、極論、カラ元気でもいいので「よっしゃー!」と体を立て直すと、不思議と気持ちが楽になるはずです。さらに、気分的に楽しく働いていると余裕が生まれてきますよね。余裕ができると少し広い視野で俯瞰できたり、おもしろいアイデアを思いついたりする可能性も高いはず。もちろん会社として業績に結びついていないといけませんが、メンバーはそれを忘れないでほしいですし、そういった環境を作るのも私の使命だと思っています。

取締役である今、メンバーが安心して働けるかどうかについては、昔以上に気になるようにはなりました。以前、モンストでトラブルが発生し、緊急対応が必要となったタイミングがありました。みんなで力を合わせ無事解決したあと、ふと社内の休憩スペースを見渡すと、そこで仕事をしている社員がいて「サービスが無くなれば、メンバーの仕事も失うことになるかもしれない」と危機感を意識したのを、今でも鮮明に覚えています。気を引き締めて雇用を守らないといけない、安心して働けるような環境を作らないければならない、と。そのためにも私には、売り上げが立ち利益がでるように牽引しなければならない責任があると思っています。

また、組織として機能するためには、スキルに見合った適材適所も必要ですし、逆に、ポジションが人を作るとも考えています。以前、ある部下を役職に推薦したところ、メンバーへのマネジメントを強化し始めました。すると上司と部下がそれぞれお互いをサポートする姿勢が増え、よりチームとして機能的で生産性向上につながっている傾向が見えてきました。権限を少しづつ委譲し、現場が考えて実行できる体制なども重要だと認識しています。

 

キャリアのヒント

「計画的なキャリア設計をしていたわけではない」と前編で話したとおり、私自身は目の前の課題・プロジェクトを愚直に考え実行する、を繰り返してキャリアを構築してきました。突然アイデアが湧いてくるタイプではありません。ただ、考え方として、サービスにおいてユーザーの感情や欲求などのインサイトを追求する傾向はあります。先ほど話したように、どのような体験を味わったかによって、ユーザーの消費行動は大きく変わると考えているからです。どんな仕掛けを施したら、ユーザーがどういった心理になりえるのか、様々な要素から影響度が高いものを優先して、施策として実行するよう心がけています。もちろん現場のメンバーの意見を尊重しながら、みんなで責任をもって決めていくのが理想ですが。

私のキャリア形成はなかなか参考になりにくいかもしれませんね(苦笑)。といっても、ユーザーインサイトを追求するという考え方をベースにすることは、コミュニケーション創出企業であるミクシィで働くにあたって、最も大事なことではないかとも思います。

取締役執行役員 多留幸祐

携帯コンテンツ会社、株式会社ライブドア(現 LINE株式会社)等を経て、2014年2月株式会社ミクシィに入社。モンストスタジオ(現 モンスト事業本部)でモンスターストライクの企画・運用に従事。2015年1月同スタジオの部長に就任。2017年4月XFLAGスタジオ モンスト事業本部長就任。2017年6月、当社取締役就任。(現任) 2018年4月、当社執行役員デジタルエンターテインメント領域担当就任。(現任)

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