挑戦しないことが、最大のリスク。初の海外M&Aは、ゴールではなく始まりの一歩

2025.12.24
奥山 翔
ベンチャーキャピタル、スタートアップなどを経て、2016年4月株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。経営企画室と投資事業部にて子会社支援や事業推進、M&A、PMI、スタートアップへの投資などに従事し、投資部門を統括。2022年4月、執行役員就任。2023年4月より、上級執行役員。
荒木 豪司
ファイナンス、マーケティングなどの領域での経験を経て、2019年3月に株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。スタートアップ投資やVCファンド出資など、グループの投資事業全般を統括。M&AやPMIも牽引し、グループ全体の企業価値向上に取り組む。2025年4月より、コーポレートデベロップメント本部 本部長。

2025年、MIXIはPointsBet Holdings Limited(以下、PointsBet)を買収し、初の海外M&Aに挑みました。数百億円規模、海外上場企業──それでも二人は、この決断を「特別なもの」だとは語りません。やるべきことを、誠実に、淡々と。その先にある“事業づくり”を見据え、奥山 翔と荒木 豪司は次の挑戦へと踏み出しています。

M&Aはゴールではない──実現したい未来から逆算した判断

MIXIはこれまで、日本国内においてM&Aと自社事業の両輪で、事業を成長させてきました。外部のパートナーと出会い、グループとして迎え入れ、PMIを通じて事業を磨き上げていく──その積み重ねが、現在の事業基盤をつくっています。

スポーツ事業も、そうした取り組みの延長線上にありました。そして次の挑戦として視野に入れたのが、「海外」というフィールドだったのです。この流れの中で出会ったのが、PointsBetでした。

奥山:スポーツベッティング事業を展開するうえで、私たちが何より重視していたのは「誠実さ」でした。複数の企業と対話を重ねる中で、技術力やサービスの信頼性はもちろんですが、MIXIが大切にしている価値観と共通する「誠実さ」を強く感じたのがPointsBetです。だからこそ、パートナーとして最適だと判断しました。彼らが持つベッティングの基盤に、MIXIのソーシャルのノウハウを掛け合わせることで、ユーザー同士のつながりや交流が生まれる「ソーシャルベッティング」が実現できる。そう確信したんです。

PointsBetは、巨大な市場規模を持つオーストラリアで高いブランド力とシェアを誇る企業です。この判断は結果として、MIXIにとって初の海外M&Aとなり、グローバル展開に向けた大きな一歩として社外からも注目を集めました。しかし、「決断の裏にどのような覚悟があったのか」という問いに対して、奥山から出てきた言葉は意外なものでした。

奥山:振り返ってみると、特別に構えた決断だった、という感覚はあまりありません。私たちが実現したいことが先にあり、その想いに応えてくれるパートナーがPointsBetだった。そのために必要な資金規模が、これまでよりも大きかった、というだけの話だと思っています。
もちろん、日本でのM&Aとは異なる難しさはありましたが、やるべきことに向き合い、一つずつ進めていく点では変わりません。私たちがめざしているのは、この先の事業づくりです。その方法の一つとして、信頼できるパートナーであるPointsBetにMIXI GROUPの一員になってもらいました。だからこそ、これから一緒に何をつくっていくかのほうが、より大切だと考えています。

あくまで、MIXIがめざす「ソーシャルベッティング」を実現するための一つの手段──。荒木も、今回のM&Aを「これまで取り組んできた業務の延長線上にあったもの」と捉えていたと続けます。

荒木:私たちは、常に新しい挑戦を続けています。今回のプロジェクトも、規模の大きさや海外の上場企業である点など、チャレンジングな面は多くありました。ただ、チームが前のめりになっていたかというと、そうではありません。
私たちは、経営が企業価値向上のために行う意思決定に資することを役割とする部門です。「この案件は絶対にやるべきだ」と思い入れを持ちすぎてしまうと、視野が狭くなってしまいます。プロジェクトの価値を感じながらも、必要とあらば立ち止まる。その冷静さを失わずに推進していくことが、何より大切だと考えています。

「このパートナーでよかった」──Day1で感じた、確かな手応え

会社が変われば、文化も考え方も異なります。パートナーとして歩む中で、ギャップや想定外の出来事が生まれるのは自然なことです。そんな中で荒木が強く印象に残っているのは、PointsBetが「このパートナーでよかった」と感じさせてくれた、あるポジティブなサプライズでした。

荒木:新体制がスタートする初日、Day1イベントでのことです。イベントを終えてランチに向かう途中、オーストラリアのストリートアートが有名な通りに、「モンスターストライク」のキャラクターが描かれているのを目にしました。PointsBetのメンバーが、サプライズで用意してくれていたものだったんです。
M&Aが成立してからDay1イベントまでは、それほど期間がありませんでした。それにもかかわらず、私たちのためにここまで準備してくれていたことに、心から感激しました。
奥山:あのサプライズは、とても印象に残っています。MIXIは「ユーザーサプライズファースト」を掲げていますが、私たちが想定していなかった形でサプライズを用意してくれていたことに、素直に嬉しさを感じましたし、同時に少し悔しさも覚えました。
それだけ、この取り組みに向けてしっかりと準備を重ねてきてくれたということでもあります。「ユーザーサプライズファースト」という考え方が共有されていたことは、これから一緒に進んでいくうえで大きな安心材料でもありました。

荒木: PointsBetの従業員の皆さんにとっては、どんな考えを持つ会社が親会社になるのか、不安を感じる部分もあったと思います。だからこそ、私たちがどんな会社で、何を大切にしているのかをきちんと理解してもらえるよう、マネジメント層とのコミュニケーションを重ねてきました。

Day1イベントでは、MIXIの経営陣も現地に赴き、その様子を日本やカナダにも同時配信しました。「Go Together(ゴゥトゲダア)」という言葉を入れた帽子を用意し、「これから一緒に進んでいこう」というメッセージを、言葉と行動の両方で伝えました。

また、日々のやりとりにおいても、双方が理解し合うためのコミュニケーションが現場レベルで交わされていると言います。

荒木:MIXIには、海外のメンバーと本格的にやりとりをするのが初めてという従業員も多くいます。不安を感じる場面もある中で、コーポレート部門をはじめ、各メンバーが意識的に工夫をしたり、研修を用意したりしながら、それぞれの立場で考えて動いてくれています。
一方で、PointsBetのメンバーも、日本語を交えながらコミュニケーションをとってくれるなど、歩み寄ろうとする姿勢を見せてくれます。そうしたやりとりを通じて、ボトムアップで良い関係を築こうとする動きが、自然と生まれていると感じています。

挑戦しないことが、最大のリスク。──判断軸をそろえるチームのつくり方

立ち止まるべき時には立ち止まりながら、それでも挑戦を止めない。そんな姿勢を大切に、本部長として部を率いる荒木は、コーポレートデベロップメント本部の在り方について、こう語ります。

荒木:メンバーは、CVCファンドやM&A、PMI、グループ会社の事業推進、さらには新規事業に向けたチャレンジなど、一見するとバラバラな業務に取り組んでいます。ただ、根底にある考えは共通しています。それは、資本を動かすべきところに動かし、成長の機会を切り開くことで、MIXI GROUPに非連続的な成長をもたらすことです。そのために、皆が日々の小さな改善を怠らずに取り組みながら、同時により大きな成長を生むためには何が必要かを考え続けています。

メンバーがそれぞれの力を発揮できるよう、進むべき方向を示すことも、荒木の重要な役割です。その際に常に軸としているのが、「企業価値の向上」だと語ります。

荒木:目の前のタスクが、最終的に企業価値の向上につながっているかどうか。常にそれを問いかけるようにしています。短期的には成果が見えにくくても、長い目で見て企業価値を高められるのであれば、かけるべきコストはきちんとかける。一方で、そうでないと判断すれば、やめる判断をすることも必要です。

上級執行役員として最終的な判断を担う奥山は、メンバーの意見や提案を判断する際の軸として「当事者意識」を挙げます。

奥山:投資対象のリサーチがしっかりとできているか。表面的な情報だけでなく、事業の中身や背景まで踏み込んで理解できているかを重視しています。たとえば、投資委員会の場で私の質問に対して十分に答えられないことがあると、「まだ当事者として向き合いきれていないのではないか」と感じることがあります。投資やM&Aの判断において、「うまくいったらいいな」というスタンスでは、なかなか結果は出ません。一緒に成長していけるのか、あるいは確かな利益につなげられるのか。その覚悟を持って向き合えているかどうかが、何より大切だと思っています。自身の役割を「適切なリスクを取りながら、大きなリターンを得ること」だと語る奥山。その考え方の根底にあるのが、コーポレートデベロップメント本部として、常に新たな挑戦を続ける姿勢です。奥山はその姿勢こそが、「適切なリスク」だと捉えています。

奥山:新しいことを生み出そうとする意識を持たないことこそが、最も大きなリスクだと思っています。何もしなければ、一見リスクを負わないように見えるかもしれませんが、実際にはそれがとてつもなく大きなリスクになってしまう。
なぜなら、世界は私たちが想像する以上のスピードで前に進んでいるからです。全力で取り組んでいても追いつくのが簡単ではないくらい、環境は日々変化しています。だからこそ、立ち止まることなく挑戦を続ける。その姿勢を持ち続けることが、私たちにとって何より大切だと思っています。

世界中の日常に、MIXIがある景色を。──これから一緒に挑戦したい人へ

変化のスピードが加速する中で、MIXIはその先にどんな景色を描いているのか。二人が思い描くのは、世界中の人々の日常の中に、自然と「MIXIがある」未来です。

奥山:日本では、日常の中で「みてね」や「TIPSTAR」などのサービスを使っていただいている様子を目にすることがあります。これからは、海外でも「あそこにモンストで遊んでいる人たちがいるね」という光景に出会えたり、私たちのサービスをきっかけに、世界中でコミュニケーションが生まれている様子を見られたりしたら、素敵だと思います。
私たちのミッションである「心もつながる」場と機会の創造を、1億人、2億人という規模にまで広げていき、「世界を幸せな驚きで包む」ことをめざしていきたいですね。
荒木:今回のM&Aを通じて、MIXI GROUPの海外売上高は大きく拡大しました。それに伴って、グローバルな事業運営に対応する力も確実に高まってきていきます。だからこそ、ここからさらに飛躍させなければなりません。日本と海外では、金利やインフレといったマクロ経済・金融環境も大きく異なります。今までと同じやり方をしているだけでは、企業は成長を止めてしまう。その前提に立って、常に変化を前向きに捉える必要があると感じています。
実際、これまでMIXI GROUPの売上構成は、国内のデジタルエンターテインメント事業が9割を占めていましたが、近年はスポーツ事業やライフスタイル事業が着実に成長してきました。そして今、海外展開という新たなフェーズに踏み出す中で、企業価値をさらに高めていく、そのチャレンジに向き合えていること自体に、私自身大きなおもしろさを感じています。
奥山:そうですね。私も毎日楽しく仕事ができていますが、それは多くのメンバーが、これまで経験したことのないことにも前向きにチャレンジしているからだと思っています。もちろん大変なこともありますが、そうしたことも含めて楽しみながら取り組んでくれている。その姿勢が、チーム全体のポジティブな空気をつくってくれているのだと感じています。だからこそ、結果として、楽しく働き続けられているんじゃないかなと思います。

そして、これから仲間になる人たちにも、好奇心を持って新たな道を切り開いてほしいと続けます。

荒木:会社を飛躍的な成長へ導いていく組織の一員として、未知のものに対する探求心を持ち、市場や自社プロダクトにアンテナを高く張りながら、自分の言葉で発信できる人に参画してもらいたいと思っています。探求心というのは、いわば「オタク性」のようなものでもいいと思うんです。何か一つの領域で深く好きなものがある人は、たとえ分野が変わっても、同じように力を発揮できるはずです。そうした異なる領域への探究心を持つ人たちが集まり、互いに協働しながら、自発的に物事を前に進めていける。そんなチームでありたいと思います。
奥山:世の中は常に変化していますし、そのスピードも年々速くなっています。だからこそ、変化を楽しめる人であってほしいし、できることならその変化を自分たちで生み出していける人であってほしいと思っています。そのために大切なのは、想像力です。たとえば、「AIを使うかどうか」といった話ではなく、「皆がAIを使うようになったら、世の中はどう変わるのか」。そんなふうに、少し先の未来を自分ごととして想像できるかどうか。変化の先にある景色を一緒に思い描きながら、新しい挑戦に向き合っていける。そんな仲間と一緒にチャレンジしていきたいですね。

※ 記載内容は2025年11月時点のものです

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