挑戦しないことが、最大のリスク。初の海外M&Aは、ゴールではなく始まりの一歩


- 奥山 翔
- ベンチャーキャピタル、スタートアップなどを経て、2016年4月株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。経営企画室と投資事業部にて子会社支援や事業推進、M&A、PMI、スタートアップへの投資などに従事し、投資部門を統括。2022年4月、執行役員就任。2023年4月より、上級執行役員。
い- 荒木 豪司
- ファイナンス、マーケティングなどの領域での経験を経て、2019年3月に株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。スタートアップ投資やVCファンド出資など、グループの投資事業全般を統括。M&AやPMIも牽引し、グループ全体の企業価値向上に取り組む。2025年4月より、コーポレートデベロップメント本部 本部長。
2025年、MIXIはPointsBet Holdings Limited(以下、PointsBet)を買収し、初の海外M&Aに挑みました。数百億円規模、海外上場企業──それでも二人は、この決断を「特別なもの」だとは語りません。やるべきことを、誠実に、淡々と。その先にある“事業づくり”を見据え、奥山 翔と荒木 豪司は次の挑戦へと踏み出しています。
目次
M&Aはゴールではない──実現したい未来から逆算した判断

MIXIはこれまで、日本国内においてM&Aと自社事業の両輪で、事業を成長させてきました。外部のパートナーと出会い、グループとして迎え入れ、PMIを通じて事業を磨き上げていく──その積み重ねが、現在の事業基盤をつくっています。
スポーツ事業も、そうした取り組みの延長線上にありました。そして次の挑戦として視野に入れたのが、「海外」というフィールドだったのです。この流れの中で出会ったのが、PointsBetでした。
PointsBetは、巨大な市場規模を持つオーストラリアで高いブランド力とシェアを誇る企業です。この判断は結果として、MIXIにとって初の海外M&Aとなり、グローバル展開に向けた大きな一歩として社外からも注目を集めました。しかし、「決断の裏にどのような覚悟があったのか」という問いに対して、奥山から出てきた言葉は意外なものでした。
もちろん、日本でのM&Aとは異なる難しさはありましたが、やるべきことに向き合い、一つずつ進めていく点では変わりません。私たちがめざしているのは、この先の事業づくりです。その方法の一つとして、信頼できるパートナーであるPointsBetにMIXI GROUPの一員になってもらいました。だからこそ、これから一緒に何をつくっていくかのほうが、より大切だと考えています。
あくまで、MIXIがめざす「ソーシャルベッティング」を実現するための一つの手段──。荒木も、今回のM&Aを「これまで取り組んできた業務の延長線上にあったもの」と捉えていたと続けます。
私たちは、経営が企業価値向上のために行う意思決定に資することを役割とする部門です。「この案件は絶対にやるべきだ」と思い入れを持ちすぎてしまうと、視野が狭くなってしまいます。プロジェクトの価値を感じながらも、必要とあらば立ち止まる。その冷静さを失わずに推進していくことが、何より大切だと考えています。
「このパートナーでよかった」──Day1で感じた、確かな手応え

会社が変われば、文化も考え方も異なります。パートナーとして歩む中で、ギャップや想定外の出来事が生まれるのは自然なことです。そんな中で荒木が強く印象に残っているのは、PointsBetが「このパートナーでよかった」と感じさせてくれた、あるポジティブなサプライズでした。
M&Aが成立してからDay1イベントまでは、それほど期間がありませんでした。それにもかかわらず、私たちのためにここまで準備してくれていたことに、心から感激しました。
それだけ、この取り組みに向けてしっかりと準備を重ねてきてくれたということでもあります。「ユーザーサプライズファースト」という考え方が共有されていたことは、これから一緒に進んでいくうえで大きな安心材料でもありました。
荒木: PointsBetの従業員の皆さんにとっては、どんな考えを持つ会社が親会社になるのか、不安を感じる部分もあったと思います。だからこそ、私たちがどんな会社で、何を大切にしているのかをきちんと理解してもらえるよう、マネジメント層とのコミュニケーションを重ねてきました。
Day1イベントでは、MIXIの経営陣も現地に赴き、その様子を日本やカナダにも同時配信しました。「Go Together(ゴゥトゲダア)」という言葉を入れた帽子を用意し、「これから一緒に進んでいこう」というメッセージを、言葉と行動の両方で伝えました。

また、日々のやりとりにおいても、双方が理解し合うためのコミュニケーションが現場レベルで交わされていると言います。
一方で、PointsBetのメンバーも、日本語を交えながらコミュニケーションをとってくれるなど、歩み寄ろうとする姿勢を見せてくれます。そうしたやりとりを通じて、ボトムアップで良い関係を築こうとする動きが、自然と生まれていると感じています。
挑戦しないことが、最大のリスク。──判断軸をそろえるチームのつくり方

立ち止まるべき時には立ち止まりながら、それでも挑戦を止めない。そんな姿勢を大切に、本部長として部を率いる荒木は、コーポレートデベロップメント本部の在り方について、こう語ります。
メンバーがそれぞれの力を発揮できるよう、進むべき方向を示すことも、荒木の重要な役割です。その際に常に軸としているのが、「企業価値の向上」だと語ります。
上級執行役員として最終的な判断を担う奥山は、メンバーの意見や提案を判断する際の軸として「当事者意識」を挙げます。
奥山:投資対象のリサーチがしっかりとできているか。表面的な情報だけでなく、事業の中身や背景まで踏み込んで理解できているかを重視しています。たとえば、投資委員会の場で私の質問に対して十分に答えられないことがあると、「まだ当事者として向き合いきれていないのではないか」と感じることがあります。投資やM&Aの判断において、「うまくいったらいいな」というスタンスでは、なかなか結果は出ません。一緒に成長していけるのか、あるいは確かな利益につなげられるのか。その覚悟を持って向き合えているかどうかが、何より大切だと思っています。自身の役割を「適切なリスクを取りながら、大きなリターンを得ること」だと語る奥山。その考え方の根底にあるのが、コーポレートデベロップメント本部として、常に新たな挑戦を続ける姿勢です。奥山はその姿勢こそが、「適切なリスク」だと捉えています。
なぜなら、世界は私たちが想像する以上のスピードで前に進んでいるからです。全力で取り組んでいても追いつくのが簡単ではないくらい、環境は日々変化しています。だからこそ、立ち止まることなく挑戦を続ける。その姿勢を持ち続けることが、私たちにとって何より大切だと思っています。
世界中の日常に、MIXIがある景色を。──これから一緒に挑戦したい人へ

変化のスピードが加速する中で、MIXIはその先にどんな景色を描いているのか。二人が思い描くのは、世界中の人々の日常の中に、自然と「MIXIがある」未来です。
私たちのミッションである「心もつながる」場と機会の創造を、1億人、2億人という規模にまで広げていき、「世界を幸せな驚きで包む」ことをめざしていきたいですね。
実際、これまでMIXI GROUPの売上構成は、国内のデジタルエンターテインメント事業が9割を占めていましたが、近年はスポーツ事業やライフスタイル事業が着実に成長してきました。そして今、海外展開という新たなフェーズに踏み出す中で、企業価値をさらに高めていく、そのチャレンジに向き合えていること自体に、私自身大きなおもしろさを感じています。
そして、これから仲間になる人たちにも、好奇心を持って新たな道を切り開いてほしいと続けます。
※ 記載内容は2025年11月時点のものです









