ひと口にマネジメントといえど、そのスタイルは様々。チームメンバーや部下、組織や技術、やり方も多彩にあります。このシリーズでは、“エンジニア”のマネジメントを担うメンバーに焦点を絞り、「エンジニアマネジメントってどうしてる?」と悩みや独自のやり方などを赤裸々に語ってもらい、メンバーの多種多様な“マネジメント観”を中心に、そのノウハウをお届けしていきます。
ライブエクスペリエンス事業本部システム部で、21名のプロジェクトマネージャーやエンジニアを束ねる石井は、「マネジメントは、ややこしさの塊」だと言います。20年以上マネジメント歴を経験しているからこそわかる、マネジメントの難しさや心構えを聞きました。
━━早速ですが、「マネジメントが上手くいっている」と感じたことはありますか。
うーん…正直なところ、成功したと言い切れる体験はないんですよね。こうして記事としてまとめたことはありますが、今も永久に学び続けている(笑)。それでも続けるしかない。基本的に、プロジェクトの成功・失敗は、何かの要素が連鎖した帰結だと思っています。もちろん、マネジメントは重要な要素ですが、何が成功要素かは言い切れません。マネジメントがハマったおかげで成功したように見えても、実は上手く立ち回っていたキーマンがいたからこそ成り立っていたということもあるんです。
━━確かに。
そういう意味で、マネジメントに正解があると思い込んで、痛い目にあった経験はあります。「マネジメント完全に理解した」と思っていた時期ですね(笑)。マネジメントをする前は、だいたいマネジメントをされる側。「自分だったらこうする」と、アイデアがあるはずですが、無意識に、他の人も自分と同じように思うだろうとか、エンジニアはこういうものだろうという主観が入ってしまいます。それをそのままチームに当てはめても上手くいかない。当たり前のことですが、「他人と自分が思うこと、感じることは違う」ことを見落としてしまいがちなんですよね。さらに言うと、1つのプロジェクトでの成功体験が、他に当てはまるわけじゃない。成功体験が、次の失敗を生む要因にもなるところが、マネジメントの面白いところですよね。
━━無意識のうちに、バイアスにとらわれてしまうということですね。
はい。プロダクトの内容やフェーズ、メンバーの職務や価値観は、毎回違います。プロダクトやチームには、無数のパターンがあるじゃないですか。単純にフレームワークを当てはめるのではなく、その都度、合ったやり方を考えないといけません。
━━それで、学び続けているようだとおっしゃっていた理由がわかりました。
マネジメントの難しさはそれだけではありません。プロダクトやチームのことだけではなく、母体となる組織全体のことも考えないといけないことに、ここ数年であらためて考えさせられています。自分が見えている範囲のプロジェクトが上手くいっていても、会社のベクトルと合っていないなら、良くないですよね。マネジメントって、ややこしさの塊ですよね(笑)。
━━とはいえ、石井さんは部署を取りまとめていらっしゃいますよね。
何周か回って、「マネジメントなにもわからない」という状況に陥っていますが、自分と同じように、デザイナーやエンジニアからプロダクトマネージャーを目指す人がもっと増えるといいなと考えていて、自分のようなタイプの方に向けて、僕なりに頑張ってきたことや心掛けていることをお話しできればと思います。
━━お願いします!
3つポイントがあって、1つ目は「曖昧さを受け入れる」ことです。僕は几帳面な性格で、元々は計画は綿密に立てたいタイプ。一人でプログラムを書くとか、何かを整える作業に安らぎを感じるタイプです(笑)。なので、イレギュラーなことが起きるのが苦手。でも、マネジメントは思い通りにいかないことも楽しむくらいの気持ちでいないと自分も相手もやっていられないです。
━━全てを完璧に進めることはできないですもんね。続いて2つ目は?
稲盛和夫さんの言葉にもありますが、「楽観と悲観のバランス」です。そういった曖昧で不確実な中でも意思決定するのがマネージャーの役割。判断材料を集めたり、最悪の事態が起こってしまった場合のプランを悲観的な視点で考えておく必要があります。ただ、僕みたいな性格だと、悲観的に考えすぎてしまい、何も行動できなくなってしまうんですよね。だから、意識して「楽観性」を取り入れるようにしています。組織にも、学びある失敗を歓迎する文化をつくっていかないといけません。
━━なるほど。苦手な方は意識して取り入れる必要がありますね。3つ目は何ですか?
最後は「人に頼る」ことです。デザイナーやエンジニアは仕事の性質上、人から頼まれるケースが多いため、人に頼ることが苦手な方が多いように思います。会社は多様なスキルをもつ個性が集まって、プロジェクトを推進する場所です。マネジメントする範囲が広がれば、自分が未経験の領域が増えてくるので、人に頼らないと何もできないんです。僕なんか今はむしろ何もできない(笑)。自分で全部できるのは、テクニカルな領域が同じリーダーまで。思い切って、頼れるようになることが大切です。
石井にマネジメントについて聞いてみたら、こんなポイントがありました。
「楽観と悲観のバランスを使い分ける」
楽観的な姿勢だけでは、時に大きなトラブルを引き起こすことも…。悲観的に、色々な確度から起こりうる事態を想定して、楽観的に実行する。個々人の性格によってその使い分けにかかるエネルギーも様々ですが、「もともと悲観的な人間なので…」と語る石井さんは、ある意味“楽観のテクニック”として、マネジメントにおけるスタンスの切り替えを語ってくれました。
このシリーズでは、引き続き、ミクシィグループ内の“エンジニアのマネジメント”の実態やノウハウを紹介してまいります。