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2019/06/11

「健康寿命の延伸を実現」ウェルネス事業の戦略とは。 執行役員 荻野泰弘 後編

ミクシィグループのCFOを過去に務め、現在はスマートヘルス事業の責任者である執行役員荻野泰弘について、執行役員インタビューの後編です。コミュニケーション創出企業であるミクシィがなぜこの事業領域を展開するのか、「ウェルネス」の事業領域でのビジネス展望と新規事業の組織論についてインタビューしました。

前編はこちら

 

■「ウェルネス」の事業が目指す未来

ミクシィが「ウェルネス」の事業をやる意義

「ウェルネス」の事業領域で挑戦するきっかけは「大きな社会課題を解決したい」「企業価値を大きく向上させたい」と、前回お話したかと思います。そこでまず国内の社会課題に目を向けると、年々増大している社会保障費の課題がありました。

国の発表によると2025年には医療費53兆円、福祉関係36兆円、介護給付費が20兆円と年金も含めると151兆円もの金額に膨らむそうです。その要因の一つが、超高齢化社会を迎え、病気を抱えて生きる期間も含めて平均寿命が伸びていること。これは喜ばしいことであるものの、例えば、男性の平均寿命は80.98歳ですが、健康寿命は72.14歳。つまり、ここに病気を抱えて生きる期間が8.84歳分あり、健康寿命と平均寿命との乖離が顕著になっているのが挙げられます。

健康寿命を引き上げ、病気を抱えて生きる期間を限りなくゼロに近づけ、極論かもしれませんが、病院に通わなくてもよいという世界観をつくることができれば、医療費の縮小といった日本が抱える課題解決が実現できる。そこに大きなビジネスチャンスがあると考えています。

では、「なぜミクシィがやるのか」という疑問について。そもそも健康寿命の延伸に必要な要素は、国立長寿医療研究センターが発表している「身体を動かす」「栄養を取る」「社会交流を行う」と大きく3つあります。この3つの要素を包含するサービス展開が求められると考えています。その一つの「社会交流を行う」については、SNS「mixi」やスマホアプリ「モンスターストライク」などのサービスを通して、コミュニケーションの機会や場の提供をしてきたように、ミクシィが得意とする領域です。「コミュニケーション創出企業」の当社だからこそ、培ってきたこれまでのコミュニケーション設計やオンライン・オフラインで人を繋ぐといったノウハウやアセットを駆使し、課題解決が実現できると考えたためこの領域でのビジネスプランを実現しようと考えています。

 

ウェルネス領域の戦略と「ココサイズ」の勝算

社会課題を解決するためにどのような戦略を描いているか。まず「身体を動かす」についての戦略について。具体的には「コンディショニング」という手法を取り入れています。筋トレマシンやグッズで“身体を鍛える”のではなく、病気を未然に防ぐために、身体の柔軟性、筋力、そしてバランスよく“身体を整える”事を目的としてデザインされたエクササイズと身体の動作法を指します。なんらかの病気が発病する前の未病の状態から、自己改善を促すサービスを提供し、健康状態に戻ってもらうことが私たちの考えるサービスの価値だと考えています。

先日オープンした店舗「ココサイズ」は、「コンディショニング」×「コミュニケーション」を具現化するために設計されたスペースです。

そもそも「身体を動かす」というマーケットをピラミッド構造に3つへ分解すると、上からテニス/ゴルフスクールなどの「スキルを身に付ける」、筋トレマシンなどのいわゆる〇〇ジムといった「フィジカルを鍛える」、その二つの土台になる「コンディションを整える」の3つに分けられます。しかし、ある調査機関によるとスクールやジムを使用している人口は日本国内では3%程度に留まり、「コンディションを整える」のマーケットに至っては現状顕在化すらしていません。というのも、人のコンディションのよしあしを見極められるのは非常に困難ですし、いうなれば身体のコンディションを瞬時に判断できる一部のトップクラスのトレーナーでなければ実現できない。プロアスリート向けには一部マーケットはありますが、そうなると高価格帯なサービスとなり、一部のユーザーしか享受できません。

高価格になりがちな問題と身体のコンディションをどう計測評価するかという問題。この2つの問題に対してテクノロジーでアプローチして、適正価格によって大衆化してマーケットそのものを生み出していきたいと思っています。

具体的には、いままで属人的にプロのアスレチックトレーナーがプロスポーツ選手に対して行っていた、SOAP(※読みソープ S=主観判断 O=客観判断、A=評価、P=改善運動プランの処方)という身体の課題解決アプローチを、AIによる動画・画像解析の技術を使用して自動化します。これによって、価格の適正化と計測結果の平準化を実現し、個々人の身体の課題に応じた運動プログラムの提供が可能になります。

マーケットの観点でいうと、ソーシャルゲームやスマホゲームの台頭によってゲームマーケットに「時間をかけてじっくりゲームする」市場ではなく「すきま時間を楽しむ」という新規市場が生まれたように、ウェルネス産業においてもパラダイムシフトが近い将来起きるのではないかと思います。今までの「ボディメイク、ダイエット」市場ではなく、「身体を整える」という新規市場です。プロの選手や大会出場を目指すわけではない一般の人がなぜ健康に関心を寄せるのか?それは、長い人生を最期まで自分の足で歩き続けて幸せに生きたいと思っているからです。そして長い人生を最期まで自分の足で歩き続けるための土台こそが「コンディショニング(身体を整える事)」であり、大衆化される可能性が非常に高いと考えています。ちなみに「ココサイズ」が現状女性をターゲットとしているのは、平均寿命と健康寿命の乖離が男性と比べて大きく、そこから社会保障費増大の要因となる課題を多く抱えていると推測できるためです。それは、あくまで初手であって、いずれは男女に関わらず大人から子供までが利用できるサービス展開を想定しています。

健康寿命の延伸に必要な要素の一つ「栄養をとる」については、現時点ではまだサービスの提供はできていませんが、事業スコープ内なので、いずれは展開していく予定です。もう一つの要素「社会交流を行う」についてはミクシィが事業をやる理由として説明したように「コミュニケーション創出」企業である点と、健康寿命延伸の大きなカギとなる項目だと思っています。例えば、国の研究機関が発表しているように、定年退職やパートナーとの死別などによって社会との接点が希薄化し、孤立していくと、高齢者に身体は健康だとしても精神面の機能の低下が見受けられます。積極的な他者との交流、つまりコミュニケーションが健康寿命の延伸に寄与すると考えています。「コンディショニング」だけならアプリや動画でも解決できるかもしれません。しかし、「ココサイズ」という実店舗でリアルなコミュニケーションができるというユーザーエクスペリエンスにこだわった理由もこのためなのです。

そのための工夫として、通常ジムやエクササイズ教室などであれば、利用者はトレーナー前に整列してエクササイズを行うかと思います。しかし「ココサイズ」では、トレーナーのまわりを囲うように利用者が円になり、エクササイズを行う設計です。これによって利用者とトレーナーのコミュニケーションをとりやすくして心理的距離感を排除しています。運営側と利用者側との縦のコミュニケーションに注力することで、利用者同士の横のコミュニケーションが、自然発生しやすい環境につながっていくと思っています。なぜなら、横のコミュニケーションは運営側が強制的にやるものではなく、あくまで利用者が自発的にアクション出来ることが理想と考えているからです。手帳サイズの「ココパスポート」というコンディショニングの記録手帳を作っているのも、利用者の友人との会話のきっかけにしてもらうなど、横のコミュニケーションが自然発生しやすいように整備しています。

 

「リアル店舗」×「コミュニティマネジメント」×「AI」

マーケットの視点からリアル店舗の運営にこだわった理由は、インターネットビジネスの環境がここ20年で大きく変化したからです。2000年初頭と比較すると、オンラインのみで課題を解決できる事業領域は少なくなっています。これからは、リアルな場とテクノロジーを掛け合わせて解決できる課題にビジネスチャンスがあると感じています。

そして、もう一つ。これからのビジネスの鍵になるのは、人工知能、AIですね。ダボス会議でも第4次産業革命のベースとなるといわれている通り、経営目線で外せないと考えています。AIの実現可否を理解し、AIをうまく取り込み活用するビジネスを考え抜く必要があると考えています。ここで重要なのは、規律あるデータ収集の設計ができるかどうかです。やみくもに集めたデータではAIのパフォーマンスが活かせない。だからこそ、「ココサイズ」では、対面でデータを丁寧に取得する設計としています。

他にもゲームアプリの運営の仕組みを取り入れるなど、ミクシィが持つアセットを最大限に有効活用しながら、事業を進めています。実際に「ココサイズ」がオープンしてからわかった改善点や検証事項も多々ありますので、現在は細かい改善をしています。フェーズとしても広告宣伝で新規の利用者を増やすのではなく、ロイヤルユーザーにいかに私たちの価値を提供できるかだと感じています。将来はもっとカジュアルにコンディショニングや健康寿命延伸のための仕組み必要になってくるかと思いますが、現在は足場をかためることに専念しています。

このように私たちが目指す事業の未来には「リアル店舗」×「コミュニケーションのマネジメント」×「AI」一つたりとも欠かすことはできませんし、それぞれを掛け合わせて掲げている事業ビジョン「健康寿命の延伸」を実現し、成し遂げられる事業だと考えています。とはいえ、コンディショニングという文化を全国に作っていくことにもなりますから、前途多難なのは理解しています。一瞬のブームやトレンドを作るのとは異なりますからね。「社会課題の解決」という大きなビジョンを掲げ、事業を長い目で見つつ、部署内、社内、外部に啓発していかなければ成し遂げられないと思っています。

 

■試行錯誤のチームビルディングと新規事業

一度も事業を作ったことがないキャリアだからこそ踏み出せた

私のキャリアは、いわゆるコーポレート部門。事業を自らの手で作り出したという経験はありません。「ウェルネス」の事業計画を笠原さんに話した際も「壮大なプロジェクトですね。」との感想でしたしね(苦笑)。Webサービスやアプリを一つ作るのとは異なり、店舗も作る、アプリも作る、身体を計測したり評価するためのアルゴリズムも作る、トレーニングメニューも100種類以上作る。ある意味怖いもの知らずだったからこそできたのかもしれません。事業を作ったことがある方なら、もう少しコンパクトに事業計画をたてるような気がします。

チームメンバーを集める際は、「ビジネスとして社会課題を解決する」という熱意を伝えることに専念しました。併せて世界的に見ても「永続的に成長する事が見込める事業領域」で事業開発に携わることで、21世紀を生き抜く知見や技術を学べる点、社会課題を少しでも解決できたら、それ自体が生きた証にもなるという点を伝えてメンバーを集めていきました。

 

プロフェッショナルに助けてもらっている

ただチームビルディングについて、私個人としてはまだまだ足りていないところばかりだと感じています。今部内は10数名ですが、スペシャリティを持ったメンバーが集結してくれて、一人で数名分パフォーマンスを発揮してもらっている状況です。ここからシナジーを生み出すような仕組みづくりをいかに出来るかが、私の課題でもあります。だからこそメンバーには感謝しかないですね。

逆に考えると、個々のメンバーはやり切るという強い意思を感じます。例えば、AIの技術を取り入れる点も事業計画当初はセンサーの利用などを考えていましたし、今の事業の形が見えるまで、ソフトもハードも様々な手段をスクラップビルドする紆余曲折がありました。それが今のサービスまで磨き抜けたのも社会課題の解決をゴールとして考えていたのが大きかったと思います。部内の行動指針「ABCDE(A=Awesome 周囲から「すごい奴だ」と言われる、B=Be ambitious 志をもつ、C=Curiosity 知的好奇心をもつ、D=Do first 真っ先に一歩踏み出す、E=Enjoy it 自ら楽しむ)」を定めたのも結果的によかったのかもしれません。それによって、志や好奇心を持って課題を解決するためのアイデアをメンバーが探求していってくれたからこそ、今のビジネスモデルが見えてきたのだと思っています。

マネジメントスタイルとして別の観点からもう一点。以前は事業構想を考えたのが私だったため、メンバーからの質問や提案は全て私個人がジャッジしていました。この進め方の時は正直あまりうまくいっていなかった気がします。そこから、少しスタイルを変えて、質問や提案に対して私が対応するのではなく、「〇〇さんどう思いますか」「□□さん、考えを聞かせてくれませんか」とメンバー間で議論する体制にしました。私が質問に回答すると上からの指示になります。しかし、メンバー間で議論する体制だと、メンバー間で意思決定をしたという、責任や意識が芽生えてきます。ここで気づけたのは、リーダーに求められるのは「常に正しく導く」という役割ではないということ。リーダーが「正しさ」を振りかざすと、チームは弱くなる気がしています。「ココサイズ」のオープン日も私が指示したわけではなく、メンバーで決めて実行しました。マーケティング活動や販促活動においても、自発的に提案があり、実行してくれています。この変化によって、上からの指示ではなく「自分たちの意思で決定をした」という傾向が強くなったかもしれません。まだまだプロダクトもチームも発展途上なので、これからも試行錯誤していきたいと考えています。

ウェルネス領域 執行役員 荻野 泰弘
2005年、株式会社マクロミル入社。財務経理本部担当執行役員として、東証一部上場企業の財務全般(財務・経理・IR)に携わる。2008年、ジェイマジック株式会社に入社し、取締役CFO経営管理本部長に就任。2009年12月、株式会社ミクシィに入社し、企業買収、合弁会社設立等、投資全般(戦略投資・純投資)の担当を経て、2011年11月より、経営推進本部長に就任。
2012年6月、当社取締役就任。 2018年4月当社執行役員ウェルネス領域担当。(現任)

 

※記事内容についてはインタビュー時点のものです。

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