コミュニケーションサービスは、作り手とユーザーの熱量で作られている 【後編】

コミュニケーションサービスは、作り手とユーザーの熱量で作られている 【後編】

モンスターストライク」(以下モンスト)の生みの親である代表取締役社長の森田、取締役の木村、そして「Find Job!」、「mixi」、家族アルバム「みてね」を生み出した取締役会長の笠原にミクシィグループが大事にしている「コミュニケーション」について様々なテーマを設けて対談を実施。

前編では、「コミュニケーションサービスを創る理由と、サービスの未来」について様々な話が出てきました。後編では、「組織とコミュニケーション」「家族とコミュニケーション」というテーマで対談を実施しました。
(写真左:取締役会長 笠原健治 中:代表取締役社長 森田仁基 右:取締役 木村こうき)

家庭の顔…実は…

━━━━前編の話と変わり、今度は「家族とコミュニケーション」についてお聞きします。特にお子さんが生まれてから劇的に変わった部分などはありますか。

森田 僕の場合、結婚してから子供を授かるまであっという間。子供が生まれてから、妻とのコミュニケーション量は増えた気がするし、子供中心の話題、特に家族の将来について話すことは劇的に増加したね。夫婦歴が長い木村さん、女の子が二人いる笠原さんのところとはまた違うかもしれないけど。

木村 妻と二人家族だった時代はお互いにインドア派でしたが、子供ができてからは、毎週出かけるようになりましたね。先日も土砂降りの中、品川水族館に行きました(笑)。

どこに出かけても、仮に近くの公園だとしても子供がいるだけでテーマパークになるというか。子供がいる、いないで家族間のコミュニケーションが変わったわけではないのですが、息子に色んなモノを見せて刺激を与えたいって思っていますね。

今は一方的に連れてくいく形ですが、その彼をただ見ているだけで学ぶことはたくさんあります。会話だけがコミュニケーションではありませんし、その空間を一緒に共有するだけでお互いに経験が深まっていく、そのようなスタイルのコミュニケーションもあるんだろうなとは思いましたね。

笠原 結婚前後で、私の価値観が少し変わった気がします。部活が体育会系だった影響もあり、つらい思いをどれだけできるか、という我慢を是としていた価値観だったんですね。しかし妻は楽しいことややりたいことをやるという価値観でして、努力や頑張りは前提の上どれだけ自分が楽しめるかや、やりたいことを追求していけるか、二段構えでやっていけばいいんじゃないかって価値観にシフトしました。やっぱり楽しいとかやりたいを中心に考えて生きていかないと最終的にはいい結果が出せないなという気もしますし。

森田 嫌なことはやらなくていい、みたいな。

笠原 そうですね(笑)。幼少から人生はマラソンだとさんざん言われて育ったので、奥さんの楽観的価値観を尊重してもいいんだっていうのは、大きな気付きだったので。

木村 羨ましい。そんな楽しく生きてるなんて。木村家は「人生はつらいものだろう」、という非常にストイックな感覚なので羨ましいです。

一同 笑。

━━━━家族とのコミュニケーションで気を付けている点などはありますか。

森田 結婚すると家族は運命共同体なので、折り合いを付けるようにはなりますね。感情的にならずに粛々と「すみません」って(笑)。

木村 基本です。

一同 笑。

木村 時には言い返すときもありますが、基本は森田さんと同じですね。

笠原 一歩余裕を持って相手のことを思いやるといいような気がしますね。自分や奥さんに精神的余裕がない場合に衝突しそうになりますので。基本的に家族みんながニコニコしていられるようにしていたいなってくらいですかね。例えば、今子供がやんちゃな時期なので、それに合わせるようにはしています(笑)。

森田 笠原さんが、ですか。

笠原 はい(笑)。

森田/木村 意外…。

木村 追加で、これは個人的な意見ではありますが、子供でも夫婦でも一方的に喋らない、尊重する対話が大事なスタンスだと思いますね。

森田 それはありますね。変に気を使わせたり心配させたりしないように、できるできないを素直に話すようにはしているかな。期待値が膨らみ過ぎてもダメだから、その辺は意識しているというか、気を付けるようにはしていますね。

 

組織コミュニケーションのあるべき姿

━━━━家族間のコミュニケーションは様々な形があって本当に面白いですね。話題を変えまして、「組織間のコミュニケーション」について、普段から意識していることはありますか。

木村 相手のことを尊重しながらコミュニケーションをとるよう心がけていますね。僕が上司の立場としても部下の立場としてもへりくだりをし過ぎない、相手も自分自身も尊重し、フラットというよりもあくまで対等に意見を主張する、専門的な言葉でいうとアサーティブコミュニケーションですね。XFLAG スタジオの長として、方向性を指し示しスタッフみんなに伝えていく役割は担いつつも、それを常に意識しています。

加えて、部下への指示を出す際に自分なりの解答を用意するようにしています。質問があった場合に一つの解答例を出し、方向性を指し示すためにです。とはいえ、課題がでたらスタッフには「まずは自分で考えてみて」というコミュニケーションをとります。このコミュニケーション方法だと、プロ意識を持っているスタッフであれば、こちらが考えている以上に素晴らしい提案やアウトプットが出て来る可能性が高いですから。

笠原 日頃からスタッフ自身が、プロジェクトを極力自分事にしてもらえるようなコミュニケーションを心がけています。本人が当事者意識を感じてもらえると、パフォーマンスを発揮しやすくなると思っているからです。これはサービスの例になりますけど、SNS「mixi」があれだけ盛り上がったのは、各ユーザーがサービス内で主役を感じてのびのび立ち振る舞うことができたような感覚に少し似ている気もしています。そのため、できるだけスタッフがやりたいことと会社としてやってほしいことをすり合わせしながら、できる限り任せていくスタンスです。
では、具体的にどんなコミュニケーションをとっているかといえば、例えばですが、仕事を依頼したスタッフのアウトプットを見ながら様子を図っていますね。私の期待値を超えたアウトプットであれば信頼してお任せしていきますし、もうちょっと必要かなという場合は、サポートや多くのヒントを出しながら、成長できるようなコミュニケーションを心がけています。


森田 僕の場合は、コミュニケーション量に着目しているね。週に何回も役員や部長陣と顔を合わせているけれど、トピックがないなんてこともある。それでも顔と顔を突き合わせて話すってことを意識的にやっている。トピックがない場合は、メンバーの子供の話からスタートして、最終的にはちょっと真面目な話して終わるって感じで(笑)。というのも、過去の経験から人ととにかく話していると、長所が見えてくる可能性が高いんですよ。昔、子会社の役員だったとき、仲間とよく飲みに行っていました。そこで個々のパーソナリティーやマインドをなんとなくだけどつかんでいたね。

木村 そういえば、デスクのパーティションをとりましたよね。

森田 そうだね。スタッフはメンバーの顔が目の前にあると集中できないかもしれないけれど、個人的にはパーティションの有無で話しかけやすさが格段に違うと思っているんだよね。コミュニケーションロスやミスで、些細な勘違いや意見の相違が発生する場合が多いですよね。そのため昔「mixi」のゲーム企画を担当していたとき、パーティションを取っ払うことから始めたんだよ。とにかくメンバー間の顔が見える状況を作った。そうするとこれまで不明だった仲間の仕事が互いに見えてくるようになったし、自然とコミュニケーションをとりやすい雰囲気になってきた。物理的な壁が無くなって、コミュニケーションが発生しやすくなったのだと思うよ。

━━━━相手を尊重する、自分事と認識してもらう、量をとる、業務をスムーズに進めるためや組織の強化において、色んなヒントになりそうです。

森田 組織強化であれば、少し話は変わって適材適所が関係しているんじゃないかな。スタッフみんなが得意な仕事でパフォーマンスを発揮できる環境を、用意できないともったいないし、会社として整えないといけない。誰が何を得意としていて、どのポジションだったら活躍できそうだという組み合わせは常に意識しているよ。先ほどの話につながるけど、スタッフとのコミュニケーションの中から、「○○さんは△△のポジションだとパフォーマンスを発揮できそうだ」という組み合わせが見えてくることがある。結局人間誰しも好きなことをやれていれば能動的になる。あんまり派手なことじゃないんだけど、組織強化や組織の課題解決につながっていくと考えている。

笠原 そういえば、XFLAG スタジオは部長陣での朝会を毎朝実施しているんですよね。

木村 そうですね。

笠原 その様子を見ていて素晴らしいなと思っています。部長同士がしっかりコミュニケーションがとれていると、仮に現場間で何か起こったとしても、問題の理解や早期解決につながりやすいんだろうなという気がします。それだけ情報が透明に流れているわけですし。

木村 人数が多いからこそ、そのあたりのコミュニケーションには気を付けるようにしています。組織強化の話で、これはスタッフ一人ひとりに意識してほしいのですが、誰のためにサービスを作っているのかっていうのを明確にするのが重要ですね。わかりやすくいうと私の承認をとるための仕事はしてほしくないです。エンジニア、デザイナー、マーケター、プランナーなど職種を問わず関わる全員が「ユーザーを意識」さえしていれば、業務の優先順位を間違うこともないし、納期ギリギリになっても士気が下がらず、やり遂げる意思が継続できるはずです。

笠原 ユーザーを意識する点は私も同感です。「みてね」事業部では、リアルイベントなどユーザーと接点を作る機会を設けていますからユーザー像を明確に意識するようにしています。

森田 社内の人を見て仕事していたらダメだよね。何をユーザーに届けるのかを意識していれば、目指すべきところが一つになる。すると余計なマネジメントが不要になって、クリエイティブや開発に集中できるし、結果、生産性の向上、そしてより素晴らしいサービスにつながる。だからこそスタッフみんなが目的を意識するためのコミュニケーションは、必要不可欠だと思うね。

━━━━組織強化はどこの企業でも課題だと思いますが、今社内の課題について、感じていることはありますか。

笠原 会社のスタッフがたくさん増えているので、顔見知りになる機会が減ってきましたね。問題意識や課題解決に向けた議論についてスタジオを超えた交流をやっていきたいですね。飲み会や勉強会を開催してもOKですし、合宿などもいいかと思います。理想は、自発的な形がいいですね。問題意識がとても明確で解決したいって思いが強い人であれば、社内の有志に声をかけて勉強会の開催などを恐らく自発的にやっているだろうし。私自身もそうでありたいですから。

木村 私も部署間のコミュニケーションっていうのはすごく重要だと考えています。例えば、1フロアにスタッフ全員が集まっているときは、お互いの顔が見えますので、何を考えてるか慮ることができるんですけど、普段から顔を見ていない状況になってしまうと、そこの人たちへの意識っていうのがすごく薄れてくるんですよね。XFLAG スタジオは、フロアに全員集合して朝会を開催していますが、いずれ限界もきますから対策を検討中です。解決策の一つとしては、各フロアに大きなモニターを用意して、他の部門の取り組みやニュースを流してみるとかいいんじゃないかとは思っていますが。他部署に対しての意識を強めていくのも大事だろうって。

森田 今社内でやっている全社総会や年末のYear End Party(忘年会)など、トライ&エラーでやっていくしかない気もするね。特に社内イベントや福利厚生などは、機能し続けないと意味がないし、その見極めを誤ると管理コストだけがかかってしまうからそれだけに頼ってしまうのも違うだろうね。笠原さんが言うとおり、社内で自発的に何かをやろうとする人が次々に生まれ、継続されるほうが健全だと思う。それを仕組み化できるといいけど、会社側でやり過ぎてしまってスタッフがおせっかいを感じてしまうようになったら、心地よいコミュニケーションバランスがとれなくなるだろうから、本当に難しい。社内活性化の方法……。そうですね、笠原さん主催のBBQ大会でもやりますかね。

笠原 えーと……そうですね(苦笑)。

僕らはコミュニケーションサービスの会社

━━━━最後にミクシィグループの組織としての強さや、その秘訣について教えてください。

森田 代表の視点からいうと、引き出しがたくさんある組織は強いって感じているね。「新しい文化を創る」という目的は一つだけど、サービス領域はスタジオごとに異なっていてバリエーションを持っている点を組織としての強みだと考えている。
XFLAG、フンザ、Vantage、などスタジオごとにサービスの目指す方向やジャンルが異なるから少しずつ文化が異なると思うけど、それぞれ違う文化で色を出していいと思っている。例えば1番バッターから9番バッターまで同じ特徴のバッターを並べても試合では勝てないよね。違う特徴を持っているからこそ戦略として活きてくる。

笠原 私個人としても他のスタジオが頑張っている姿を見て「負けてられない」と思いますし、良い刺激になっています。

森田 組織が大きくなればなるほど、コミュニケーションが生まれにくくなっていくのはよく聞く。少し自画自賛になるけれど、ミクシィグループではコミュニケーションが多く発生していると思うよ。なぜなら、そこら中で仲間とモンストを始め自社のアプリをやっているし、僕を含め役員の席をスタッフと同じ並びにして、いつでも気軽にコミュニケーションがとれるようにしている。コミュニケーションの会社というのに自信を持っていて、その意識を忘れず、会社の仕組みにも取り入れているからこそ、建設的な議論や素晴らしいアイデアにつながっているはず。だから会社としても継続して成長できるのだと思うね。

写真左 取締役 木村 こうき

電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年、株式会社ミクシィに入社。ゲーム事業部にて「サンシャイン牧場」など多くのコミュニケーションゲームの企画を担当。その後モンスターストライクプロジェクトを立ち上げる。2015年1月より、執行役員に就任。2015年6月、取締役に就任。

写真中 代表取締役社長 森田 仁基

2000年、ネットビレッジ株式会社(現 株式会社fonfun)に入社し、モバイルコンテンツ(公式サイト)の企画・運営、コンシューマー向けゲームのプロデュースに従事。2008年11月、株式会社ミクシィに入社し、「mixiアプリ」の立ち上げを担当。2011年2月、サイバーエージェントとミクシィの合弁会社である株式会社グレンジの取締役副社長に就任し経営を担い、「mixiゲーム」を推進。2013年1月、執行役員に就任。2013年11月より、mixi事業本部長としてSNS「mixi」の事業責任者を務めると共に、モンストスタジオエグゼクティブプロデューサーとして「モンスターストライク」の創出と事業拡大を統括する。2014年6月、代表取締役社長に就任。

写真右 取締役 会長 笠原 健治

1997年、大学のゼミで学んだITビジネスのケーススタディや、当時米シリコンバレーにおけるインターネット・ビジネスの興隆に触発され、同年11月、求人情報サイト『Find Job !』を開始。1999年6月に法人化し、代表取締役就任。2004年2月、ソーシャル・ネットワーキング サービス『mixi』を開始。2006年2月、社名を「株式会社ミクシィ」と変更し、同年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。2013年6月、取締役 会長に就任。

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