競輪のリノベーションで、新しい価値を生み出す。『PIST6』の挑戦

競輪のリノベーションで、新しい価値を生み出す。『PIST6』の挑戦

2021年10月、千葉市主催の新しい自転車トラックトーナメント「PIST6 Championship(ピストシックス チャンピオンシップ)」が開幕します。このトーナメントは千葉公園に完成した新しい施設「千葉JPFドーム」の所有者である株式会社JPFと、ミクシィとのジョイントベンチャーである「株式会社PIST6」が共同で運営を行います。

「近寄りがたい雰囲気が強かったこれまでの競輪を、若者や女性も楽しめるスポーツへとリノベーションする」と語るのは、副社長の森田。競技名を『PIST6』と名付け、ここから新たなスポーツエンタメ文化を創り出していくと言います。今回は、ここに至るまでの経緯や森田の想いについて聞きました。

 

 

「賭け事の競輪」から、「スポーツを応援する競輪」へ

──最初に『PIST6』の概要について教えてください。

『PIST6』とは、新たなスポーツエンタメとしての自転車競技です。「スポーツの楽しさ」「エンタメの楽しさ」「付加価値としてのベッティング」、この3つの要素を組み合わせることで、従来の競輪ファンとは異なるターゲット、公営競技や自転車にもまだ興味を持っていない若者や女性でも楽しめる時間や空間を提供していきたいと考えています。

──具体的に教えてください。

まず「スポーツの楽しさ」でいうと、大前提の話になりますが、自転車競技はめちゃくちゃカッコイイスポーツなんですよ。時速70キロにも及ぶスピードで傾斜約45度のコーナーを駆け抜けていく姿は圧巻。レース中の順位争いの緊張感や選手同士の意地のぶつかりあいは、唯一無二だと感じています。

──確かにスリルある競技でもありますね。

『PIST6』においては、そういったスポーツとしての魅力が引き出せるよう取り組んでいます。たとえば、これまでの自転車競技場は、選手と空間を区切って観戦するのが一般的でした。アクリル板や金網で遮断されていたのですが、新設されたドームでは、座席とバンク(走路)からそういった区切りを取り払い、臨場感を持ってスポーツを観戦できる環境にしています。選手たちが目の前を走り去った「音」や「風」をより間近に感じられる工夫をしています。

──他にも工夫があるのでしょうか。

ユニフォームにも特徴がありますね。これまでの競輪においては、走る枠によって色が決まっていたので、どのレースを見ても色が一緒でした。ですが、今回はヘルメット・ユニフォームなど選手たちが選択でき、年間を通して着用してもらうようにしています。選手が自分の個性を表現して、お客さんが選手を覚える。人が人を知り好きになっていく、そんな当たり前のプロセスが自然に起きるように工夫しています。ユニフォームに限らず、WEBやSNSでも、選手をどうやって好きになってもらうかを大切にしていこうと思っています。

──2つ目の「エンタメの楽しさ」についてはいかがでしょうか?

「エンタメの楽しさ」でいうと、ドームでは最新のレーザーなどの照明、音響設備やセンターハングビジョン*を導入。通常であればレンタルで持ち込むような機器を常設することで、エンタメショーとしての演出の最大化にチャレンジしています。最近の若い人たちって経験してきているエンタメのレベルがすごく高いと思っているんですが、そんな目の肥えた人たちでも「行ってみたい!すごい!楽しい!」って思ってもらえるような演出で、熱狂を生んでいきたいと思っています。
*会場の天井から吊り下げている大型のビジョン

──3つ目の「付加価値としてのベッティング」については?

既存の競輪との大きな違いは、1着を当てる「単勝」という買い方ができる点です。通常であれば2以上選ばないといけなかったところを、“この選手を応援したい”という気持ちを表現できる仕組みとして、「単勝」を設けました。100円でも選手に賭けて観戦すると、やっぱり選手と一心同体になれるというか、盛り上がりが違うんですよね。

会場では、推しの選手と出会えるよう選手に関する簡単なムービーを流しており、どのような選手なのかを理解した上でベッティングできます。それによって「お金を増やしたい」だけではなくて「この選手が好き、応援したい」っていう自分の感情が選手にのっかる。そんな遊び方を実現していきます。『PIST6』は、これら3つの要素を組み合わせることで、「賭け事をする」から、「スポーツを応援する」サービスに変えていきたいと考えています。

 

“一人のアスリート”として、競輪選手に光を当てたいと思った

──『PIST6』事業が立ち上がった背景についてお聞かせください。

近年ミクシィではスポーツ領域への挑戦を行なってきました。その理由は、スポーツは一度に多くの人に共感・感動を提供できるコンテンツとして捉えていて、ミクシィがこれまで大事にしてきた「友達や家族と集まってワイワイ遊べる、新しいエンターテイメントの創造」の舞台として、最適だと考えているからです。その中で、スポーツ領域の中でもまだまだ可能性を秘めているスポーツベッティングに目を向けたとき、競輪に出会いました。

一方で、競輪の市場は、最大2兆円あった市場が現在は約7500億円と減少しているのも事実。その大きな理由が若者といった新規のユーザーを増やすことに苦戦している点です。そのため、年々市場が縮小している状況があったんですよね。

そこでオンラインの取り組みとして、友達と一緒に楽しめる競輪アプリ『TIPSTAR』を2020年にリリース。そして今回は、競輪そのものを今の若い人に向けてリノベーションしようと『PIST6』を実現させました。

──なるほど。森田さん個人としては、どのような想いがありましたか?

私自身、これまでスポーツベッティングを全くしなかったので、正直に言うと競輪と聞いても感覚的に分からない部分が多くありました(苦笑)。おじちゃん達が大きな声を出しているイメージというか。

──正直、一般的にはそのようなイメージがありますよね。

ええ。ですが、今回、この事業を手掛けるにあたって「競輪」というスポーツを目の当たりにした時、これまでの価値観がガラッと変わりました。競輪選手の走りを見て、“本物のアスリート”だと感じたんですよね。選手たちが積み上げてきた日々の努力、レース本番でのスピード感や緊張感、気合、選手同士の駆け引き…そこには思いきり感情移入できるストーリーがある。変な感想なんですけど「なんだ、スポーツじゃん!楽しめるじゃん!」って思ったんです。

──他のスポーツにも負けないドラマがあると?

そうです。ただ、ちょっと分かりづらいというか、選手も多いしルールも複雑だと思いました。覚えたら楽しくなるんですけどね。

始めてしばらくは、全然知らない初めましての選手の過去の戦績を見て、分からないなりにただベッティングしていたんですけど、そうなると選手がどんな人なんだろうとか全然知りたいとか思えなくて、いつの間にか言い方がすごく悪いんですけど選手を「ギャンブルの駒」みたいに思っている自分がいました。

でも、レースを見に行ったり選手にインタビューさせてもらうと、アスリート魂を感じました。彼らの凄さに気づいた時、一人ひとりにもっとスポーツ選手やヒーローとしてスポットライトを当てたいと強く感じたんですよ。そして人気選手が生まれて、自転車が好きな人が増えたり、競輪選手になりたいという子どもがもっと出てきたり…そんな世界をつくりたいというのが、根底にある想いですね。実は『PIST6』という名前の「6」にも、そんな意味が込められています。

──「PIST」はピストバイクが由来だと想像できたのですが、「6」にはどのような意味が?

競輪は1レース「6人」で行う競技で、250mのトラックを「6周」するスポーツです。「6」がキーになっていると感じましたし「6人全員が主役でかっこいい」という意味も込めたかったのが理由です。

──どういうことでしょう。

着順を競う競技ですから、1着であることが正義です。それは絶対的なことではありますが、そこだけではなくて“一人のアスリート”としての個性、かっこよさにも注目できる競技にしていきたかった。1位はもちろん、2位、3位…それぞれの選手の魅力があるし、それぞれにストーリーがある……そんな意味合いにしたかったんです。

 

大事なのは「自分がやりたい」より「事業を大きくするには?」の視点

──競輪の価値観を変革する新事業…大変なことも多かったのでは?

本当にその通り、大変なことばかりでした(笑)新しいことをやろうとするには、乗り越えなければならない壁がいくつもありますから。業界のこれまでの慣習や価値観に対峙する場面も多く、そこはとても苦労しましたね。

──どうやって乗り越えていったのでしょう?

「これをやって乗り越えた」という方法はないですが、一つ言えるのは、「目的を見失わないこと」じゃないでしょうか。苦しい時ほど、僕らが実現したい世界ってなんだっけ?と振り返り、『PIST6』に関わる全員で同じ目標を見定めてきたように思います。

歴史の長い世界ですしこれまでのやり方があるから、そこに乗っかったほうが楽だなと感じることはたくさんあるんです。でも、ここで妥協したら、絶対に思い描いていた未来は来ないぞ、と歯を食いしばる。新しいスポーツエンタメを実現することで、新たな文化をつくっていく…そこに向かっているかを確認しながら、少しずつ前に進んできた感じですね。

──この考え方は、事業部のメンバーにも共通しているものでしょうか。

それはあるんじゃないでしょうか。『PIST6』事業で力を発揮しているのは、“事業を大きくしよう”という野望がある人たちですね。自分の職種や得意分野にこだわらず、事業として必要なことは何か、足りていないものが何かを考えることができる方だと思います。

──「会社の新規事業」ではなく、「スタートアップ」として捉えているように感じました。

その感覚は正しいと思います。誤解を恐れずにいえば、自分が何をやりたいとか、極めたいとかいうよりも先に、事業をどうしたいのか、どんな世界を実現したいのか、の目線を持てる人のほうが『PIST6』の現フェーズにおいては絶対に楽しめると思いますね。欠かせない考え方だとも思います。

──確かに。

実際に現場では、「その事案に関しては任せた、自分の判断で進めておいて」という場面が多くあります。それを丸投げされたと捉えるか、自分でやれるチャンスがあると捉えるか。私たちが求めているのは、間違いなく後者です。

競輪をリノベーション、つまり既存の価値観を変えていく取り組みですから、難易度は非常に高い。けれどその挑戦は、めちゃくちゃ面白いことだとも思っていますね。

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