前向きに、誠実に心を通わせて。PMWVを「文化」に変える挑戦とマネジメント哲学


- 加藤 里紗
- 前職では人事部で労務・新卒採用・育成業務を経験し、総合企画室では組織力強化や要員計画などに従事。2020年にミクシィ(現MIXI)に入社し、人事戦略部で人事制度の見直しや評価制度の運用、経営人材の強化、サクセッションプランニングなどに取り組み、今年4月に部長に就任。

- 杉山 潤
- スマホゲームの制作会社でWebサイトやソーシャルゲームの企画・運用に携わった後、2021年にミクシィ(現MIXI)に入社。「TIPSTAR」の事業企画を担当し、企画グループのマネージャーを経て、24年からTIPSTAR事業部の部長として活動中。
「MIXI AWARD 2025(以下、AWARD)」で、企業理念 PMWV(※)の実践を後押しした部室長やマネージャーに贈られるPMWV賞 マネジメント部門。このほど受賞した人事戦略部の部長 加藤 里紗とTIPSTAR事業部の部長 杉山 潤が、前向きに誠実にメンバーと心を通わせながら理念の浸透をめざしてきた道のりや、チームに生まれた変化を語ります。
※PMWV……MIXIの企業理念。PURPOSE「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」MISSION「『心もつながる』場と機会の創造。」MIXI WAY「ユーザーサプライズファースト」VALUES「発明・夢中・誠実」
「ポジティブ・エナジャイザー」と「誠実の人」。背中で語り、チームの空気を変える
数多く在籍するマネジメント層の中から、見事栄誉に輝いた二人。そのうちの一人、加藤はAWARDの事務局として運営に関わる立場でありながら、自身も受賞者として名を連ねることになりました。
杉山もまた、自らの受賞について驚きを隠しません。
二人に共通しているのは、「PMWV」を体現しようとする揺るぎない意志。日々実践する中で、もっとも大切にしていることを語ります。
加藤:私は「ポジティブ・エナジャイザー」という言葉をいつも心に留めています。組織にそういう人がいると、ポジティブな空気が広がって、みんなが前向きな姿勢になるという概念です。前職時代にある記事でたまたま目にした言葉で、自分もこんな人になりたいと思ったのがきっかけでした。そしてMIXIに入社したところ、これってPMWVの「夢中」とイコールなのではないかと気づきました。
ちなみに反対の言葉は「エナジー・ヴァンパイア」で、周りのみんなのエネルギーを奪う人という意味なんですが、どちらの存在でいられるかによって組織として出せる成果や、最終的にたどり着ける場所も大きく変わってくると思うと、やっぱりポジティブでありたいなと思っていて、今では自分の信条にしています。
杉山:私が一番大切にしているのは「誠実」ですね。前職時代にも「真摯であれ」というバリューがあって、それを大事にしてきたんですが、仕事をする上で、もっと言えば生きる上での「究極の価値観」なんじゃないかと思っています。誠実であればだいたいのことはうまくいく。逆に、誠実でなければ、ほとんどのことはうまくいかないですよね。今回私を評価していただいたのも、その考えがマネジメントや成果に反映されているからなのかなと感じています。
結局のところ、嘘をつかない人や、何事にもきちんと向き合って取り繕わない人、素直な人のところには自然と人が集まってくるし、チャンスや仕事は巡ってくる。それは自分のこれまでの経験を振り返っても、周りの人を見ていても強く感じます。
こうして二人が率先してPMWVを体現し、背中を見せることで、チーム全体に自然とよい影響がもたらされています。
加藤:私がポジティブな姿勢でいることで、周りのみんなも同じような考え方になってくれていたら嬉しいですね。 周りのメンバーはもともと意欲的で誠実な人ばかりなので、幸いなことに私から何かを指摘する場面はあまりなくて。「これに挑戦してみたい」というメンバーに、「いいね、一緒にやろうよ」と自然に言えるような私でいられたら、組織はきっと前に進んでいくし、いろんなことにチャレンジできている状態なんだと思います。私が特別リードしたり引っ張ったりしなくても、メンバーの想いや行動がどんどん膨らんでいく。そんなふうに、そっと背中を押せていたらいいなと思っています。
実は最近嬉しいことがあって。難しいテーマを扱い、社内でさまざまな方との調整が必要な仕事を任されていたメンバーが「加藤さんのような上司がいることで、難しいことにもチャレンジしようと思えます。やれそうな気がしてきました」と言ってくれたんです。それは自分がめざしているマネジメント像そのものだったので、本当にありがたい一言でした。
杉山:部内を見渡すと、意欲が高く、内発的動機から夢中になって「夢中」「発明」「ユーザーサプライズファースト」を実践しているメンバーがとても多いと感じますし、あらためて一緒に働く仲間に恵まれているなと実感しています。
私は普段、事業部長として意思決定をする場面が多くありますが、すべての材料を集めた上で、バイアスなく誠実に判断することを大切にしています。その判断にメンバーも納得し、次のステップに進み、また夢中になれているとしたらこんなに嬉しいことはありません。
何ごともまずは傾聴から。メンバーの「夢中」をサポートし、事業成果の最大化へ
それぞれの部署を率いる立場として、日々メンバーと向き合う二人。マネジメントの中で、PMWVの価値観をどのように活かしているのかを話します。
杉山:メンバーの行動やチームで作ろうとしているプロダクトが、PURPOSEである「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」や、MISSIONの「『心もつながる』場と機会の創造。」に沿っているかどうかを判断基準にしています。すべてを満たすのが難しい時もありますが、それでも「私たちはなぜ、この事業をやっているのか」「何のために私たちはこの世に存在しているのか」は常に立ち返るべきところだと思っているんです。
これは、いい意味でも悪い意味でも「こうすればいい」という明確なHow(手段)が定まっているわけではありません。たとえば「『心もつながる』場と機会の創造。」と言っても事業のドメインやフェーズ、ターゲットによってアプローチは変わってくるので、だからこそ各事業部がこのテーマと真剣に向き合い続ける必要があると感じています。そこから逃げることなくチームとして事業戦略を練り、意思決定できるかが重要で、私自身も逃げずに向き合い続けようと、いつも自分に言い聞かせています。
加藤:私たちは、PURPOSEやMISSIONを直接達成するというよりは、そこに向けて取り組んでいる事業部の方々を支える立場です。たとえば「発明」についても「人事で発明するってどういうこと?」と思っているメンバーがいるかもしれません。ルーティン業務も多い部署ですが、安易に前例踏襲や常識的なやり方を選ぶのでなく、「もっといいやり方はないかな」と考えたり、会社の方針と照らし合わせて「この判断でいいのか」と自分に問い直したりする姿勢を日々意識しています。そして、その姿勢をメンバーに示すようにしています。
今、人的資本の情報開示やMCS(MIXIらしいコミュニケーションサービスを共通言語化する取り組み)といったプロジェクトを通して、人事として未開拓だった領域に踏み込み始めています。その中で議論を重ねるうちに、MIXIが掲げるPURPOSE・MISSIONと人事業務との結びつきがようやく見えてきました。MIXIがめざしていること、世の中に提供したい価値を考えた時に、そこから逆算して従業員の働き方はどうあるべきか、人事の仕事はどうあるべきかを日々追求しています。
そして二人は、メンバーがPMWVを実践できるよう、丁寧なコミュニケーションを通してサポートを続けています。
杉山:メンバーに対してはとにかくアサーティブであることを心がけていて、何ごとも傾聴から始まり、傾聴に終わると言っても過言ではありません。何をやりたいのか、なぜやりたいのか、最終的にはどうしたいのかという意図を聞いた上で、ロジックが組み上がっていなければ必要な材料を提供したり、整理を手伝ったりして、道筋をつけるというサポートをしています。
ただ、メンバーたちが夢中になった結果、それぞれの「やりたいこと」が必ずしもかみ合うとは限りません。そんなときは、なぜやりたいのかを丁寧に聞いた上で「事業としてはこういう判断をした」「今はこれを優先したい」とこちらの考えを明確に示し、できるだけ納得して次の「夢中」につなげてもらうように意識しています。何ごとにも夢中なメンバーが多く、どれだけ夢中でい続けてもらえるかが事業の成果の最大化につながると思っています。
加藤:私は、部長以上の皆さんとの会話や、経営陣から人事に対して寄せられる期待など、自分のもとに届いた情報はできる限りメンバーにもシェアするようにしています。メンバーのみんなには同じものを見て、同じことを感じながら、やる気をもって取り組んでほしい。だからこそ、情報が自分とメンバーとの間で分断されないようにしたいんです。
もし、私が「この情報はメンバーに言いにくいな」とか「『もう少し、こうしたほうがいいよ』と指摘したいけれど言えない」と感じたら、それは相手を信頼できていない証拠で、危険なサインだと自覚するようにしています。私が普段から「何でも言い合えるような関係でいたい」と思いながら活動していたら、メンバーも心に壁をつくらず接してくれて、隠しごとのない率直な関係でいられるんじゃないかなと思っています。
迷い、悩んだ時にはPMWVに立ち返る。臆することなく正しい選択をしてほしい
PMWVを後押しするために、加藤と杉山は日々工夫を凝らし、小さな実践を積み重ねています。
加藤:メンバーとやりとりする際には、PMWVのワードをあえて口にしながら意識づけしていますね。ある対応でつまずいたメンバーから「この先、AかBかどちらのやり方をしたらいいでしょうか」と相談された時には「Bの方が時間はかかるけれど、相手にとってはより誠実さを感じるだろうから、そちらでいこうか」とアドバイスしたり、「この案件がうまく進んでいなくて」という困りごとがあれば「難しいけれど、解決できるアイデアを出せたらいいね。今こそ、発明が必要とされているシーンだから頑張ろう」と励ましたりしています。
毎日働いていると、「誠実に進めたいけれど時間や人手の制約があって」「いいアイデアが浮かばないけど、もうこれでいいや」と流されそうになる瞬間もあります。でも、会社がPMWVを掲げてくれているおかげで踏みとどまり、忖度や制限に左右されずに考えぬいたり、丁寧に対応したりと、本当にあるべき道を選ばせてもらえている、と日々感じています。
杉山:メンバーがやりたいことをどれだけ引き出しているか、状況をフラットに見て、そしてフラットに見ていることをみんなに示せているか、に尽きますね。ここで言う「示す」というのは、言葉で伝えるのではなく、メンバーから何らかの主張があった時に、主語を個人ではなく事業部やチームに置き換えた上で「それってこういう問題が起きているということだね」と抽象化して伝えるというイメージです。
また、どんな事柄でも個人の主張、一つの意見だけですぐに判断せず、必ず多角的に材料を集めてから「中間的に見た時にこう思うよ」と結論づけるように心がけていて、最終判断に至るまでのプロセスとしてできるだけ多くの材料や科学的な意見を示すことで、メンバーに「平等に見てくれている」と感じてもらえたらと思っています。
とはいえ、もしかしたら「もっと平等に見てよ」と思っているメンバーがいるかもしれません。でも、そこはあがき続けるというか、どれだけスタンスを示し、努力し続けられるかだと思っていて。メンバーから時間をもらって「すぐに判断できないからもう少し材料を集めさせてほしい」と伝えるようなやり取りを丁寧に積み重ねていくことで、彼らが「フラットに見てもらえる」という安心感を持ち、ノイズにとらわれることなく夢中になって事業やユーザーと向き合ってくれるはずだと信じています。
二人がめざしているのは、自らがPMWVを体現することで、周りにもポジティブな連鎖を生み出すことです。
加藤:みんなには、迷ったり悩んだりした時には臆することなく正しい選択をしてほしいなと思っています。たまにメンバーから「誠実だと思うのでこちらのやり方をしますね」などと言われると、とても嬉しくなりますね。人事本部には誰かがナイスアクションをした際、コミュニケーションツールで共有される仕組みがあるんですが、「それってすごく誠実だね」「夢中でいいね」みたいな反応が並んでいて、いい循環が生まれているなと実感しています。
一方で、私は人事の立場として、部内だけでなく社内全体へのPMWVの浸透をめざしている中で、AWARDの劇的な変化を感じています。初めてPMWVを軸として開催された2023年には、PMWVの発表からまだ1年もたっていなかったので、社内でもなじみがなく、推薦数も少なかったですし、受賞者も「私たちでいいの?」と戸惑っている様子もありました(笑)。ところが2年目からは、受賞者の選出がごく自然にできるようになり、受賞者自身も受賞式の壇上でPMWVへの想いを熱く語るようになって、3年目の今年はさらに定着したという印象です。
杉山:たしかに、以前だとPURPOSEやMISSIONの内容を言えない人がわりといましたが、AWARDのおかげでかなり浸透しましたよね。やっぱりあの場でPMWVのワードを繰り返し伝え、実践した従業員を大々的にたたえていることが大きいのだと思います。
私は、日頃の行動を判断する時にわかりやすいのはVALUES だと思っています。「あの人、夢中だな」「誠実だよね」と話すことも多いですし、新卒1年目のメンバーにとっても、VALUESが当たり前に浸透しているという状態をつくっていきたいですね。そして2年目、3年目の先輩たちが、ごく自然にVALUESを実践するようになれば、それを見ている新人もきっと、おのずと身についていくはず。最終的には私やマネージャー、リーダーが問いかけなくても、メンバー同士でPURPOSEやMISSIONを判断軸にして話し合えるようになればいいなとイメージしています。
管理者がいなくても事業が回り、成果が出る。それが究極のマネジメント
PMWVがMIXIの文化としていっそう浸透していくために、今、必要なことは何か。二人はその問いに向き合い、考えを巡らせます。
杉山:PURPOSEやMISSIONを追い続けたことで社会的によい影響をもたらしたという手応えを、定性的にも定量的にもどれだけ手触り感を持って感じられるようになるかが大事な気がしています。「『豊かなコミュニケーション』を追求し続けた結果、私たちは潤ったよね」とか「『心もつながる』場と機会の創造ができたから、きちんと実績につながったね」という事例をたくさんつくっていけたらなと。
ありがたいことにMIXIはこうして長く事業を続けてくることができました。「モンスターストライク」に続く新たな事業の柱を生み出すという成功体験をつくらなければ、いずれ「このやり方でいいのかな」というムードが社内に漂ってしまうかもしれないので、私たちがどれだけ結果を出せるかがPMWVの浸透のカギだと感じています。
加藤:事業としてゴールに至ることが大切ですし、その過程には一つひとつの小さなトライがあるはずなので、それらの努力を見つけてAWARDなどの場でたたえることも重要なんじゃないかと思っていて。PURPOSEやMISSIONに向かって着実に歩んでいる人がいるという事実や、そういう姿勢が大切なんだという考え方が、皆さんの共通認識になるといいですね。
仕事で実践できる最小単位の指針「発明」「夢中」「誠実」をもとに、みんなが自分にできることを真剣に考えれば、一つひとつの行動はそこまで困難なものではないはず。それを地道に続けたり、きっかけを上司がつくってあげたりするのが大事なんじゃないかなと思います。
最後に、杉山と加藤はPMWVの強化に向けて挑戦したいこと、さらには思い描いている理想像について話します。
杉山:私たちの事業は「一人で遊ぶだけではなく、仲間とつながっているから楽しい」ということがKGIに寄与する点が他社との差別化ポイントであって、プロダクトにも反映させようとしています。その優先順位は、事業戦略を練る中で決して落とさないようにすることと、実現に向けてしっかりとリソースを確保していくことは、引き続き意識していきたいなと思っています。
加えて、私はマネジメントや各グループの采配を通して最終的な評価をさせていただく立場なので、メンバーのPMWVの体現度合いを人材登用にも活かしていけたらと考えています。目先の数字の達成と同時に、本人のスタンスについてもきちんと評価していけたらなと思います。
私自身は今後、「どの言動もPURPOSEやMISSIONから外れてないね」と認識され、迷った時には相談される「羅針盤」のような存在になりたいと思っています。ただ、PMWVが完全に浸透したら、私のようなマネジメント層は必要ないかもしれません。今回、マネジメント部門で受賞しましたが、究極の状態って管理者が何もしなくてもすべての事業がうまく回り、成果が出るチーム状態がつくられていることだと思うんですよね。そんな理想に向かって、これからも邁進していきたいです。
加藤:杉山さんのおっしゃるような状態になったら、それは一番夢中を実践できている瞬間でもあるんでしょうね。みんなが同じゴールをめざして、その価値も共有しながら「自分たちの力でやってやるぞ」というテンションで進んでいる時ってすごく楽しいんだろうなと。私自身の人事としてのスタンスは「どうせ働くなら楽しいほうがいい」なのですが、まさにそれが実現されている世界なんだろうなと想像しました。
PMWVは、読めば読むほどいいことが書いてあって、個人的にはVALUESの内容を愚直にやったほうが仕事を気持ちよく進められるんです。最初は「会社が掲げているから」とか「評価制度に取り入れられたから」という理由でもいいですが、最終的にはみんなが「PMWVに沿って進めたほうが気持ちよくやれるし、おもしろいな」とポジティブに感じてほしくて、そのきっかけをたくさんつくっていきたいと思っています。
※ 記載内容は2025年6月時点のものです