ITの力で「心もつながる」場と機会の創造を。MIXIがアリーナ事業で思い描く未来

2025.08.26
赤坂峻一
電気工事やネットワーク分野などの仕事を経て、ミクシィ(現MIXI)に入社。現在、ライブエクスペリエンス事業本部 アリーナ事業部 TBAMグループのマネージャーとしてTOKYO-BAYアリーナマネジメントに出向し、同社の取締役に就任。施設管理の責任者を務め、AIを駆使したアリーナ運営の変革も推進している。

人々の心を熱くするスポーツやライブイベント。その舞台となる多目的アリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」の運営に、IT企業のMIXIが深く関わっています。MIXIはなぜ「箱」の運営に乗り出し、そしてどのような未来像を描いているのか。アリーナ事業部のTBAMグループでマネージャーを務める赤坂 峻一が語ります。

「人々のコミュニケーションの場を支えたい」。MIXIがアリーナ事業に込めた想い

MIXIがアリーナ事業を展開するようになったきっかけについて、赤坂は「すべてはプロバスケットボールチーム『千葉ジェッツ』との関わりから始まった」と切り出します。

「MIXIは現在、千葉ジェッツの運営会社の親会社という立場ですが、当時はチームのスポンサーのひとつにすぎませんでした。社内の数名でスポーツ事業推進室を立ち上げ、千葉ジェッツや支援しているプロサッカークラブ『FC東京』との関係を深めつつあったのです。

そんな中、千葉ジェッツの人気が高まり、現行アリーナが連日満員になる状況が続いていました。そこで『もっと大きなアリーナをつくりたい』という声が上がり、千葉ジェッツから『アリーナ建設に向けて協力してくれませんか』と声がかかりました。ちょうどその頃、MIXIは『モンスターストライク』に続く事業の柱を模索しており、木村 弘毅社長が『ぜひスポーツに関わっていきたい』と打ち出したことから、アリーナ建設への支援が動き出します。

当時、民間企業が自らアリーナを建設・運営する事例はほとんどなく、MIXI単独での実現は困難な状況でした。そんな中で運命的な出会いが訪れます。商業施設の設計や運営ノウハウを持つ三井不動産株式会社(以下、三井不動産)です。同社は、自社が保有する土地の活用を検討していた折に、MIXIの持つコンテンツ力に注目。さらに『新たなアリーナでスポーツチームを発展させていく』というビジョンにも共感し、タッグを組むことになりました」

共同事業という形で船出を迎えたアリーナ事業。MIXIがアリーナ運営に携わるのは、「人々のコミュニケーションの場を支えたい」という想いがあるからだと言います。

「スポーツは一人でテレビ観戦するのもいいですが、家族や友人と一緒に会場に足を運び、その瞬間だからこその興奮や感動を共有することで、楽しさは何倍にも膨らむんですよね。スポーツチームが提供するコンテンツやファンとの交流にとどまらず、最寄り駅からアリーナまでの道のり、入場してから座席に着くまで、そして試合が終わって帰る道のりといった一連の体験すべてを、私たちが丁寧に演出して訪れてくださる方々に届けたいと考えています。

アリーナ事業はスポーツイベントだけで成り立つものではなく、試合日以外には音楽興行などライブエンターテインメントにも力を入れる必要があります。そうしたコンテンツを提供する場をつくりたいという三井不動産の想いと、MIXIのテクノロジーを融合させることで、新たなコミュニケーションの価値を生み出していくことをめざしています」

現在、MIXIからアリーナ運営会社「株式会社TOKYO-BAYアリーナマネジメント」に出向し、施設管理部の責任者を務めている赤坂。施設管理はもちろんのこと、「AIを駆使したアリーナの将来像を思い描いている」と語ります。

「運営会社には、コンテンツを誘致する営業部や、建物の維持管理を担う施設管理部、会社経営に関わる経営管理部があり、私は施設管理部をとりまとめています。具体的には、清掃や機械のメンテナンス、修理などの委託業務の統括、コスト管理を行っているほか、映像装置や照明の操作、維持管理についても日々学びながら取り組んでいます。また、私はネットワーク領域の出身なので、アリーナ内の通信ネットワークの構築や、来場者向けのWi-Fi環境整備などに設計段階から携わってきました。

そして今は、AIを活用し『未来のアリーナ』を見据えた研究、検討も進めているところです。場内の人の流れ、たとえば出入り口やトイレの混雑状況をリアルタイムで把握したり、現在地と座席情報をスマートフォンで連携させて来場者の利便性を高めたり。セキュリティー面では、トラブルや盗難が起きた際に場所を特定したり、危険を察知したエリアのドアを自動的に開閉したりという環境を整えていきたいですね。

将来的には、チケットを持たずに顔認証だけでゲートが開き、スマートフォンに座席案内が自動的に届くというような、ほぼ手ぶらで入場できる仕組みをめざしていきたいと思っています」

メンバーは「多国籍軍」。多様な経験を融合させ、チーム一丸でよりよいものをつくる

普段アリーナ事業に携わる中で、赤坂がとくに大切にしているのは「異なる文化、業界の方々とのコミュニケーション」だと話します。

「事業に関わり始めた当初、アリーナの建築設計について不動産会社や建築会社の方々と話しても、専門用語が多くて正直ほとんど理解できませんでした。その場合は、自分が勉強して知識を身につければ解決できる問題です。一方、それは裏を返せば、私たちがIT関連の話をしたときも、相手に十分伝わっていない可能性があるということ。会話のたびに『どんな言葉を選べば相手に伝わるのか』と悩み続けていました。

当時の経験から、日頃より相手の立場に立ち、丁寧にコミュニケーションをとることを心がけています。それができて初めて、異なる専門分野の方々にも自分の考えや意見をきちんと伝えられるし、相手の希望もちゃんと汲み取れる。結果として、やりとりがぐっとスムーズになるんですよね」

このような価値観を持ったのは、ネットワーク関連の会社に勤務していた前職での経験もきっかけになっていると振り返る赤坂。

「社内の営業担当者によっては、WordやExcelはわかるけれどPowerPointは使ったことがないとか、ファンクションキーの使い方がわからないなど、リテラシーのレベルはさまざまです。そういった方々に対して、システムの操作方法を説明する際には、一人ひとりの理解度に合わせ、画面を見せながら伝えるなどの工夫を重ねました」

その後、活動の場をMIXIへと移した赤坂。現在、アリーナ内の事務所に常駐しており、職場の雰囲気については「多国籍軍という言葉がぴったり」とうなずきます。

「TBAMグループには、私のもとに5人のメンバーがいます。それに加えて、三井不動産の方、アリーナ内のメンテナンスを担う業務委託の方、警備スタッフの方など、関わる人は本当に多彩。まさに“多国籍軍”のようなチームです。

もちろん、MIXIとしてのアイデンティティは大切にしていますが、MIXI出身か三井不動産出身かは関係なく、『まずはワンチームで協力しよう』と日々メンバーに伝えています。今まで不動産に携わっていた方や、アプリの企画をしていた方が一緒になって、次のイベントに向けて話し合うのですが、『お互いに考え方が違うから、うまくいかない』という感覚はありません。むしろ、『そういう発想もあるんだ。じゃあ、その考えと自分のアイデアを組み合わせたら、こんなことができるかも』と、ポジティブに捉える雰囲気があります。どうすればもっとよいものが生まれるか、みんなが前向きに考えているんです」

異なるバックグラウンドを持つ者同士でも、円滑にコミュニケーションをとれる職場づくりに向け、赤坂が心がけているのは「言語のレベルをそろえること」。そして、それ以上に「仲良くすること」だと率直に語ります。

「どちらかにしか通じない言葉で話してしまうと、結局お互いがしんどくなってしまいます。だからメンバーには、普段から『相手に合わせて言葉のレベルをそろえる』ことを意識してもらっているんです。

さらに大事にしているのは、同じ職場で働く仲間として仲良くなることです。できる範囲で、一緒にご飯を食べたり飲みに行ったりする機会を増やしていきたいと思っています。シフト勤務なので、全員が同じ時間にそろうのはなかなか難しいのですが、その分、私から積極的にメンバー一人ひとりと個別にコミュニケーションをとっています。タイミングを見て、業務委託や派遣の方にも声をかけ、懇親会を開くようにしているんです」

寄り添うように主催者を支える。こけら落としのライブで学んだ「先回りの親切」

赤坂がアリーナ事業に携わってきた中でもっとも印象深いのは、こけら落としのライブイベントだと言います。

「アリーナ開業から1年がたった頃、メンバーと『どのイベントが一番印象的だった?』という話をしていたところ、みんな口を揃えて『こけら落としのライブイベント』と言うんです。当時、主催者の方から『この照明を点けたい』『空調の操作はどうすればいいか』といったお問い合わせをいただき、そのたびにできる限り早く対応するよう心がけていました。

さらに本番前日には、主催者や関係者の方から『会場を暗転させる演出があるので、移動するお客さまの転倒リスクを少しでも減らしたい。何かいい方法はないか』というご相談をいただいたんです。そこで私たちは急遽、暗闇の中で光るテープを大量に用意し、4時間かけて会場中の段差に貼っていきました。想定外のリクエストでしたが、チーム一丸となって取り組み、最後に『事故なく終えられてよかった』というお言葉をいただいた時は、心からほっとしました」

こけら落としのライブイベントを経て、主催者に対する向き合い方を学んだと語る赤坂。

「アリーナの運営において私は当初、『席は座りやすいか』『施設は使いやすいだろうか』など、来場者の方々に対する意識が先行していたんです。しかしこの経験を通して、主催者が来場者により良い体験を届けられるよう、“後ろから支える”姿勢も大切だと気づいたんです。そうしたサポートによって、来場者に提供できる価値も高まるんだと実感しました」

こうして経験を積み重ねてきた赤坂は、MIXIでアリーナ事業に携わるやりがいについて「予測して先回りし、コンテンツを下支えすること」と話します。

「たとえば、千葉ジェッツがコンテンツの華やかな部分を担っているとしたら、私たちはそれを下支えするのが役目です。試合本番に向けて準備を進める中で、『来場者が転倒しないように光るテープを貼ろう』『人がぶつからないようにこの場所にガードを設けよう』など、主催者が設営しやすいよう『先回りの親切』を積み重ね、サポートすることに大きなやりがいを感じています」

さらに、AIを活用して「未来のアリーナ」を考えるような取り組みができることも、この事業に関わる魅力だと続けます。

「人の流れに加え、アリーナ内の飲食店でどの商品がどれくらい売れているかといった情報も、AIの力で分析していきたいと考えています。そうすることで、バスケットボールの試合日には観戦だけでなく、その前後においしいものを食べたり飲んだり、試合結果を予想して盛り上がったりといった楽しみ方を、来場者に提案できる仕組みをつくっていけたらと思っています。

また、AIによる施設管理の最適化にも取り組みたいです。現在、アリーナ内の各エリアの空調は、専門知識を持つ業務委託スタッフの方々が丁寧に行ってくださっています。将来的には、そのノウハウをAIにも活かし自動化することで、スタッフの皆さんが主催者対応や来場者とのコミュニケーションなど、人ならではの力が発揮できる業務により多くの時間を使えるようにできたらと考えています」

いつまでも驚きを届ける場所でありたい。AIを駆使して見据える「未来のアリーナ」

MIXIが掲げている企業理念の PMWV(※)。赤坂がとくに意識しているのは、MISSIONの「『心もつながる』場と機会の創造。」だと語ります。

「お客さまは、ただアリーナに足を運ぶだけではありません。そこには、大切な時間を一緒に過ごす相手がいて、心に残るひとときがあります。だからこそ『心もつながる場』であることを意識し、会場周辺での過ごし方やアクセスにも気を配っています。

たとえば、ライブが夕方に開演する場合でも、グッズ販売は午前中から始まることが多く、購入後にアリーナ周辺で座って待つ方も少なくありません。そこで私たちは、近くの商業施設などと連携し、1日を通してエリア全体でアーティストの世界観に浸りながら過ごせるような体験づくりをめざしています。会場に訪れるだけでなく、街全体で楽しんでもらえるよう工夫しているんです。

こうした取り組みを、公演ごとに『次はどんな企画をしたら喜んでもらえるだろう』と考えながら続けています。もし私たちの仕掛けが、皆さんの喜びをつなぎ、広げていくきっかけになっているのだとしたら、本当にうれしいです」

一連の仕事に情熱を傾ける中で、「MIXIらしさ」を意識するタイミングも多いと話す赤坂。

「私はエンジニアなので、日頃から豊かなコミュニケーションを実現するために必要なテクノロジーや、実現に向けた道筋について考えています。MIXIはアイデアを実現するための技術力が高く、それこそが、MIXIらしさだと感じています。そしてMIXIには、人と人とのコミュニケーションを充実させるために、皆さんに何かを楽しんでもらうためにテクノロジーを使うという考えが根本にあるところも好きですね」

赤坂はアリーナ事業の今後に想いをはせ、どのように発展させていきたいか、そのために自らが成し遂げたいことについても語ります。

「アリーナ事業で一番大切なのは、『建てたら終わり』ではないということです。多くの方々に楽しんでいただく場であり続けるためには、技術革新が欠かせませんし、楽しみ方のトレンドが変わるなかで、私たち自身がどれだけアップデートできるかが常に問われています。AIも活用しながら、いつまでも新しい魅力を持ち、時にはまったく違う表情を見せて驚きを届けられるアリーナでありたい。それは私にとって、大きなチャレンジでもあります。

将来的には、FC東京が利用しているスタジアムや、MIXIのコミュニケーションサービスとつながりのある競輪場の運営にも関心があります。異なるスポーツに携わり、新しい『箱』の運営を考えていく。そんな未来を思い描くのも、とてもおもしろいことだと思っています」

※ PMWV……MIXIの企業理念。PURPOSE「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」MISSION「『心もつながる』場と機会の創造。」MIXI WAY「ユーザーサプライズファースト」VALUES「発明・夢中・誠実」
※ 記載内容は2025年7月時点のものです

関連記事はこちら

人気の記事はこちら