ミクシィに所属しているクリエイターは、ゲームの新ステージデザイン、キャラクターのイラスト制作、アプリのUI設計…など、日々アウトプットを行っています。では、クリエイターはアウトプットのために普段どこでインスピレーションを得ているのか。
クリエイターの皆さんに、おすすめのインプット術を聞いてみました。
第一回目は、『コトダマン』でTA(テクニカルアート)を中心に活躍する佐々木。“無類のコンテンツ好き”である佐々木に、その膨大なインプットについて聞いてみました。
━━まずはじめに、佐々木さんの業務内容を教えてください。
今は『コトダマン』のTAとして、プロジェクト内のアートチームの負担がある工程を効率化するツールを制作したり、開発チームからのリクエストに応じてキャラクターのエフェクトを作成したりしています。
▲実際に制作したツール。キャラクターやスキルなどのデータに不備がないかを一律でチェックできる
━━開発チームを支える仕事なのですね。
そうですね。ですが、今は開発側の業務も兼務していて、UIや背景、演出系統にも携わっていたりします。
━━業務範囲が広いということは、インプットも幅広く?
はい、結構色々なものに目を通してる方だと思います。PinterestやTwitterでイメージソースを探したり、Web記事やCG系の雑誌を見てチームに共有したり…。あとは、コンシューマーゲームをやり込んだり、映画やアニメを見通したり…色々してますね。遊んでるだけに見えてしまうかもしれないですけど(笑)。ただ単にそういった物を見ている時間が好きなんですよね。
━━その中で最も時間を割いているのはどれですか?
Twitterですね。通勤中もお昼も、ちょっとした休憩の合間も、帰ってからも見ることが多いです。ほとんどつぶやくことはなくて、一方的にフォローして“いいね!”して…見る専門です。
━━どういったものを見ることが多いのでしょうか?
本当に自分の好きな人だけをフォローしているので、動物園のアカウントから、Shaderのノウハウや実験をポストされているような専門的な方のアカウントまで、幅広く雑多にフォローしてます。
━━なるほど。それは日々隈なくタイムラインを見ることでランダムに情報を拾う感じでしょうか?
私がいわゆる“インプット”として行っているのは、Twitterを見ている時よりも自分のいいね欄を遡っている時というか…。
━━どういうことですか?
“インプットでTwitterを見ている”というと、カテゴリを絞ってタグで検索したり、その場で技術的な質問をして教えてもらったり…みたいな方法を想像されると思うのですが、そんなことはなくて。
タイムラインを見ている時は、なんとなく気になる表現や感情が動いたものに反射的にいいねするようにしていて、あまりちゃんと“残しておこう”とか思いながら見ているわけじゃないんです。
━━割と一般的な見方、というか。
そうですね。ただ、2日に一回ほどじっくり自分のいいね欄を遡ると、自分が今何に興味があるのか傾向が分かったり、思わぬ形で仕事に繋がるヒントを再発見したりするんですよね。反射的にいいねしているので、改めてじっくり見ると、気付くことがたくさんあって。“インプット”というと、この時間を指す方が妥当かもしれません。
━━最近の再発見だとどういうものがあるんですか?
具体的には、Shaderで○○のテクスチャの作り方って○○すればいいんだとか、自分がいいねしている人達は最近みんな同じツール使っているな…とか。実際に『コトダマン』に実装した例でいうと、“古代”をテーマにしたステージの表現に困っていた時にそこにヒントを見つけたりとか。
━━どういうヒントですか?
これはTwitterだけでなく、複合的なアイデアでもあるのですが…。
以前テレビで「“お姫様”というワードを聞いても思い浮かべるビジュアルが全然違う」という話をしていて、若年層が思い浮かべるのは、「華やかなドレスを着ていて頭にティアラを乗せているような“プリンセス”」のイメージ、でも年配の方々が思い浮かべるのは「つつましい印象で和服を着たような“かぐや姫”」のイメージ…と、同じフレーズでも世代によってイメージするビジュアルが違うそうなんです。
━━面白い話ですね。
その話を思い出して、「じゃあ例えばコトダマンのストーリーの“過去編”のビジュアルを作るとして、ユーザーに伝わりやすい表現ってどうすればいいんだろう…」と考えて、いいね欄を見返していた時にドット絵の表現を見つけたんです。
レトロなシーンでドット絵の表現をするのは割と一般的だと思うのですが、「ユーザーがさらに“古めかしい”と感じるドット絵」を突き詰めると、昔の携帯ゲーム機の画面なんじゃないかと思ったんです。
━━ほう…?
「ブラウン管で見たドット絵」と「携帯ゲーム機で見たドット絵」は、一見同じに聞こえるのですが、見え方を考慮すると全然違うんです。ブラウン管はドット周辺の“滲み”があるのに対して、携帯ゲーム機は上下にグリッドが走っていて輪郭がハッキリとした表現になる。届けたいユーザーの年齢層を考慮すると“初代のコンシューマーゲーム世代”よりも“携帯ゲーム機世代”かな、と思ったので、「携帯ゲーム機で見たドット絵」らしい表現で実装しました。
▲実際に実装されたステージの表現。あくまでも“擬似的”なドット絵でありながら、古めかしさは充分に感じる表現に
━━いいね欄で見かけたドット絵がそこまで…。
ちょっと遠回りな例で申し訳ないですが(笑)。でも、いわゆる“アイデアの源泉”ってそれくらい些細なものから見つかるのではないかな、と思います。奇抜な表現を見つけて、それをアレンジしたり持ってきたりするとパクリになってしまうので…先にお話したくらいの断片的な“アイデアの種”みたいなものを収集している感じです。
━━そうした“アイデアの種”を集めるのはTwitterが向いている?
個人的にはそう思います!というのも、Twitterは気負わずに毎日出来るから。インプットするぞ、と気合を入れて毎日継続するのは大変ですが、Twitterは流し見しているだけでも日常的に様々なクリエイティブに触れられる。
でも、ただそれだけでは忘れてしまったりするので、2日に1回くらいのペースで自分のいいね欄を振り返る(笑)。そうすると、複数回目にすることになるので、「○○の表現を最近いいねしたな」とか「○○さんが技術的なことについてつぶやいていたよな」とか、ぼんやりとでも覚えておけるんですよね。いざ必要になれば、PCからでもスマートフォンからでもすぐに振り返られるし。
━━いいね欄はカテゴリなどで整理されているわけではないですよね。メモとして使うには使いづらくはないですか…?
整理されていることはあまり重要じゃないんです。いいねさえ押しておけば振り返られるし、複数回見ているのでなんとなくいつ頃見たものか、どのツイートの近くにありそうかは分かります。ほぼ無意識で見た「断片的な“良さ”」を感じるものが“スタックされている”──それが重要な気がしますね。
━━断片的な“良さ”ですか。
ええ。見かけたものをその場で整理したり保存したりして、手元にスクラップブックを作るようなやり方もあります。ただそれだとつぶさな“良さ”を見逃してしまう。一見はリファレンスらしくないものこそ、アイデアの種になっている実感があります。あと、スクラップブックを作るような緻密なやり方だと、少なくとも自分は続けられないですし…(笑)。
━━根気が必要になりますよね。
そうそう。無理して、リファレンスを毎日1時間集めるぞ!と意気込むより、違和感なく毎日習慣づけできるようなツールやSNSを選んで、自分の気になったものをまめに振り返ることのほうが、性に合っていますね。
インプットと聞いて思いかべるものとして、“Twitter”は意外な切り口でした。佐々木が行っていることはとてもシンプルで、普段誰しもが行っているようなSNSの流し見に、「いいね欄を振り返る」という一手間を加えたもの。
印象的だったのは、「反射的にいいねして、じっくり見返すこと」。これらの行為が、無数のアイデアの種を記録する習慣に繋がっているようです。