インプットに欠かせない3つの要素は、見る、感じる、そして◯◯ること~クリエイターのインスピレーション #02~

インプットに欠かせない3つの要素は、見る、感じる、そして◯◯ること~クリエイターのインスピレーション #02~

ミクシィに所属しているクリエイターは、ゲームの新ステージデザイン、キャラクターのイラスト制作、アプリのUI設計…など、日々アウトプットを行っています。では、クリエイターはアウトプットのために普段どこでインスピレーションを得ているのか。

クリエイターの皆さんに、おすすめのインプット術を聞いてみました。

第二回目は、『モンスターストライク』(以下モンスト)のストライクショットや友情コンボなどのビジュアルエフェクトや演出を手掛ける高橋。今回のインタビューでは、どんなメディアやコンテンツを見て、どのように『モンスト』のエフェクトに活かしているのか?に迫ります。

高橋 剛(たかはし ごう) モンスト事業本部 VFXチーム
Webデザイナーなどを経て、ソーシャルゲーム開発会社に入社しブラウザゲームの演出制作を行う。アプリの新規開発に関わったのち退社し、2016年5月ミクシィに入社。以降、『モンスト』のストライクショットや友情コンボなどの演出制作を担当

 

6~7作品のアニメを同時進行でチェック

━━『モンスト』のストライクショットはキャラクターによって、ド派手な演出や笑える演出までさまざまなものがありますよね。幅広い表現力が求められる仕事だと思うのですが、インプットはどのようにされていますか。

『モンスト』ではアニメとのコラボが多いので、アニメをよく見ています。以前はテレビや映画、海外ドラマをよく見ていたのですが、ミクシィに入ってその時間が全部アニメを見る時間になりましたね。

━━全部ですか!

そうですね。例えばコラボする作品の中には一作品で300話あったりもして、事前から見ておかないと開発のタイミングに間に合わなかったりするので。

━━確かに。現在進行形で見ている作品数はどれくらいですか。

今は6~7作品を見ていますが、もっと多いときもあります。少年誌のマンガベースのアニメだったら、将来的に『モンスト』とコラボする可能性もあるので見るようにしますし、そういう作品はしっかり制作されているものが多く、見た目としても参考になるのでチェックしています。アニメを見ること以外にも、美術館を巡ったり、絵画を見たりもしますね。

━━アニメ以外も手広くインプットされているんですね!

よく「一流に触れなさい」と言うじゃないですか。対象となる一流ってモノでも情景でも思考でもなんでも良いんだと思うんです。工芸品であったり、建築であったり、服飾であったり、世の中にある一流と言われるものにできる限り触れ、感じる努力をする。可能なら自分の好みとは別に触れた方がいいと思います。

自分の仕事には直接的につながるわけではありませんが、インスピレーションを養うという意味で、一流に触れるということを意識するようにしています。

たくさんのモノを見て触れることは、その人の感性だけでなく、人間性を豊にしてくれます。そして、それは遠回りではありますが、自身の制作にいい影響を及ぼしていると思います。

━━なるほど。

あとは『モンスト』以外のアプリも遊ぶようにしていて、そのときにTwitterなど何かしらのコミュニティに参加するようにしています。というのも、幅広い年齢層の人がアプリで遊んでいるので、色々な人の興味関心に触れることができるからです。例えば高校生たちが興味を持っていることもキャッチアップしています。今の子たちって、オタクであることを喜んで言いますし、それを楽しんでいますよね。自分が好きな分野についてたくさん語りますし、それと同時に、今流行っている作品を友達から勧められた、ということも書いてくれたりするので、「あ、こういうコンテンツを好きな人がいるんだ」と作品をチェックするようにしています。できるだけ間口は広く持っておきたいですが、誰にも引っ掛からない作品に時間を割くのは非効率なので、少なくとも誰かに引っ掛かっている作品を知るための情報収集としてTwitterなどのソーシャルメディアを見ている感じですね。

━━若い人たちの感性もキャッチアップしていると。

私は言っても若くはないので(笑)、若くないということは感受性が徐々に衰えていく部分もあるじゃないですか。知っているものに対する驚きはどんどん薄くなってしまうので、そうなると情報を取りにいく感度も落ちていくし、自分の知識や見てきたもの、経験したものの中で「あれはこうだよね」みたいな判定を自然としていると思うんですよね。そうすると知ろうという意思がなくなるという不安があるので、自分よりもっと新鮮な若い感性の人たちが興味を持っているものを知りたいんです。新しいものを「あ、いいよね」と思える気持ちがないと、モノを作る人間としての感性が死んでいくと思うんですよね。

━━高橋さんがアニメを見たり、アプリで遊んでいるのは、トレンドウォッチというのが大前提にあって、その上でエフェクトの参考にしているんですね。

そうですね。ただ普段はコラボのエフェクトを作ることが多いので、基本的にはそのアニメ自体から表現を持ってくるようにしています。でも、アニメの演出としてキャラクターの技が映っていない場合もあるんですよね。ワンカットで決めの画がバンと出るだけで、攻撃の前後の挙動がどうなっているんだろう…みたいな。

━━そういうときに初めて、今まで自分がインプットしてきた表現が使えるんですね。

そうです。自分なりのエフェクトを考えて表現するのも大事なのですが、『モンスト』のユーザーが求めていることって、作る側がかっこいいと思うものだけではなくて、自分の好きな作品をどれだけモンストの中で表現・再現してくれているだろうというところだと思うので、そこに重きを置いて作っています。TwitterやYoutubeのコメント欄を見ていると、そういう点に言及してくれているユーザーがとても多いんですよ。

━━「こんな細かい動きまで再現されてる!」とか。

そうそう。だからオリジナリティよりも再現性が重要なんです。アニメの動きを正確に再現するために、何十、何百回と一連のシーンを動画として切り抜いて見直しています。技を表現する特徴的な部分というのがいくつかあるので、その要素を把握して、どう構成していこうか、どう見た目を作っていこうか、と決めていきます。大まかに決めた後は、ディテールを詰めるためにAdobe Pemiereなどの動画編集ツールを使って、ひとコマひとコマ取り出して分析していきます。モンストの画面で見たらどうなるだろうということを考えながら、コマを構成して演出を作り込んでいくんです。

━━気が遠くなりそうな作業ですね…。

アニメの中で同じ技を複数回使っているとありがたいんですが(笑)。異なる演出を複数回使っていれば複数回分全部切り抜いて、どの部分を組み合わせるかを考えていきます。

そして、最終的に、アニメのテイストを担保しつつ、モンストに落とし込む。

そのタイトルのファンの人が見ても、あの技をモンストで表現するとこうだよねと心に落ちる演出を作れるよう注意しています。

 

演出の気持ち良さは、自分で感じること

━━『モンスト』でユーザーが気持ちいいと感じる演出を作るスキルというのはどうやって磨けばいいんでしょうか。

まずはプレイすることだと思います。『モンスト』の中で、VFXチームが作ったストライクショットがどういう風に発動して、敵にダメージを与えているとき、敵を倒したときにどう感じるんだろう、というのを学ぶ。ユーザーに喜んでもらうモノを作る立場と同時に、自分自身もユーザーとしての立場で『モンスト』を思いっきり楽しまないと、“楽しませ方”は分からない気がしますね。

━━自分が楽しいものでないと、ユーザーは楽しめないということですね。

そういうことですね。『モンスト』に関わらず、コンソールゲームやモバイルのアプリでもいいのですが、色んなゲームの中で使われてるエフェクトの意味を考えてみるのも大切です。基本的に演出を作っている人というのは、何らかの意味を持たせているはずなので。

━━なぜこのタイミングでこの演出が出てくるのかとか。

それが分かるようになると、一連の流れを理解できるようになると思います。分解した個々のパーツが、最終的に一つの完成品として形になっているので、分解できる力がついてきたら自分でも作ることがある程度できてくるかなと。

一つの画面の中で全部の要素を入れてしまうと、ただのアニメーションを作っているだけになってしまうんです。ゲームのエフェクトを作るというのは、それぞれが別の要素として存在していたりするので、既存のアニメを分解することでどういう風に分割すればいいのかを吸収していったらいいかなと。世の中的にカッコいいと言われるエフェクトを見てほしいというのは、“気持ちよさ”を感じてほしいからです。その気持ちよさを感じていないと、たぶんいいモノは作れないと思うので。

━━ただ見るだけじゃなくて、感じるというところが重要なんですね。

そして、どういうモノがカッコいいと言われているんだろう、どういうものをみんなが気持ちいいと感じるんだろうということを考えるのが、たぶん最終的にはずっと大事なことだと思います。カッコいい演出を構成している要素は一体何なのか、どうしてその要素をそこに置いているのかとか、なぜそのタイミングで再生しているのかとか、そこまで考えられればたぶんスキルアップにつながるでしょうね。例えば、「今の炎の風の動きってどうなっているんだろう」「ああこういう風に動かしたらこういう風に見えるんだ」という表現方法は自分の中でキープしていくものだったりするので。

色々なものを見て、自分で感じた後は、ひたすらに作りまくること。結局、アプリによって気持ちよさを感じるポイントは異なるものなので、例えば私が『モンスト』以外のプロダクトに携わることになったら、またイチから感覚を掴んでいかないとダメだと思います。

見て、感じた後は、自分の手で作ること。

━━“作ること”がある意味インプットになっている、ということですか?

まさしくそうですね。今まで自分が見てきたものを、今度は新しく作ることで上手く表現できるかどうか。見ることだけでなく、同時に自分が今吸収したものを出す場所を設けてほしいと思いますね。見たものをアウトプットしないと、視覚的な情報だけが蓄積されていってしまう。

でも何かを制作する時、視覚的な情報だけでは良いクリエイティブは作れないと思うんです。見たものの構成を考え、分解する。それは頭の中でもできますが、実際に手を動かした時に得られる気づきって、クオリティや作業効率の向上に直結するんですよね。

その後はフィードバックをもらって、人がどう思ったか?まで追求していければ完璧です。インプットって、見ることと、作ること、両方の精度が上がっていかないといけないんです。作りながら見ていると作っている視点も入ってくるから、見ているときに得られる情報量はもっと増えていきます。これまで得た情報を作るほうに反映していくから、作るほうも良くなっていくんですね。

━━確かにそうですね。

例えば一流サッカープレイヤーの試合を数百試合観ても、自分自身がサッカーの練習をしなければ上手くはなりませんよね。逆にサッカーだけをし続けていても、一流の試合を見ていないと気づけない部分も大いにあるもの。それはクリエイティブにも共通していることだと思います。作ることで、モノを見る解像度も上がるし、見ることで引き出しも増やせる。それぞれを並行して行ってこそ、ちゃんと実になるインプットになるんじゃないかなと思っています。

最後に

今回のインタビューで印象的だったのは、“自分が吸収してきたものをアウトプットすることも、インプットの一部である”ということ。見ること、感じること、そして作ること、この3つの精度を高めていくことが、ひいては自分のクリエイティブの研鑽につながっていく。この高橋の視点は、長きにわたってクリエイティブという仕事と向き合ってきたからこそ辿り着いたものだと感じます。

~インプットの心得 その2~
見て、感じて、作る。この一連の流れがインプットの質を高める相乗効果を生み出す
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