琴線にふれたものは、すべて一冊の手帳に。~クリエイターのインスピレーション #03~

琴線にふれたものは、すべて一冊の手帳に。~クリエイターのインスピレーション #03~

ミクシィに所属しているクリエイターは、ゲームの新ステージデザイン、キャラクターのイラスト制作、アプリのUI設計…など、日々アウトプットを行っています。では、クリエイターはアウトプットのために普段どこでインスピレーションを得ているのか。
クリエイターの皆さんに、おすすめのインプット術を聞いてみました。

第三回目は、『モンスターストライク』(以下モンスト)のキャラクターデザインを務める加来。どのようなものを見て、聞いて、キャラクターデザインに活かしているのか。その源泉に迫ります。

加来 あゆみ(かく あゆみ) モンスト事業本部 アートチーム
大学卒業後、ソーシャルゲーム開発会社に入社し、イラスト制作や進行管理を行う。2015年8月ミクシィに入社。
新規開発チームを複数経て、「モンスト」チームに配属。以降「モンスト」『モンソニ』のキャラクター制作を担当。

 

秘訣は、手帳の“落書き”にあり?

━━加来さんはインプットとして意識されていることはありますか?

インプットというと大げさかもしれませんが、過去10年間くらいは毎年同じ手帳に色々と書き溜めていますね。手帳というか、らくがき帳というか。

━━10年!見せていただいてもいいですか?

これです。

━━ぶ厚いですね…!どういう手帳なんですか?

B5版で中は見開きの左側がスケジュール、右側が自由に書き込めるスペースになってるんです。大きなスクラップブックにしたり、他の手帳に変えてみたりしてみたんですが、結局これが使いやすくて、ずっと同じものを買い足して使い続けています。

━━普通の手帳にも見えますよね。これがインプットの秘訣…?

インプットでいうと、もちろん色々な映画やドラマを見たりtumblrやPinterestで様々なビジュアルを集めたりもしているんですが、インスピレーションを得た機会が多いのはこの手帳ですかね…。

━━どういう物がしたためられているんですか?

こんな感じで…

大きくは3つ、スクラップと落書き、あとは言葉ですね。スケジュールはあくまでもプライベートの予定と仕事の大きな流れだけで、ミーティングなどはアプリで確認しています。

━━スケジュール管理はそう担っていないと。詳しく聞きたいです。

そうですね。スクラップは演劇のチケットや映画の半券、旅行先でもらったパンフレットとか、あとプリクラもありますね(笑)。それと、気に入った画像とかをプリントアウトして貼っていたりもします。結構カオスですが見返すと新たな発見があって面白いんです。あと、仕事のタスクリストをまとめた付箋とかも貼ってますね。

落書きは、本当に落書きとしか言えないのですが…(笑)。映画やアニメを見て「なんかいいな」「素敵だな」と思った衣装やキャラクターをぱっと描いていたり、街中を歩いていて「かわいいな」と思った小物を書き留めたりすることもあります。あとは練習として、「手を描くの苦手だな」と思って色々な角度で手を描き続けている時期もありますね。

━━空白に近いページもありますね。

落書きやスクラップが少ないページは、忙しかった時期ですかね…。この手帳はプライベートでも持ち歩いているものなので、書く時間がないわけではないのですが「忙しい時期はわかりやすく余裕がなくなっているな…」という振り返りもできます(笑)。

━━ドローイングは職域的に予想がつくのですが、他の書き込みも?

そうですね。知らない言葉が好きなので、テレビや本の中で知らない言葉を見聞きすると、辞書を引いて書き留めています。あとあまり大きな声では言えないのですが、ミーティングの最中に知らない言葉が出た時も、こそっとメモして後で調べる…なんてことにも使っています。

これは「花が枯れる」という表現も花によって変わる、と知ってメモしたものですね。こういった普段使わないような知識って、一度知ったとしてもどうしても記憶から抜け落ちちゃうじゃないですか。でもこうやって書いておけば何度も見ることになるので、覚えていくんですよね。

━━なるほど。ではインプットの秘訣は“手帳にありとあらゆることを綴ること”にあるのでしょうか?

うーーん、書き残しておく時点では本当に何も考えていないというか。雑記帳のように、本当に色々なことをメモしておく意識でしているので、それ自体がインプットというと少し違うかもしれません。どちらかというと、この手帳を見返すことが大事なんです。

 

描くよりも、振り返ること

━━見返す?

主に見返すのは、新たなキャラクターのビジュアルを考える時が多いですね。
例えば「モンストで新しいキャラクターの轟絶を作る」というタスクがあったとして、どのようなキャラクターデザインにするか、大まかな仕様が決まっているんです。その仕様に沿ってキャラクターを作るにしても「どんな髪型?」「何を手に持たせる?」「どういった出で立ち?」と、ビジュアルに起こしていくのは私たちの仕事。

だからこそ、ビジュアルイメージの引き出しはあればあるほど良くて。こうして手帳に書き溜めておいて、ちょっと行き詰まった時とかに見返してヒントを得る…という感じですね。過去の手帳をパラパラめくって、「これがあるじゃん!」みたいな。

━━実際にキャラクターデザインに活かされたこともある?

この手帳に助けられたことは本当に多いです!
例えば、「ディヴィジョン」というキャラクターは禍々しい形のハサミを持っているのですが、実はクロアゲハという蝶の羽の形になっているんですね。

なぜクロアゲハなのかというと、クロアゲハのオスは陽の当たる明るいところと日陰で暗いところの境目を蝶道として跳ぶ習性があるので、「分断」がテーマのディビジョンに取り入れています。なにかの文献からメモしたものが、この手帳にあったからなんです。
こういった裏設定が語れると、ただ「蝶の形にすればかっこよくないですか?」と説明するより、ぐっと魅力的に見えるし、説明もできますよね。

━━確かにこの手帳がないと生まれなかったディテールですね。

そうなんです。また、「ノクターン(轟絶)」も手帳に助けられた例ですね。「ノクターン」は布のようなものをまとっていて、正体がはっきり分からない。だけどなんとなくシルエットだけ見えて、ぞっとする怖さもあるキャラクターです。

 

この「布をまとっていて正体がわからない怖さ」は、実は、ある有名な絵本に出てくる「象を飲み込んだ大蛇」から来ているんです。…といっても手帳にその絵を書いていたわけではなく、同じ絵本の一部を手帳に描いていたんですね。
その「象を飲み込んだ大蛇」の絵を初めて見た時にすごく怖いと感じたことを思い出して、この設定に行き着いたという感じです。

━━間接的にでも、この手帳はそこまでデザインに影響しているんですね。

そうですね。この手帳があるから生まれている設定やディテールはたくさんあるし、私にとってかけがえのない物のひとつです。

━━でもそれってアプリでやる方が簡単じゃないんですか…?

そうなんです。TumblrやPinterestにスクラップを集約する、みたいな事もできるんですが、Webにあがっているイメージは“出来上がっているもの”で、イメージとして強すぎて引っ張られてしまうんですよね。そうした画像をリファレンスにして、キャラクターデザインを描こうとすると引っ張られすぎて、それしか描けなくなってしまうんです。

だから、こうした手帳に雑にメモしたものや、言葉の方がキャラクターデザインには活かしやすいんです。

━━ほどよい抽象性が大事なんですね。

そうなんだと思います。現代に流通しているイメージを集めるためにWebは効果的ですが、インスピレーションの元にするには、私にとってはあまりに強すぎるというか…。具体的すぎるんでしょうね。
それよりも「驟雨(しゅうう)という雨があって…」みたいに想像の余地がある言葉や、すぐに仕事やキャラクターデザインに結びつかないけど自分が気に入ったものなどを書き留めておく、そしてそれを続ける、そしてたまに見返す。これが貴重な財産になるのかなと思っています。

 

最後に

日常的に「自分が気になるもの」「好きだと思ったもの」をスクラップしていた加来。そうしたデイリーな記録は、スケジュール帳でもなく、スクラップブックでもなく、その両方を兼ね備えた手帳だからこそ続けられたのでは、と思います。仕事は仕事、プライベートはプライベート、と分けずにひたすら同じ手帳にメモを続けると、時にインスピレーションをもたらしてくれるような自分のメモに出会えるのかもしれません。イラストを描くからといって、イラストだけに気を配らない。好奇心旺盛な加来ならではのインプット術を教えてくれました。

~インプットの心得 その3~
琴線にふれた(心が動いた)ものは全て手帳に書き込み、見返すことで、自分のメモからアイデアを見出す
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