機械学習やディープラーニングをはじめとするAI技術は今や、数々のWebサービスから、冷蔵庫や洗濯機、掃除機、スマートスピーカーなどの家電、ロボットなどの身近なところで活用されています。今後もさらに発展していくと言われているAI技術。AIが当たり前になりつつある中、ミクシィ内でもAI技術の知見を広めていくべく、2020年1月に「AI相談室」が誕生しました。
さて、この「AI相談室」。どんな目的で、どんなメンバーが集い、どんな活動をしているのか?実は「AI相談室」は、エンジニアの専門部署ではなく、ディレクターやデザイナーなどのクリエイティブ職、そしてバックオフィス職に至るまで、広く門戸の開かれたオープンな場所。今回のインタビューでは、相談室を運営しているエンジニアの古城に「ミクシィにおけるAIとは?」や「AI相談室ってどんなところ?」について詳しくお話を伺いました。
AIを当たり前の技術にしていきたい
────早速ですが、「AI相談室」が発足した経緯について教えてください。
「AI相談室」が誕生した理由は2つあります。まず、一つ目は開発者サイドの視点。ミクシィでは『モンスターストライク』などのアプリや、独自開発した自律型会話ロボット『Romi(ロミィ)』、『みてね』の顔認識における機械学習など、さまざまなサービスでAIが活用されています。各プロジェクトに所属するメンバーが蓄積してきた技術を共有し、個人に頼らない知見をエンジニア一人ひとりが身に付けていくために誕生しました。
そして、二つ目がビジネスサイドの視点です。AIというとまだまだ“特別な技術”という印象が強いと思われるかもしれません。しかし、今後も技術が発展していく中で、「AIを使うとこんなことが実現できる」ということをエンジニアだけでなく、全職種のメンバーに広く知ってもらい、もっと当たり前の技術にしていきたいというビジョンがありました。
────当たり前の技術?
そう、例えば、サービスを考える企画側の人たちを例に挙げると、彼らが目指しているのは“サービスの価値を最大化し、ユーザーに提供する”ということです。AIの知見を身に付けることで、「今の技術であれば大体こんなことができるんじゃないだろうか」というあたりを付けられるようになるんじゃないかな、と。
────なるほど。技術を知ることで、さらにアイデアの幅が広がりますよね。
そうですね。会社全体としてAIに対してもっとオープンになろうというビジョンのもと、その取り組みとして、まず気軽に相談できる場を作るべく「AI相談室」が生まれました。
────具体的にどんな活動をしているんですか?
実は、技術組織として存在しているわけではなく、Slackのオープンチャンネルのコミュニティとして活動しています。ここに所属しているエンジニアは、各サービスやプロジェクトでAI開発に携わっている人が大半です。
────研究開発の専門チームではないんですね。
最初は専門チームを作ろうという話もありました。でも海外のジョブチェンジの資料を見ていると、求められているのはAIのリサーチャーではなくて、サービスにAIをデプロイしたり、機械学習の知見やノウハウをサービスに落とし込んできた人なんですよね。ミクシィでもサービスに対してAIを実用的に使えるエンジニアを増やしたいという思いから、CTOの村瀬とも話し、このような体制を取ることにしました。
────中には、独立した機械学習の専門組織を持つ企業も多いようですが…。
そうですね。この分野の研究というのは半年でガラッと変わったりもするので、最先端のリサーチャーがいたとしても一般化した技術はどんどんライブラリ化されて、あっという間にみんなが使えるようになってしまうんです。専門チームのエンジニアといっても、ライブラリを使って何かする人、ぐらいの感じになってしまう。ミクシィにおけるAI技術というのは、あくまで“サービスの価値を高める”ためのツールです。各サービスに関わるエンジニアがみんな当たり前に使えるようになるべきだと思うので、あえて専門チームを設けることはしませんでした。
────なるほど。そういう理由があったんですね。
相談室は気軽に質問できる場だけでなく、「最悪困ったときはどうにかしてくれる」という場所でもありたいんですよね。先ほどAIは特別な技術ではないと話しましたが、やっぱりパラダイムとしてはちょっと特殊なもの。ロジックを組むというシステム開発と、データに任せて何かが出来上がるというAI開発。AI開発はデータに基づくシステムだからこそコントロ―ルしづらく、うまくいかないこともあると思うんですよ。自分たちの力だけで進めた結果、うまくいかなかったら辛いじゃないですか。一方で僕らに相談したけど、結局ダメだったというほうがまだいい。極端な話、「相談室に相談したけどダメだった」と言い訳に使ってもらってもいいですし(笑)。
────なるほど。サービスにさらなる価値を生み出すため、AI開発の後押しをしたいと。
そうですね。AIと向き合うハードルを下げたいというのが一番の願いです。
────先ほど、各プロジェクトのAI開発に携わるエンジニアが集っていると伺いましたが、具体的にはどんなエンジニアが所属していますか?
例えば自然言語処理に強い『Romi』のエンジニアや、3Dや画像生成についてプロジェクトを進めているエンジニア、顔認証や画像分類に強い『みてね』のエンジニアなど、様々なサービスに携わる技術者が集っていますね。他にも、GoogleのAI勉強会に参加していた人や、マーケティング関係やレコメンド、機械学習で良く使う分野に長けた有識者もいます。
誰もが気軽に相談できる場所に
────こういう風に相談室を利用してもらいたい、という希望はありますか?
僕らはとりあえずAI活用の場をオープンにしたいという思いがあるので、使い方は自由だと思っているんですよ。「こういったことがやりたい」といった抽象的な相談を寄せてもらってもいいですし、自分たちで手を動かしたいというのであれば相談せずに最初から作って、困ったときに頼ってもらってもいい。
────相談室を通さないと、AI関連の開発ができないというわけではないんですね。
そういうのは全くないです。AIに詳しい人がたくさんいるので、困ったことがあれば気軽に相談してほしい、という感じですね。ここにいるメンバーに対して、プライベートメッセージで相談してもいいですし、実際にオープンに話し掛けてもOKです。また、開発を依頼してもらっても構いませんが、それは最初のフェーズだけだと思っていて。ゆくゆくは各サービスの開発チームに戻して、そこで開発してもらうというスタイルにはなるかと思いますね。現在、実際に相談を受けて、動いているプロジェクトもあります。
────相談室がサポートしたから完成できたサービスもあるし、そうでない部分もあると。
もちろんそうです。相談室に属している僕たちが上とかではなくて、自分たちで開発しているチームもたくさんありますし、むしろそういう人たちのほうが知見を持っているので、ぜひ協力してほしいとお願いしている状況です。ちなみに、相談室では委員長やリーダーなど、そういったポジションが割り振られているわけではなく、とてもフラットなコミュニティなんです。
AIを知れば、サービス企画の幅も広がる
────そうなんですね。ちなみに、どんな人に相談してほしいですか?
各サービスのエンジニアはもちろん、QAエンジニア、テクニカルアーティスト、ディレクター、デザイナー、サービス企画のメンバーにも気軽に相談してほしいと思っています。結局、サービスにさらなる価値を生み出そうとなると、サービスのドメイン知識というのが非常に重要になってくるんですよね。つまり、サービス自体をよく知っている人がAIのエッセンスを取り入れていったほうが絶対にいいものができる。サービスの特徴を詳細に踏まえているからこそ、◯◯のデータをどういう風に使えば価値が生まれるのではないか、という思考がスムーズにできるからです。
さらには、法務や経理などに携わるバックオフィスの方も大歓迎です。「AIを使って価値を生み出す」というところに興味がある人に、広く開かれた場所にしていきたいですね。
────なるほど。今後はどんなことに力を入れていきたいですか。
まずは、開発者以外向けの簡単なレクチャーを開催したいと思っています。やっぱりはじめはAIを使った事例を知ることだと思うんですよ。「AIというのはデータを集める仕組みで、こういうデータを集めるとこんなことができるんだ」「こういう機能が使えるのはこのデータがあったからなんだ」というのを理解してもらうのがいいのかなと。そしてゆくゆくはサービスを作る人たちの一つの道具として、AIが当たり前に使ってもらえるような世界を作れたらいいなと思っています。