投資先のリサーチ、デューデリ、PMI、バリューアップ。 投資事業推進本部の仕事は足し算ではなく、掛け算でバリューを生み出すこと。

2021.05.12

2020年7月の組織変更で、これまで経営推進本部内にあった組織の一部が独立し、CFO直下の新チームとして「投資事業推進本部」が誕生しました。なぜ新たなチームが発足したのか?どんな業務を担っているのか?など、まだまだ知られていないことが多い投資事業推進本部。今回は投資事業推進本部のミッションに迫るべく、取締役CFOの大澤と部長の奥山にインタビューを行ないました。

(写真左/奥山 写真右/大澤)

“攻め”のチームとして存在感を発揮するための独立

━━早速ですが「投資事業推進本部」が誕生した経緯と、業務内容について教えてください。

奥山 以前、私たちが所属していた経営推進本部では、予算管理やコーポレートガバナンスの向上など会社の「守り」の部分と、他社への出資やM&A実行といった「攻め」の部分を併せ持つ組織として存在していました。守りと攻めの役割を明確にし、さらに高い付加価値の提供を目指すため、今回、投資事業推進本部を独立させることになりました。

大澤 投資事業推進本部では、自分たちのリソースだけではできないことを実現するため、また自分たちがそれほど得意ではないことを助けてもらうために、投資やM&Aといった方法で社外からパートナーを迎え入れ、お互いの強みを組み合わせて新しい価値を生み出しています。

奥山 具体的に担っているのは、「投資」「事業推進」「事業開発」という3つの機能です。CFO直下の組織として、攻めの経営企画部門として売上と利益をしっかり作り出すことをミッションとしています。

━━3つの機能とは?

奥山 まず「投資機能」としては、M&A、スタートアップ投資、ファンド出資、不動産投資、JV設立、CVC設立、など投資に関わるものを幅広く実行しています。投資の実務だけでなく、当社の戦略的なパートナーの発掘から交渉までを担う重要な機能です。

大澤 2019年以降の実績では、M&Aが5件、スタートアップやファンドへの出資は20件以上、合計約300億円以上の投資を実行しました。具体的には、ネットドリーマーズ社やチャリ・ロト社などのM&A、タイミー社やソエル社への出資、XTech社やANRI社などへのファンド出資、エンタメファンドの設立などです。2021年は、ハブ社への出資実行など引き続き積極的に外部との連携を進めています。

奥山 2つ目の「事業推進機能」については、当社の新規事業やグループ企業の事業を前進させるための事業推進です。事業責任者や子会社経営陣の参謀として事業戦略や組織戦略など多岐にわたって支援しており、具体的にはチャリ・ロト社への管理部長やマーケティング部長などの派遣、社内事業の意思決定プロセスの改革支援、社内事業の再生などを実施しています。3つ目の「事業開発機能」は、グループ企業や社内事業との新規事業開発のことです。国内だけでなく、海外での新規事業も準備しています。投資に関わっている部署だからこそできる投資先とのパートナーシップやJV設立など、事業成功の確率を高めるための手段はありとあらゆるものを検討し、実行しています。これまでの実績としては、「みてねギフト」の立ち上げ、オートレースの新サービス立ち上げ、海外事業の立ち上げなどが挙げられます。

 

足し算ではなく掛け算の成長が望めるか

━━単に投資を行なうだけの組織ではないんですね。

大澤 そうですね。事業責任者や子会社経営者パートナーとして、事業を成長させていくために何が必要かを一緒に考えるというスタンスです。

━━ちなみにですが投資先やパートナー企業をどのように探すのですか?

奥山 自分たちの中で仮説を考えながら、それに最適なパートナー企業やサービスをリストアップして、「いつか一緒に新しい価値を作りたい」「このサービスがミクシィグループに入ってきたら、こんなことができるのに」という妄想を繰り返して実現のために動く部署ですね(笑)。例えばチャリ・ロト社の場合は、「一緒に若者向けのスポーティーなサービスにしたい」という考えが合致したので、一緒にプロジェクトがスタートしたという感じです。

大澤 投資やM&Aを通じて他企業と連携したときに、お互いの力を足し算するのではなく、掛け合わせることで、より大きな価値のある新しいものを生み出すということに重きを置いています。

━━なるほど。足し算になるだけの投資やM&Aでは意味がないと。

奥山 そうですね。ミクシィグループとしてできることが増える、というだけでは意味がないと思っています。投資した企業が成長すれば株式売却による利益を得ることもできますが、私たちが目指しているのは一時的な収益ではありません。あくまで投資やM&Aは手段の一つだと思っています。ミクシィグループがやりたいことや目指していることに対して、サービスやパートナー企業が加わることでさらなる価値が生み出せるということが重要です。

大澤 実際、パートナー企業がミクシィグループにジョインした後も、事業成長につながるように投資を行なっています。例えば、新規事業のサポートをしたり、プロモーションを充実させたり。単なる資金のサポートだけにとどまりません。

奥山 M&A後の準備も念入りに行なっています。M&Aを“結婚”で例えると、結婚するのは一瞬ですが、結婚生活後のほうが長いですし色々なことが起きるもの。より良い結婚生活を送るためには、しっかり未来を想定して準備しておくことが重要ですよね。一緒に事業を行なう上での課題を洗い出し、解決できるよう工夫しています。

大澤 働いている社員のみなさんへのケアもその中の一つです。ミクシィグループの一員になり新しいカルチャーが入ってくることで、戸惑われる方も中にはいらっしゃる場合も。

━━確かに。

奥山 ストレスなく事業や仕事に取り組める環境を作ることが重要だと思いますから、社員の方全員との面談や従業員アンケートを通じて、どんなことでも気軽に相談していただけるような関係性を築けるように心掛けていますね。また我々のM&Aでは、基本的に経営陣を代えるということはしていません。人員不足や資金不足などの様々な事情で実施できていなかったことを洗い出し、思いっきり事業を伸ばすために何ができるのか、ということをディスカッションしながら順序立てて取り組んでいます。

━━買収した後TOPを変更するということは確かに少ないですね。他のプロジェクトについて教えてください。

奥山 家族向けの写真・動画共有アプリ『家族アルバム みてね』を例に挙げて説明します。『みてね』は基本無料で利用できるサービスですが、2019年6月にスマホフォトプリント事業などを手掛ける株式会社スフィダンテを子会社化し、同社のノウハウを活かした「みてね年賀状」の提供を開始するなど、収益化を進めています。2020年11月にはECサービス「みてねギフト」をスタート。このサービスはXTech社とミクシィが作ったジョイントベンチャーから誕生しました。XTech社は、既存産業×テクノロジーで新規事業を創出するというコンセプトのもと、さまざまな分野のスペシャリストが事業会社と新規事業開発を行ない、新しい価値を生み出す取り組みに強みを持っています。ミクシィだけでは、短期間で物流を含めたeコマースのサイトを用意するのは難しいことだったので、事業開発経験が豊富なXTech社と協力して立ち上げました。

大澤 ミクシィだけでも「みてねギフト」を作ることはできたかもしれません。しかしながら、ノウハウがないところからのスタートになるので、膨大な時間が掛かったでしょう。仮にこのサービスがうまく軌道に乗らなかった場合は、プロジェクトに参加していたメンバーの採用コストや配置検討などの損失も発生する可能性もある。そこで新しい事業開発の形として、このような手法を取りました。

━━ギフト事業を手掛ける会社を買収することは検討しなかったのですか?

奥山 「みてねギフト」の場合は、家族向けのギフトという限定された事業になるので、ギフト事業を手掛ける企業を買収するのは少し違う、と。自分たちで立ち上げるか、外部パートナーと協力して進めるか、2つの選択肢がありました。

 

大規模プロジェクトを一気通貫で経験できる醍醐味

━━そういう経緯があったんですね。こういった新しい事業開発によって会社が成長する様子を間近に感じられるのはやりがいがありそうです。他にも、ミクシィの投資事業推進本部ならではのやりがいはありますか?

大澤 大きなプロジェクトに携われる、ということでしょうか。自社で資金を持っていることもそうですし、『モンスターストライク』のような大規模なユーザーを抱えるサービスと連携したプロジェクトもあるので、ダイナミックな経験が積めると思います。売上1000億~2000億円という規模感の中での事業の作り方や、1000万~2000万人が使うサービスの作り方を知れるのはミクシィならではかなと。

奥山 また、ミクシィの投資事業推進本部は利益だけ求めるM&Aではなく、グループの中でどうやって伸ばしていくのかというところまで議論するので、投資先を探すところから、交渉、M&A、バリューアップまで含めて一気通貫できるというのも大きな価値かなと思います。ただの作業屋さんにならないというか。経営視点で投資のことを考えられるというのは、この会社ならではの魅力です。

━━仮説の成長ストーリーを描いて、その後も追っていけるということですね。

奥山 そうですね。業務が細分化されていないので、総合力を付けられるところが魅力です。ミクシィの投資事業推進本部のメンバーは“総合格闘家”とよく言われますが(笑)。

━━総合格闘家…!?立ち技も寝技も、という感じですか。

奥山 そうですね(笑)。だから面白いと。戦略から実行、PMI、グロースまで一通り経験できるのは、一筋縄ではいきませんが、他では味わえない経験が積めると思います。

━━CFO直下の組織ということについてはどうでしょうか。

奥山 同じ部署にCFOが在籍しているので、投資を通じて単純に財務的なリターンがでるのか、投資家の方にも納得していただけるかといった観点の他、成長性や配当調達のバランス、財務戦略に合致したM&Aなのかといったことを、フランクに議論できるというところがありがたいです。

━━なるほど。スピーディーに判断ができそうですね。

奥山 経営陣が捉える課題を把握しているCFOと常に投資案件の話ができるので、その分、連動が早いところが魅力です。常に経営陣がやりたいことの半歩先の準備ができているからこそ、スピーディーに動くことができます。例えば、「今流行っているこのサービス、面白いね」と経営陣が盛り上がっていることを聞けば、それに類似するような会社をピックアップしたり、マーケットを調査したり。会社の戦略というのは状況に応じて変わるので、割とその変化をリアルタイムに理解できるからこそ、タイムリーに色々な提案を挙げられているかなと思います。それはCFO直下のチームで管理部門と連携して情報共有しているので、問題やリスクを把握するスピードも早く、その結果、問題解決でき成長していける体制が築けているからですね。

大澤 他にもミクシィの展開する事業がインターネットに限定されていないところも面白いところだと思っていまして、オフラインのコンテンツにも積極的に領域を広げていることにより、多種多様な事業に関われる可能性が広がっています。

奥山 昨今では、チャリ・ロト社が岡山県玉野市の運営する「玉野競輪場再編整備事業」の事業者として選定されました。競輪場運営の他、ホテル建設と運営についてもプロジェクトが進んでいます。

大澤 玉野競輪の2020年度の年間売上が20年ぶりに200億円を突破したというニュースが話題にもなりましたよね。

奥山 公営競技及び周辺施設は、地域経済の活性化を生み出すと大きな期待が寄せられているため、今後も伸びていく分野かと思います。

━━さまざまな業種サービスに携われるので、常に刺激を受けられそうですね。ちなみに投資事業推進本部にはどんなメンバーが活躍していますか?

奥山 投資事業推進本部は全員で30名程度の組織です。投資チーム約10名、事業推進チーム約15名、事業開発チーム約5名といったメンバーで構成されています。

大澤 コンサルや投資銀行などの出身者が多いという印象を持たれることがありますが、割合としては20%以下程度です。バックグラウンドは多岐にわたっていて、ブランドや事業の立ち上げ経験者、事業会社出身者をはじめ、中には元美容師や元プロサッカー選手といった一芸を持っているメンバーもいます。

━━元美容師、元プロサッカー選手も!?

奥山 事業に寄り添う気持ちで仕事をすることが大事な部門なので、事業経験を大事にしています。こういったさまざまなメンバーがプロジェクトごとにチームを組んで仕事を進めるので、課題解決できることの幅が広い気がします。共通点は好奇心旺盛、知ることに対する欲求が強い、というところですね。「投資部門にいたがより一気通貫して子会社経営に関わりたい」「事業開発や子会社支援だけでなくM&Aに興味がある」「経営企画に所属していたけれど、より規模の小さいところで幅広く携わりたい」といったところからミクシィへの転職を決めてくれたメンバーが活躍しています。

大澤 将来的には、COOやCFOポジション、海外支社長などを目指している人、PEファンドやベンチャーキャピタルファンドの経験を積みたい人、事業立ち上げを経験したい人が多いですね。

 

国内だけにとどまらず海外展開も視野に

━━それでは最後に今後の展望について教えてください。

大澤 今後も私たちはミクシィグループの事業・サービスで展開しているポリシーをもとに、シナジーを生み出していけるという観点で投資やM&Aを行なっていきます。しかし投資やM&Aなどの既存の枠に捉われず、新しい手法を生み出しながら取り組んでいきたいと思っています。

奥山 あくまでミクシィの成長のために、投資や事業推進、またその他の選択肢など、その場面に応じた提案をしていきたいと思っているので、色々とチャレンジをしていきたいですね。3~5年後の目標は、1000億~1500億円の売上を生み出すこと。これは投資やM&Aだけの数字ではないので何とも言えませんが、そういう規模感での投資ができるように組織を強化してきたので、不可能な数字ではないと思っています。当時は5名もいなかった小さな組織から、現在は国内の大きい案件もカバーできるだけのリソースを持った組織になってきているという自信はありますね。

大澤 そしてゆくゆくは、北米、ヨーロッパなど、チャンスがあれば海外展開も検討していきたいと考えています。まず僕らが現地に行く選択肢と、海外企業を買収する選択肢もあれば、コミュニケーションを通じて現状を知るため、投資だけをするという選択肢もある。慎重に状況を見ながらチャレンジしていければと考えています。

取締役 CFO 大澤 弘之 (写真左)
税理士事務所、株式会社ケイビーエムジェイ(現株式会社アピリッツ)を経て、2007年6月株式会社ミクシィに入社。経理財務部財務グループにて予算・管理会計・開示等の業務に従事。2011年11月経理財務部の部長に就任。経営推進室長を経て、2017年6月より経営推進本部長として、管理部門を統括。 2018年4月、当社執行役員(財務・グループ管理領域)担当就任。2018年6月、当社取締役執行役員CFO(財務・グループ管理領域担当)就任。2020年4月より、当社取締役CFO。
投資事業推進本部 投資事業部 部長 奥山 翔 (写真右)
ベンチャーキャピタル、スタートアップ、事業買収などを経て、2016年4月株式会社ミクシィに入社。経営企画室と投資事業部にて子会社支援や事業推進、M&A、PMI、スタートアップへの投資などに従事。株式会社チャリ・ロトや千葉ジェッツふなばし等のグループ会社の非常勤取締役を兼務。

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