モンストのキャラクターはどのような工程で作られているのか? “メソッド”が学べるセミナー「THE METHOD #1」

モンストのキャラクターはどのような工程で作られているのか? “メソッド”が学べるセミナー「THE METHOD #1」

 2020年12月から新たなオンラインセミナー“THE METHOD”を開催しています。
※前回の開催の様子はコチラ

本イベントは、さまざまなプロダクトにおいて実践されているノウハウやメソッドを惜しみなく共有する、視聴者も参加できるオンラインイベントです。 

第2回目となる今回は、『モンスターストライク(以下、モンスト)』のキャラクターデザインや世界観がどのようなフロー・期間で作られているのかについてイベントを実施。本記事では、配信された内容を簡潔にまとめてご紹介します。

 

登壇者の紹介

手島 桃(テシマ モモ)写真左
2015年中途入社。モンストのイラスト制作チームに在籍し、キャラクターイラストの制作・ディレクションを担当。最近の主な制作キャラクターは「アルセーヌ」、「アミダ」など

和田 尚乃(ワダ ヒサノ)写真中
2011年度中途入社。mixiにてミクコレやメッセージ等の運営をへて、2015年よりモンストに参加。キャラクター設定や世界観制作を担当。最初に制作したキャラクターは「ノンノ」「クィーンバタフライ」など

熊本 満里奈(クマモト マリナ)写真右
2015年度中途入社。ファイトリーグのイラスト&世界観制作をし、現在はモンストのキャラクター設定や世界観制作を担当。最近の主な制作は「秘海の冒険船」、「アルセーヌ(設定)」など

 

 司会進行役の「ミクシル」編集長深町からの質問に3名が答えていく形でイベントは進行していきました。

 

デザイナーとプランナーのアイデアを結集して一つのキャラクターが生まれる

深町 早速ですが、モンストのキャラクターデザインにおける特徴について教えてください。

和田 モンストのキャラクターデザインは、大きく分けて3つのパターンで制作されています。一つ目が王道のキャラクター。左側の「オベロン」は、王道的なかっこよさだけでなく一癖も二癖もあるキャラクターです。真ん中は「ギョウズィ」。中華料理の敵をキャラクターとして制作した、ユニークで思いも寄らないモチーフ選びが特徴です。右は「葛飾北斎」。実在した人物も独自のアレンジで個性溢れるキャラクターにしています。

深町 色々な切り口からキャラクターデザインをされているんですね。もう少し詳しく教えていただけますか?

和田 それでは葛飾北斎を例に挙げて説明しますね。葛飾北斎は「進化前」と「進化後」と「神化」の3つを制作しました。「進化前」のキャラクターは、明るく狂気的な笑顔とぼさぼさの髪が特徴です。これは絵を描くという好きなことに没頭しつつも、何度も名前を変えたり、住処を変えたりするという葛飾北斎の奔放なキャラクター性を出すための個性付けをしました。旅装束や家財道具を背負って旅に出ているのは、何度も引っ越しをしたエピソードから。江戸時代後期を代表する浮世絵師の一人であることから、彫刻刀やバレンを武器として使う設定にしました。

「進化後」は浮世絵の表現を入れつつ、格好良い攻撃のシーンを。「神化」では北斎晩年の雅号「画狂老人卍」からイメージを膨らませました。何度も名前を変えて、絵に没頭していくうちに絵に取りつかれて自身が妖怪となってしまった狂人感と、それによって絵を具現化する力で妖怪を呼び出している場面です。一枚のイラストの中にもキャラクターを象徴する、たくさんのアイデアがたくさん込められています。

※モンストではさまざまな進化形態があり、形態ごとにキャラクターの設定を行ない、形態ごとに違ったキャラクターの魅力を提供しています。葛飾北斎の場合は進化前から進化、神化の2パターンに分かれていますが、最近では、獣神化前から獣神化になる進化形態がスタンダードです。

深町 なるほど。キャラクターひとつとっても、深く研究されて作られているんですね。キャラクター制作はデザイナーが担当しているのですか?

和田 モンストでは、デザイナーとプランナーがお互いに協力し合って設定を作り上げています。なぜそうしているかというと、実際にキャラクターを作るデザイナー、ゲーム企画を立てるプランナーとが協力することでお互いに作り上げたいものがしっかり一致し、より統一された世界観作りができるからです。

実際にどのようにキャラクターが作られているのかを、「アルセーヌ」というキャラクターを題材にお伝えしていきたいと思います。ここからは、キャラクターと世界観の設定を担当した熊本さんと、デザイン制作を担当した手島さんにバトンタッチをします。

 

キャラクターデザインの表に出てこない世界観も想定する

熊本 それでは、キャラクター設定からイラストとして仕上がるまでの制作フローからご紹介します。まず一番始めの段階は、テーマ、モチーフの決定からスタートします。

深町 テーマとモチーフの違いとは…?

熊本 テーマは、「キャラクターを通してモンストは何を伝えたいか」というものです。モチーフは、「そのテーマを伝えるための表現方法」のこと。「アルセーヌ」の場合で言うと、テーマは「反逆・反撃」で、モチーフは「欲望を盗む怪盗」になります。怪盗アルセーヌというモチーフに対して、キャラクターに持たせたい要素として宝石、影とカラスの相棒、エギーユクルーズなどの設定を加えていきます。ここでは、どんな世界観、キャラクターにしようかというアイデアをどんどん出していきます。良いアイデア、悪いアイデアなどは二の次。面白そうと思ったものはどんどん出していき、後で詳しく考えるときに必要なものを取捨選択していきます。

そして出たアイデアからモンストらしいテーマを見つけて、さらに深堀していきます。例えば、「怪盗をヒーローとして描くには?」「何を盗む怪盗にしたい?」といったものや「怪盗のパブリックイメージってどんなものか?」「モンストらしいキャラクターにするには…」「怪盗の華麗さをスタイリッシュでおしゃれなデザインで表現したい」「相棒のマスコットキャラクターもほしい」といったことです。ここで決まった設定をもとにデザイナーにキャラクターデザインを依頼します。それと同時に、さらに設定を加えて想定表を作成します。

深町 想定表というのは…?

熊本 想定表は、実際にイラストを描く際の発注書・仕様書のようなもの。ポーズや性別、性格、戦い方などはもちろん、絵には表れにくい「この子は○○が好き」「こういう世界に住んでいる」「こんな子供時代を送ってきた」といった設定も書き込んでいきます。想定表を作成するときに大切なのは、デザイナーの想像力を掻き立てるものにすること。「こんな表情はどうかな」「こんなデザインはどうだろう」と描き手がワクワクする想定表になるよう工夫しています。その後はデザイナーの手島さんにバトンを渡します。

手島 私は熊本さんにいただいた想定表を踏まえて、キャラクターのビジュアライズを手掛けました。

 

パーツごとに詳細を詰め、トータルなバランスを見直していく

深町 キャラクターのビジュアライズにおいて、こだわった点はどこですか。

手島 年齢や性別、スタイリッシュなイメージが決まっている中で、今回事例にあげたアルセーヌ」の場合、キャラクター性を形作るのに一番最初に重要視すべき部分は髪型だと考えていました。怪盗というモチーフなので、シルクハットをかぶせたい。そのときに一番似合う髪型は何か?を考えるのに一番時間を使いましたね。

深町 どれくらい時間が掛かったんですか?

手島 大体半月くらいは、髪の毛の長さや色について議論がありました。ラフとして描いた絵はパターン出しやデザインの大小合わせてで30~40ほど。髪型と衣装のざっくりしたシルエット、相棒のデザイン、小物…と的を絞って詰めていき、最終的に形にしていく工程をとっています。最後に衣装の詳細を詰めながら全体のバランスを決めるのですが、トータルに見直した中で「この服装に合う髪型はどれか」という話に戻ることもあります。全部が揃わないと見えない部分もありますし、一つひとつのパーツはいいけれど合わせてみたら統一感がなかったというケースもあるので。これを繰り返しながら制作をしていきます。一度作ったものを再度作り直すこともあるので大変な部分も多いですが、アイデアを膨らませられる面白い部分でもあります。

深町 なるほど。

手島 アルセーヌは、獣神化前、獣神化1、獣神化2と3パターンの変化があります。次は獣神化をどのようにアウトプットしてきたかについて説明させてください。獣神化前のキャラクターは想定表を踏まえて、予告状を持ってこれから挑もうとするアルセーヌを描きました。獣神化1は、闇を闊歩しながら影を使うイメージ。相棒のカラス、ヘンドリックス4世が影に変身するアイデアをいただいていたので、それをデザインとして落とし込みました。またキャラクター自身はスタイリッシュでポップなイメージに決定していたので、闇に囲まれつつも、キャラクターの影だけでない、鮮やかな内面を出せるように闇の内側をカラフルにしました。獣神化2に関しては、エギーユ・クルーズ(奇岩城)に悠々と鎮座するアイデアがあったので、既に作っておいたエギーユクルーズのデザインをベースに、堂々としたポーズで玉座に座るイラストに落とし込みました。

深町 抽象的な要望やアイデアというのは、形にするときに迷いませんか?

手島 はい、迷います(笑)。でも逆に抽象的だからこそ、どういう風にイラストに起こしていこうかというデザイナーの腕の見せ所でもあるので、考えるのが楽しい部分でもありますね。

 

質疑応答

最後は質疑応答の時間。視聴者のみなさんから寄せられた質問にもリアルタイムで回答!ここでは、回答したいくつかの質問を抜粋してご紹介していきます。

 Q.「オベロン」についてはどのようにモチーフを作ったのでしょうか。
妖精シリーズとして生まれたキャラクターの一つが「オベロン」です。妖精の王様らしい王様を作っていくと少し味気なくて、もうひとひねりほしいところでした。そこに、実は心の中に野望を持っていて、それを叶えるために虎視眈々と狙っているという設定を加えて、制作していきました。同時期にオベロンの奥さんのキャラクターも出たのですが、神化については夫婦で合わせていきたいという要望があったので、統治した妖精の国で奥さんと二人で穏やかな日々を送っているイメージで描きました。

 

 Q.キャラクター1体に掛かる制作日数はどれくらいでしょうか?
平均すると3ヵ月~半年くらいです。アルセーヌの場合は半年くらい。アルセーヌは重要なキャラクターだったので、かなり時間を掛けました。

 

 Q.モンストでは実在する人物のキャラクターがたくさんいますが、史実通りの性別にするのかそれとも性別を変えるのか、どのように決定しているのですか?
例えば男性の人物であっても、モンストなら女性のキャラクターのほうが魅力的にできるのではないかとか、色々と検討した中で決めていきます。もちろん男性のまま進めていくケースもありますが、その場合も「かっこいいおじさんのほうがキャラクターの魅力が出るんじゃないか」といったように、年齢や風貌についての話し合いもあります。最終的なジャッジとしては、シリーズの中のバランスや、見た目のバランスなどを検討した結果決定しています。

 

 Q.デザインの世界観設定は、キャラクターがリリースされる何ヵ月前に始まるのでしょうか。
平均すると3ヵ月前くらいからです。長いものだと一年前から始まるものもあります。

 

 Q.キャラクターによって作り込みや制作フローは変わるのでしょうか。
大概ガチャと降臨を一イベントとして出しているので、バランスを含めて考えたときに、制作工程が変わることがあります。

 

 Q.各工程においてどのようなスケジュールで作成されているのでしょうか。
キャラクターによって期間が長くなったり短くなったりするので、本当にケースバイケースになってしまいますが…。スタンダードなケースでいうと、キャラクター設定は短いものだと1ヵ月。その後のイラスト制作が3ヵ月くらいです。

 

Q.これまでのご経験から作りやすいキャラクター、苦手なキャラクター、元ネタのモチーフなどで印象深かったものなどがあればお聞きしたいです。
デザイナーの得意不得意がある中で描いていくので、どれも作りやすくて、どれも作りにくい…というのが正直なところです(笑)。想定表の内容を見たときは、かっこよく作れそうだと思うのですが、いざPCの白い画面を目の前にすると何も浮かばないときも…(笑)。そういうときは、ちょっとでもアイデアを出すぞという気概を持って描き始めるとどんどん進んだりします。どのキャラクターでも大体そのような感じです。

 

 Q.アルセーヌの髪型を決めるのに時間が掛かったと仰っていましたが、具体的にどの点で迷ったのかを教えていただきたいです。
まず、髪は短いのか長いのか。長い髪だとしたら、おろすのか一つ結びにするのか。結ぶ場合はどんな結び方にするのか。緩く結ぶか、上のほうで結ぶか、下のほうで結ぶか。前髪の長さはどれくらいにするのか、といったところで議論が飛び交いました。ちょっとずつ髪の毛の長さを変えてラフを描き、どれが一番ピンとくるかを話し合いました。最終的に長めのツインテールで落ち着いたのですが、“スタイリッシュ”と“ツインテール”というのは少し想像しづらいもの。どうしてもツインテールというのは、子供っぽくて可愛すぎるという印象が先行してしまうので、絵で見せてイメージにぴったりくるかどうかをすり合わせるのが大変でした。

 

最後に

第2回目の「THE METHOD」では、モンストのキャラクターデザインと世界観の作り方について紹介してきました。モンストらしいキャラクターを生み出すために、どのような工程を辿り、どのように魅力づけされているのかという裏側を知る機会になれば幸いです。 オンラインセミナー「THE METHOD」は、今後も開催予定。様々な“メソッド”に焦点を当てながら、細かな制作ノウハウなどをお届けしていくので、ぜひ次回の開催を楽しみにお待ちください。

【次回の開催についてのご案内】

概要:THE METHODの第3回目は、ミクシィグループのヒットタイトル「モンスト」でユーザーの皆様が楽しく遊んでいただくための「ステージ」をどのように作っているかについてお話しさせていただきます。 モンストのレベルデザインやステージ制作全般を担当している林 孝年郎(ハヤシ タカトシロウ)がモンストをもっと楽しんでもらうためにどんな「ものづくり」しているかを生の声でお話しさせて頂きます。

日時
:2021年3月23日(火)19:30~ ※Q&Aを含め、40分程度を想定しております。
場所:オンライン配信(予定)

応募https://connpass.com/event/205824/   ※先着申し込み順となります。

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