他の会社はどうやってデザイン組織を運営しているのだろう?どんなデザイナーの方が働いているのだろう…。そんなデザインに関する等身大の疑問をテーマに、マネーフォワードとミクシィが本気で語り合うデザインイベントを全3回で開催します。
2022年3月23日に開催された第1回目は、デザイン組織を率いるリーダー2人が「デザイン組織」をテーマに対談。「経営とデザイン」「カルチャー浸透」「メンバーとの関係構築」についてお話していただきました。
━━それぞれの企業が手掛けているサービス、デザイン組織体制についてお聞かせください。
セルジオさん(以下、敬称略):マネーフォワードは、家計簿アプリ『マネーフォワード ME』はじめ、お金の見える化サービスを提供している会社です。他にもクラウド型会計ソフト『マネーフォワード クラウド会計』など給与計算や勤怠管理といった法人向けのプロダクトも多く手がけています。
デザイン組織としては、事業部ごとに「デザイン部」を設置していて、自分が所属する部門の“ビジネス”や“ユーザー”を深く理解し、デザインしていける体制があります。ただそれだけだと「組織横断的」とか「中長期的な取り組み」が漏れてしまいがちなので、デザイン組織の体制強化、全社ブランディングなどを行なう「デザイン戦略室」を設けています。
横山:ミクシィでは、『モンスターストライク』『共闘ことばRPG コトダマン』などのエンタメ事業、競輪・新KEIRIN PIST6・オートレースのネット投票が楽しめる『TIPSTAR』などのスポーツ事業、そしてサロンスタッフが見つかるアプリ『minimo』『家族アルバム みてね』などのライフスタイル事業と、幅広いビジネスを展開しています。
デザイン組織については、マネーフォワードさんと同じく、事業に紐づく形での体制を取りつつ、横串の組織として「デザイン本部」を設けていて、そこに所属するデザイナーも多くいます。デザイナーと呼ばれる社員は全社で240人程度で、そのうち30%が「デザイン本部」に所属していますね。
━━会社から期待されている「デザイン組織の役割」や「目指していること」について、お聞かせください。
セルジオ:マネーフォワードの場合は、デザインの力をプロダクト以外にも活用していく点です。たとえば、コミュニケーションのデザイン、ブランドのデザイン、面白いところでは「カルチャーのデザイン」の役割を担っているデザイナーもいます。ちなみに僕は、経営レベルから「デザインの文化」を創っていく取り組みをしていますね。
その背景には、社長の考えも大きくて。過去に社長がnoteで書いていた内容には「デザインとは、物事の本質を見極め、それを様々な手段を用いて周りの人たちに正しく伝えること。そして増幅していくことだ」と書いているんですよね。
横山:デザインは色とか形とかそういう話ではなくて、本質を見極め、それを届けていく役割がある、と。社長のお話、すごくいいですね。組織としてすごく先進的だなぁと思います。
ミクシィの場合は、IT企業あるあるかもしれないですが、これまで企画力や実装力、技術力で「ビジネスの価値」を作って世の中に応えてきた経緯がある。もちろんデザインの重要性は認識しているけど、成功体験ってところではまだ少ないと思っていて。セルジオさんが語ってくれたような成功体験を作るのは、僕らデザイン職がすべき戦いだ、とも思っているので、ビジネス成果に結びつけたいなと思います。
自分の役割でいうと、他の部門にも、そういった考え方が浸透していくきっかけ作りがまさにそれかな、と。「デザイン本部」の運営とは別に“広報”として社内外に活動している感じがありますね。
セルジオ:おっしゃったような“広報”の意味、分かります。マネーフォワードでは取締役や執行役員が集まって定期的に「経営合宿」が行なわれるんですが、僕はそこの企画とファシリテーターをやっていて。
横山:それはすごい。
セルジオ:その時々の経営課題に応じて、デザインを活用したワークショップを設計して、実際に経営陣に参加してもらうんです。たとえば、組織の課題が出たときに、従業員体験としてどういうところに課題があるのか?を考えるワークとかですね。「えっ、デザインでこんなことできるの?」と思ってもらえるような…。ある種、広報活動的な話です。
横山:なるほど。デザインの活用を経営でできれば、それをプロダクトでやらない理由がないですからね。
個人的にセルジオさんが策士だなと思ったのは、「デザイン思考」で経営をとらえなおすみたいな機会を、経営レイヤーで実行していることです。僕らはデザイン職なので、経営レベルから「デザインの文化」を創ることに価値があると信じているけれど、やってみないと分からないところも多分にあるから。
セルジオ:初回はめちゃくちゃドキドキしました。意味あるのか、お前は何をやってるんだ…って怒られたらどうしようって(笑)。けれど、デザインの可能性を何かしら感じていただいて、そこからいろいろなテーマを扱っていき、だんだんと軌道に乗った感じはありますね。
━━「デザイン組織」を率いる上で大事にされているのは、どのような点でしょうか。
横山:ミクシィはエンタメ、スポーツ、ライフスタイル…と、どんどん事業を拡大している中で、「デザイナーの横のつながり」は重視していますね。たとえば横断的なイベントとして、今期から年に4回「Designers Meeting」という全社のデザイナーが集まる時間を設けています。
各回でそれぞれの事業本部のデザイナーが自分たちの事業や手がけている仕事を紹介していて、テーマに縛りはありません。簡単にいうと“デザイナー同士の交流の場”です。来期はもうちょっとアップデートして、個々人のチャレンジや事業成果を発表できる場に変えていけたらと思ってます。
セルジオ:横のつながりが希薄になると、デザイナーの「キャリア自律」といった問題もありますよね。
横山:そうですよね。ミクシィには、上長に相談せずに好きな部署に行ける「異動制度」がありますが、他の事業部が何をしているのか全く分からない、異動先のマネージャーと面識がない状況だとハードルが高いと思うんです。一人ひとりのデザイナーが自分のキャリアを考え、選択していける場を整えていけたらと思っていますね。
セルジオ:マネーフォワードでも横断系のイベントを大事にしていて、いくつか取り組みがあります。1つは、毎週水曜日に実施している「デザイナーランチ会」。もともとデザイナーが10人~20人ぐらいだったときは、みんなで楽しくランチでも食べて、軽く情報交換でもしようと気軽に集まっていたんですが、どんどん発展していって。最近は、ナレッジシェアや、新しく入社された方の紹介・交流の場になっていますね。
それとは別にもう1つ、「デザイナー総会」があります。ミクシィさんの「Designers Meeting」に近い形だと思うんですけど、有志のメンバーが企画しているので参加は自由ですが、毎回ほぼ全員が集まります。内容も自由で、交流だけに振り切る会があったり、ナレッジシェア中心の会があったり。次回のテーマは「文化祭」になっていました。みんなで出し物を作ろうと、現場は張り切っていましたね。どうなるか分からないですけど(笑)。
横山:そういうのいいな。自分たちで「文化祭にしよう」と動き出せることが素晴らしいと思います。みんなが主役になれる、自主性というのかな。
僕は組織を良くするのは組織やマネジメントの仕事と考えるよりも、所属する“みんなで一緒に作っていこうよ”と思っています。だから、現場から自主性の芽が出てるときは、その芽をつまないように、もっと大きくなるようにと気を付けるようにしていますね。
セルジオ:「共に考える」「共に創る」の価値観が、互いの信頼関係になるし、カルチャーの浸透にもつながっていく。僕の話が全てじゃなくて、正解なわけでもない。それぞれの英知を集めたいと思っているし、それができたほうが強い組織になると考えています。
━━マネジメントの話にもつながってきますが、「メンバーとの関係づくり」についてもお聞かせください。
横山:関係づくりにおいては、「現場の人がどう感じるか」は、大切にしていますね。でも、だからといって、すべての要望を聞き入れるんじゃなくて、一方でちゃんと遠慮せずに言うのも忘れてはいけない。きっと、それは「ちゃんと伝えれば理解しようと向き合ってくれる」という信頼があるのだと思います。信じているから言うし、信じているからできるだけ声を拾いたいとも思うわけで。
なので、「情報の透明性」は、すごく気にしています。もちろん人数が増えていく分、怖さはあります。情報が漏れるんじゃないか…と。だけど、そうやってお互いを疑うと情報は閉じる一方です。もっと能動的に動いてほしい、次のグレードを見て動いてよと期待するけど、その動きをするための情報は渡せているのか?は、自分に問うことです。こういった類の不信感は絶対に生まれてはいけないものだなと思っています。
セルジオ:横山さんと話をしていて改めて思いました。メンバーに信頼してもらうには、まずは自分がメンバーを信頼しないと駄目だなって。
仕事って、結局のところ誰と一緒にデザインするかって話になると思っているので、人として信頼できるか、は組織の根幹にあるように感じます。だからこそ、葛藤や悩みを含めてシェアをしていく必要がある。お互いを知るきっかけになるし、距離が近づく一歩。大事な時間だなと思いますね。
━━最後は、イベント参加者からよせられた質問に対し、お二人からアドバイスいただきました。
Q.中途入社者のオンボーディングで工夫している点についてお聞きしたいです。
セルジオ:一番避けたいのは「入社後のギャップ」だと思っているので、自分たちを知った上で入社していただけるような取り組みを積極的に実施しています。noteなどでの発信もその一つですね。
あとは、UXデザイナーが考えたオンボーディングがあるんですが、それが結構いいなと思ってます。どういうものかというと、入社からの1ヵ月でどういう体験をしてほしいかを考えて、ロードマップが描かれているんです。ユーザーのジャーニーマップみたいなイメージです。誰がどうコミュニケーションをとって、フォローしていくのかが見えていて良いなと思ってます。
横山:いろいろな情報をドキュメントにまとめると、分かりやすさだったり、効率の良さだったり、メリットはあるんですけど、一方でコミュニケーションが減る問題もありますよね。
選考での面接では、めちゃくちゃフレンドリーな人たちが、入社した途端に「これ見といて」とURLが送られてくる…。そればっかりじゃないけど、そういう見え方をしていたケースもあって、どうコミュニケーションすべきかは試行錯誤しているところではあります。
Q.デザイン組織が、10~20名規模のときにチームビルドのために行なった取り組みがあれば教えてください。これから拡大する中で、現在のメンバーが“コア”になってくれる期待もあります。「組織へのロイヤリティ醸成のヒント」をお聞かせいただけると嬉しいです。
セルジオ:マネーフォワードが同じぐらいの規模感だったときに取り組んで良かったなと思うのは、シンプルに「マネーフォワードとしてのデザイン組織を良くするためにはどうしたらいいか?」をみんなで話し合った時間です。それこそ付箋に書いてボードに貼り付けていくみたいな経験をして。
振り返ってみても、そういう時間がすごく大事だったんだなと思っています。なので、自分たちがどういうチームになっていきたいのか、どういう価値を世の中に届けていきたいのかをワークしてみると良いと思います。
Q.デザイン組織を作る際に難しかった点と、どうやって解決されていたかをお聞きしたいです。
横山:課題のない組織や会社はおそらくないと思っています。場合によっては、課題だらけなんて場合もあると思うんです。その中で、いつも一番苦労するのは「優先順位」です。どこから手をつければインパクトのある成果につながるのかは常に考えていますね。最初の取り組みで、“おっ、これはいいかも”“空気が変わったな”とか、そんな風に周りに思われる状況が大切なんじゃないでしょうか。
語弊があるかもしれないけど「簡単にできて、効果が最大なところから手をつける」が重要だと思っていますね。
最後に
セルジオさんと横山、二人の対談を聞いて特に印象に残ったのは、一人ひとりのデザイナーが「個」として動ける組織づくりを大切にしていること。会社の規模やサービスの内容が異なる中でも、共通している点だったように思います。
“どうしたら良いプロダクトになるのか”“居心地の良い会社になるのか”を、役員や部長に任せるのではなく、それぞれの社員が考え、共に創っていく。それがカルチャー浸透にもつながっていくし、自律した働き方にもなるのだと感じました。「強いデザイン組織」を考える上でのヒントにもなりそうです。
2回目のマネーフォワードとミクシィの合同デザインイベントは、6月1日に開催予定。
テーマは「デザインプロセス」で、事業部側のデザイナーと横断組織のデザイナーが語りあうそうです。
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