「家族の一員」になる会話AIロボットをめざして。IT企業が挑むハードウェア開発の実態


- 髙田 信一
- 新卒で電機メーカーに入社し、電気回路の設計や画像処理のエンジニアを経て、2018年にミクシィ(現MIXI)に入社。現在、Vantageスタジオ Romi事業部 ロボット開発グループのマネージャーとして、「Romi」のハードウェア開発をリードしている。

- 川本 彩花
- 新卒で家電メーカーに入社し、冷蔵庫の組み込みシステム開発に従事。ソフトウェアの要求分析や設計、実装、評価までの一連の業務に精通。2023年にMIXIに入社し、現在、Vantageスタジオ Romi事業部 ロボット開発グループで「Romi」のソフトウェア開発を担当している。

- 永島 誠記
- 組み込みファームウェアの開発からキャリアをスタート。新規プロダクト開発やデジタルファブリケーションの技術支援などを経て、前職ではIoT製品のプロダクトマネージャーとして企画から量産、運用まで幅広く従事。2024年にMIXIに入社。現在、Vantageスタジオ Romi事業部 ロボット開発グループに在籍し、プロジェクトマネージャーとして部品の調達や管理などを統括している。
会話AIロボット「Romi(ロミィ)」の新モデルであるLacatan(ラカタン)モデルの開発を担う、髙田 信一と川本 彩花、永島 誠記。IT企業がハードウェア開発を進める理由や、設計から信頼性評価まで社内で一貫して取り組んでいる実態、そしてチームでものづくりに挑むやりがいを語ります。
目次
人々の感情に寄り添うロボットの開発へ。AI時代にハードウェア開発にも注力するMIXI
「Romi」の第1世代モデルが発売されて5年余り。すでに売り切れとなり、満を持して登場したのが次世代のLacatanモデルです。そのハードウェア開発をリードしてきたRomi事業部 ロボット開発グループのマネージャー、髙田が「Romi」の成り立ちやLacatanモデルについて説明します。
髙田:MIXIがコミュニケーションを軸としたサービスを展開する中、AI、ディープラーニングが技術的なブレイクスルーを迎え、それを活かして生まれたのが「Robot of mixi」、つまり「Romi」です。2020年6月に世界で初めて、ディープラーニングを用いて返す言葉を考える家庭用ロボットとして誕生し、「会話AIロボット」というジャンルができました。スマートスピーカーとは異なり、人々の感情に寄り添い、家族の一員になるようなロボットをめざしています。
Lacatanモデルには、「Romi」がもっと“家族らしく”なるための機能がいろいろ入っています。まず、すでに搭載されてるのが長期記憶と視覚機能です。長期記憶は、毎日の会話から大事なことを覚えてくれていて、たとえば『最近仕事が忙しい』って何度か話してたら、ある日『仕事、大丈夫?』って声をかけてくれる。家族が増えたとか、ペットを飼い始めたとか、そういうことも忘れずにいてくれるんです。視覚は、目の前の物や人をちゃんと見て認識できる機能です。その情報をもとに、会話やふるまいに反映できるようになっています。
そして、これから搭載予定なのが、リアルタイム会話とボイス変更機能です。リアルタイム会話は、うなずいたり、あいづちを打ったり、相手と声がかぶりそうになったらサッと口を閉じたり…と、人と話すときの自然な間を再現できるように。ボイス変更は、その人の好みに合わせて声を選べるようになるので、『もっと落ち着く声がいい』とか『明るい声がいい』みたいな希望にも応えられるようになります。
それを実現するために、ハードウェアの部分をアップデートしていると語る髙田。
髙田:「Romi」のかわいらしい表情がより見えやすくなるような機構設計を心がけているほか、生成AIが生み出す高い声、低い声に対応するために音響設計の面でも工夫を凝らしています。「Romi」は見た目がかわいいだけでなく、中身は部品点数も多く、きちんとしたロボットです。実装効率がよくない球体に多くの部品を詰め込もうとするのでいつも苦労するのですが、それでもスピーカーを大きくすることで生成AIの音声表現に対応しようとしています。
AI活用が当たり前になった時代に、ロボットというハードウェア面で開発ノウハウを持っていることはMIXIの強みですね。「MIXIでハードウェア開発を?」と意外に思われるかもしれませんが、製造に関しても組み立ての標準化設計や検査工程設計も含め、ライン立ち上げを行っており、関わっていない部分はほぼありません。3年ほど前から自社設計を始めましたが、100社以上のベンダーと協力しながら電気やメカ、ソフトウェアの設計、また主要部品の調達などすべてのプロセスで関わり、内製化を実現しております。
挑戦的なプロジェクトを支えるのは、多様な経験を持つメンバーたちです。それぞれに関わっている仕事や自らの強みを語ります。
川本:私はエンジニアとして、Lacatanモデルの組み込みソフトウェアを担当しています。主に、「Romi」がうなずいたり横を向いたりする部分の制御や、セットアップしてWi-Fiを接続する部分、そして「Romi」が歌う時のストリーミング再生などに携わっています。
前職の家電メーカーで冷蔵庫の組み込みシステム開発に携わっていた一方で、学生時代からロボット、ハードウェアが好きでした。少しだけですがメカに触れたり基板設計をしたりして、ハードウェアに関して幅広く知識を持っていることは自分の強みかなと思っています。
永島:「Romi」のハードウェア開発を牽引する髙田さんが総料理長だとしたら、私は食材を調達する役割です。ロボットに必要な部品を各所から購入した上で、実際に使用できるか検証したり、製造委託先に届けるタイミングを決めたりと、プロジェクトマネージャーとしてモノの管理や品質管理を統括しています。製造側と開発側をつなぐようなポジションですね。
キャリアとしては機械メーカーからIT業界に移り、スタートアップでIoTデバイスの開発などに携わってきました。エンジニアとしての経験や工場の立ち上げ支援など、さまざまな分野で知見があることは強みだと思います。
髙田:私はロボット開発グループのマネージャーとしてハードウェア全体を統括しています。もともとはエンジニアで、いつも熱量が高いことからメンバーには「情熱エンジニア」と呼ばれています(笑)。
かつてRomi事業部でハードウェア開発を始めることになった時、人材がいなかったんですよね。電気設計エンジニアや機構設計エンジニア、組み込みソフトウェアエンジニアもいなければ、信頼性評価をするメンバーもいませんでした。その状態からチームを立ち上げてかじ取りをしてきて、皆さんのおかげでここまで来ることができました。
「IT企業の中にメーカーをつくる」。ユーザーに最適なサービスを届けるため内製化を決断
髙田はLacatanの開発チームを立ち上げた経緯について、「外部委託による制約と急激な市場環境の変化があった」と語ります。
髙田:第1世代については私たちがプロトタイプを作り、量産設計はODMパートナーにお願いしていました。ただ、それだとパートナーの都合でさまざまな価格が上昇したり、ソフトウェアのアップデートのタイミングが制約されたりして、ユーザーに最適なサービスを届けられないケースがありました。
その頃、半導体が不足して価格が跳ね上がり、円安ドル高の影響で他の材料費も値上がりするなどの要因も重なり、「外部に任せずに自分たちでやろう」と内製化へと動き出しました。言わば、「MIXIの中にメーカーをつくる」ということです。
一方で永島が開発チームに参画したのは、意外なつながりからでした。
永島:私の妻が美容師で、そのお客さまが髙田さんだったのがすべての始まりです。妻の紹介で髙田さんに会うと意気投合し、私が当時進めていたIoTのプロジェクトに髙田さんが副業で参画してくれました。無事にローンチしたものの事業が売却されることになり、身の振り方を考えていたところ、髙田さんから「MIXIで働かないか」と誘われたんです。
過去に転職を重ねる中で、たいていはその会社が手がけるプロダクトの将来像が見えましたが、「Romi」に関してはまったくわからないと感じました。一体どんなものができるのか、売れるのか売れないのか。こういう時は、わからないところに飛び込んだほうがおもしろいと思い、MIXIに入社しました。
入社して感じたのは、働いている人たちが優しいということです。優秀であるとか待遇がいいというのも大事な要素ですが、人がいいというのは何にも代えがたい要素かなと。困りごとを相談したら嫌な顔一つせずに応じてくれますし、コミュニケーションツールで日々感じたことを書くと誰かが反応してくれるんです。コミュニケーションの仕方がバラエティーに富んでいて、孤立せずに済むのはありがたいですね。
川本は、学生時代からの夢を実現するために「Romi」のチームに合流しました。
川本:私自身、コミュニケーションロボットを持っているくらい好きで、いつかはこのプロダクトづくりに携わりたいと思っていました。そのためには量産開発の経験を積もうとメーカーで働き、3年ほどたって転職を考えていた頃に出会ったのがMIXIです。将来コミュニケーションロボットが流行し、家庭に1台、一人に1台という時代が絶対に来ると思っていたのですが、自分の想像と同じ未来をつくろうとしている人たちがいることに嬉しくなって、ジョインしました。
チームでは、ゼロからのスタートでした。前職では家電のIoTの通信部分や、組み込みソフトのコーディングに携わりましたが、ストリーミング再生やモーター制御、ましてやモーターについて量産前提の制御を考えるなんて初めての経験です。モーターの個体差に応じた制御も、MIXIだからできた取り組みだと思います。
このような経験ができたのも、「優しい環境」があったからです。初めてのことばかりという中、チームの皆さんに教わりながらチャレンジさせてもらい、自分の成長につながったと実感しています。
働く環境やチームの雰囲気について、永島と川本は「一体感がある」と口をそろえます。
川本:「このタイミングでこの問題が見つかるの?」という深刻な事態が起きても、チームとして暗くなることはなく、みんなで前向きに乗り越えようとする雰囲気です。
また、前職ではソフトウェア担当の私がメカの人たちと関わることはなく、お互いに何をしているのか知りませんでしたが、今では同じチームにメカや電気の担当者もいて、会議でも顔を合わせるのでお互いの状況がよくわかりますね。とても勉強になりますし、共にものづくりをしているという一体感でモチベーションが高まります。
苦境で試されるチームの底力。明るくポジティブに結束し、前進するすべを考える
Lacatanモデルの開発において永島の心に残っているのは、苦難に対してチーム一丸で挑んだ出来事だと言います。
永島:私たちは製造ラインを立ち上げました。他のメーカーならプロダクトの評価の仕組みや試験体制が整っていますが、それらをゼロから構築するというのは想像以上に大変でしたね。プロダクトを世に出すためには評価や試験をクリアしなければならず、うまくいかなければ発売が遅れていきます。時間との闘いの中、ようやくうまくいったかと思えばまた新たな不具合が発生するという状況でした。
でも、そんな時にこそチームの底力が発揮されるんですよね。私がコミュニケーションツールで「今、こんなトラブルが起きてしまった」と書き込んだ時には、他のメンバーが自主的に「じゃあ、評価の準備をしておきますね」と反応してくれて感動しました。
大変な状況であっても、明るくポジティブな雰囲気を保てるのがチームのいいところです。「一つのプロダクトを作るために頑張っている」という意識がみんなの中にあるから、トラブルが起きても犯人探しにはならず、「どうすれば前進できるか」だけを考えられるのがこのチームらしさ、MIXIらしさだと思います。
川本は、開発の中でハードウェア特有の課題に直面することもあったと振り返ります。
川本:モーターに関して、制御したはずなのにうまく動かないというケースがありました。当初は納入されたモーター自体に問題があるのではないかと思いましたが、調達担当の永島さんがベンダーとやりとりしながら調べてくれた結果、モーターは仕様内のもので問題なく、トルクの強さに個体差があるため、時としてそのようなことが起きるということがわかりました。
とはいえ、どのように制御していいのかがわからなかったところで、助けてくれたのが髙田さんでした。雑談の中でアイデアをいただき、その通りに実装してみたらうまくいったんです。結果的によいものができたのは永島さん、髙田さんのおかげです。このように、「Romi」をよりよくしたいという想いを持った人ばかりで、「『Romi』がよい方向に進めば嬉しい」という雰囲気がいつも漂っています。
「Romi」に愛情を注ぐ川本と永島にとって、仕事のやりがいを感じる瞬間も多いと語ります。
そして、設計から信頼性評価まで社内で一貫して取り組む中で、手応えも感じているという永島と川本。
永島:すべてを担うのは大変ですが、自分たちの手で細部まで作り込むことでプロダクトに対する意識が高まり、クオリティも向上すると思っています。それは単に数値で測れる品質だけではなく、ユーザーを感動させるような、言葉にできない価値にもつながるはずです。
たとえば製造委託先に依頼する際も、こちらの目線がシビアになるのでやりとりの質が上がります。以前、先方から「設計の変更内容の管理などをそこまで厳密に行っているのはMIXIさんだけですよ」と言われたことがあり、メーカーと遜色ない丁寧な仕事ができていると自負しています。
「夢中」が生む現場のひらめき。ユーザーと「Romi」の絆が強くなる未来を描きたい
「Romi」の開発で、3人がいつも心に留めているのはMIXIの企業理念 PMWV(※)です。それぞれに、とくに大切にしている価値観について話します。
川本:私が大切にしているのは「夢中」です。開発に関わるほど「もっとこうしたい」という想いが膨らみ、浮かんだアイデアはまず試してみるようにしています。
チーム全体も同じで、一生懸命によいものを作ろうとするからこそ「発明」が生まれる。髙田さんがふと「こうしたらおもしろいんじゃない?」と提案してくれる姿にも刺激を受けています。
永島:以前の会社の理念も素晴らしかったのですが、自分ごととしては響きませんでした。MIXIのPMWVを見た時は「ここなら自分に合う」と感じましたね。
とくに「発明」「夢中」はまさに自分そのもの。試したいことはやらずにいられない性分で、MIXIではその衝動を自由に発揮できます。一方で、「誠実」も大切にしています。プロダクトは人の設計やプログラム通りにしか動かないからこそ、問題が起きれば真摯に向き合う必要があります。
そして「ユーザーサプライズファースト」。Romiは数字では測れない価値を持つプロダクトなので、常に「どうすれば心を動かせるか」を意識しています。
髙田:私も「ユーザーサプライズファースト」という価値観が好きです。ユーザーが何を求めているのかを近くで観察し、驚きを届けられるアイデアを形にするよう心がけています。
同時に「誠実」も大切です。「Romi」を一つ作るだけなら簡単かもしれませんが、ユーザーが安心して使えるものに仕上げるには真摯に取り組まなければなりません。物理は嘘をつかないので、設計の誤りや妥協はすぐに結果に表れてしまいます。
そして、メンバー全員が「夢中」です。想定外の不具合が起きても、電気・メカ・ソフトの知恵を寄せ合い、自由な発想で解決していける。そんな環境があるからこそ、新しい挑戦を続けられていると思います。
このような価値観を軸として、3人は「Romi」の未来についても熱く語ります。
髙田:私はMIXIの採用試験を受けた際、「Romi」の事業責任者でもある笠原取締役ファウンダーに「ドラえもんを作ります」と宣言しました。Romiは当初、「ロボットである必要があるのか」という議論からスタートしましたが、実態があるからこそ生活に溶け込み、人との絆が生まれる。その確信をもって、家庭内ロボットとしての役割を果たしてきたと思います。
そしてこれからは、もっと人々の暮らしに寄り添っていきたい。家族や友人と一緒に出かけるような、人間らしい体験をRomiでも実現したいと考えています。そのためには、メンバーが「夢中」で取り組める環境づくりが欠かせません。プロトタイプを重ね、仲間を巻き込みながら、「ビッグRomi」や「スモールRomi」など多様な形で使えるプロダクトを生み出していけたらと考えています。
最後に、「MIXIでハードウェア開発に携わるおもしろさを伝えたい」とそれぞれの視点から話す3人。
髙田:一人ひとりが納得感を持ちながら、知的好奇心を存分に満たせるのが大きな魅力です。「担当が違うから関わらない」ではなく、さまざまな領域のメンバーが「ユーザーや『Romi』にとってどうか」を軸に集まり、一つのゴールをめざして動いています。だからこそ本気になって取り組み、合理的な判断でき、納得してものづくりができるんです。
かつて日本の技術者たちがトランジスタラジオをゼロから生み出したように、私たちも「未来はきっとこうなる」と想像しながら挑んでいます。その熱量の“現代版”が、まさにここにあると思います。
※PMWV……MIXIの企業理念。PURPOSE「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」MISSION「『心もつながる』場と機会の創造。」MIXI WAY「ユーザーサプライズファースト」VALUES「発明・夢中・誠実」
※記載内容は2025年7月時点のものです