現場から生まれる「MIXIらしいAI推進」。心もつながるコミュニケーションを支える挑戦

2025.11.17
金沢 広峰(かなざわ ひろみね)
テレビ局のグループ会社でデジタルコンテンツを扱う企業でサブスク動画配信サービスのシステム開発やプロジェクトマネジメントを担当。2021年ミクシィ(現MIXI)にキャリア入社。競輪・オートレース投票サービス「TIPSTAR」の映像伝送から編集・エンコーディング・配信を担うシステムの構築・運用を担当。現在は開発本部 たんぽぽ室 AI Value DesignグループでChatGPT Enterpriseの導入・展開プロジェクトに携わる。
定兼 熙(さだかね ひかる)
人材会社の情報システム部門でITインフラや社内ツールの運用管理などに携わった後、2021年ミクシィ(現MIXI)にキャリア入社。はたらく環境推進本部 コーポレートITサービス部で、全社で利用しているSaaSツールの運用管理を担当。SaaSツールに付随するAI機能の利用を社内で推進するためのガイドライン作成などにも携わっている。
周 軼駿(しゅう いしゅん)
2012年新卒でミクシィ(現MIXI)に入社。SNS「mixi」の機能開発やひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」の海外展開などを担当。2018年からは、はたらく環境推進本部 コーポレートエンジニアリング部でSaaSをはじめとした社内システムの運用保守やガバナンス強化・AI推進などを担当している。

MIXIのAI推進は、専門部署ではなく「現場」から生まれています。複数のAIツールを導入し、日常業務で自然に活用する社員たち。その中心で「MIXIらしいAIのあり方」を形にしてきたのが、金沢 広峰、定兼 熙、周 軼駿です。効率化だけではなく、人の可能性を広げるために。テクノロジーの先にある「心もつなぐAI」の姿を語ります。

現場から生まれるAI推進。日常の中で「あたりまえ」に使う環境を

MIXIでは、全社でAI活用が加速しています。現在、各部門で350を超えるAIプロジェクトが進行中です。その基盤となるChatGPT Enterprise、Google Gemini、Google Agentspace(現:Gemini Enterprise)の導入をリードしてきたのが、開発本部 AI Value Designグループの金沢 広峰、はたらく環境推進本部 コーポレートITサービス部の定兼 熙、そしてコーポレートエンジニアリング部の周 軼駿です。

金沢:私は、ChatGPT Enterpriseを全社員が使えるように導入・展開するプロジェクトを担当しています。以前からMIXIでは、福利厚生の一環としてChatGPT Plusの利用料を補助していました。そんな中で、社員から「もっと積極的に活用したい」「業務で安全に利用したい」という声が多く寄せられるようになったんです。その熱量に後押しされるかたちで、エンタープライズ版を全社導入することになり、私がプロジェクトを担当しました。
定兼:私は、全社で利用しているSaaSツール、たとえばGoogle Workspaceやチャットツール、プロジェクト管理ツールなどの運用管理を担当しています。新機能の追加や仕様変更の対応、社員からの問い合わせ対応なども行っており、日々ツールの最適な運用を支えています。その流れで、Google Workspaceに付随するGeminiについても、私たちのチームが社内展開を担当するようになりました。
周:MIXIは、2025年7月に国内で初めてエンタープライズ向け生成AIプラットフォームのGoogle Agentspaceを全従業員に導入しました(※)。私はこのプロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)を務めています。もともと定兼さんと同じくSaaSの導入などを担当していましたが、最近ではほとんどのSaaSにAI機能が備わるようになり、自然とAI推進に関わるようになりました。そういったこともあり、Google Agentspace導入の担当をすることになったという経緯です。

全従業員が複数のAIツールを使える環境が整い、今では日常業務におけるAIの活用は「あたりまえ」になりつつあると続けます。

金沢:技術的な導入支援だけでなく、AIを安全に利用するためのガイドライン整備や、業務での活用を促進するための基礎トレーニングプログラムの提供なども行ってきました。具体的なユースケースを交えたレクチャーだったので、「まずは使ってみよう」という意識が社内に広がったと感じています。
また、MIXIでは各事業本部に「AIアンバサダー」をおき、それぞれの現場でAI活用を推進しています。自分の業務と相性の良いツールを取り入れていこうという空気が自然に生まれるているのも、こうした取り組みの成果だと思います。
定兼:そうですね。とくにGeminiは、MIXIがグループウェアとして使っているGoogle製品ということもあり、「日常業務の中にあること」がすっかりあたりまえになっています。金沢さんが担当したChatGPT Enterpriseが先行して展開されていたこともあり、社員のAIへの抵抗感は少なく、Geminiの浸透は早かったですね。
周:Google Agentspaceについては、まだ手探りの部分もあります。それでも、経営陣が「良いものは試してみよう」と積極的に投資してくれる姿勢が、AI活用を大きく後押ししていると感じています。他社の方と話していても、「そんなにたくさんのツールを使えるの?」と驚かれることが多いですね。

※ Google Agentspace は、Google の高品質な検索技術と先進的な AI(Gemini)を組み合わせることで企業内情報を統合的に活用し、自然言語での情報検索、作業の自動化、コンテンツ生成などを可能にするプラットフォームです。MIXIでは、2025年3月に試験運用を開始。Google Cloudの技術支援を受けながら検証を進め、2025年7月7日より全従業員を対象に導入しました。

AIを「自分ごと」に。コミュニケーションから生む良い連鎖

▲開発本部 たんぽぽ室 AI value designグループ マネージャー 異儀田 諭

MIXIのAI推進を語る上で欠かせないのが、「現場主導」で進めている点です。専門部署を設けず、各部門が自らの判断で最適なかたちを模索しながらAI活用を進めています。その動きを当初から牽引してきた AI value designグループの異儀田は、その理由をこう語ります。

異儀田:MIXIは事業ドリブンな会社です。もともと全社で足並みを揃えるカルチャーではなく、常に事業の成功をゴールとした「事業最適」が求められています。AIについても同じで、各事業がもっとも効果を発揮できる方法を現場の判断で導入・推進していくのがいいという結論に至りました。「自分たちの事業にとって何が最適か」「どんな未来を描きたくて、そのためにAIでできることは何か」そうした視点で主体的に考えて動くからこそ、自分ごととして取り組めるし、リテラシーも自然と高まっていくのだと思います。
定兼:中央集権的な体制ではないからこそ、それぞれの部署の得意分野を活かせるんですよね。たとえば、Geminiはグループウェア上で使うツールなので、私たちの部署が展開するのが効率的です。一方で、画像生成のような領域では、デザイナーが中心となってノウハウを貯めていくのが理想的。その方が会社としてスピード感をもって最適解が出しやすいと思っています。

事業ドリブンで進めるAI推進は、ツール導入をリードする立場から見ても「MIXIらしい」と感じると言います。

周:AIに関する共通のガイドラインやポリシーは、金沢さんのチームに集約した上で私たちにも共有されますが、それはあくまで「事故を起こさないための最低限のガードレール」だと思っていて。その範囲内で、現場が主体となって自由にチャレンジできる体制こそ、MIXIらしさだと思っています。
金沢:みんな、AIを特別なものとしてではなく、「業務の中で使う道具の一つ」と捉えているんです。日々の課題を解決するためのソリューションとして、自然とAIと向き合っているのかなと思います。

そして、コミュニケーションが軸にあるMIXIのカルチャーが、「現場主導」のAI推進をさらに加速させていると口をそろえます。

定兼:社内のチャットツールにはナレッジを共有するチャンネルがあるのですが、AIに関しても「この業務でこういう使い方をしたらうまくいったよ」といった情報が日々投稿されています。それだけでなく、「AIを使って働き方を変えていこう」といった前向きな発信が自然と生まれるのも、MIXIらしいなと思います。
金沢:自分の業務にあてはめて「もっと便利にできるかも」とトライして自分たちなりの活用方法をアウトプットできているのは本当にすごいことですよね。強力なツールをそのまま使うのではなく、自分らしく、部署らしく使いこなしていく。そして共有していくという良い連鎖が生まれています。
先日、ChatGPTの新しい機能についてアナウンスしようと思ったら、すでにナレッジ共有チャンネルで話題になっていて、反応もたくさんついていたんです。こちらから働きかけなくても、良い情報は自然と共有され、必要な人は自分から取りにいく、そんなカルチャーをあらためて感じました。
周:部署を横断した連携がスピーディーに進むのも、MIXIらしさだと思います。AIツールを活用する際にはさまざまなリスクもあるため、法務や知財の担当者と合意形成していく必要があるのですが、その意思決定が早いのも大きな強みです。AIを使うことで、これまで以上に創造的なことに時間を使えるようになります。だからこそ、私たちは多くの人の「できること」を増やせるような伴走を心がけています。
金沢:当社のCTOである吉野 純平が「AIは人の仕事を置き換えていくものではなく、思考を拡張していくものだ」と話していました。まさにその通りで、AIによって生まれた余白や心理的な安心感が、「私たちにしかできないこと」に向き合う時間や、建設的に議論する時間をつくってくれる。そう考えると、AIはMIXIが大切にしている「心もつながるコミュニケーション」を、そっと支えてくれる存在なのだと思ったりします。

導入から「浸透」へ。AIが生み出す次の手応え

主要ツールの導入を終え、現在は業務での活用をより深めていくフェーズに入っています。導入の過程では多くの試行錯誤や苦労もありましたが、少しずつ成果が見え始め、手応えが広がっていると話します。

周:Google Agentspaceは、MIXIが国内で初めて導入したこともあり、先行事例がなかったことが一番大変でした。アクセス権限は正しく機能するか、どのように情報をインデックスすべきかなど、すべて自分たちで調べてリスクを洗い出し、受け入れられる範囲を検討しながらルール化していったんです。
まだしっかりと使いこなせている社員は限られていますが、MIXIがこれまでサービスを成功させてきたナレッジは、社内のドキュメントに豊富に蓄積されています。その「秘伝のタレ」を効率よく習得する手伝いをしてくれるのがGoogle Agentspaceの強みなので、今後もうまく活用してもらえる施策を試行錯誤しながら、みんなが使いたくなるツールに育てていきたいと思っています。
定兼:Geminiについては、グループウェアに付随するAI機能という特性上、基礎となるデータの扱い方をどう定義するかに苦労しました。Googleの規約と照らし合わせながら法務部などと連携し、懸念点を一つずつ解消していく必要があったんです。
導入後は、文字起こしや議事録作成が格段に楽になったという声を多くもらっていて、すでに一定の効果が出ていると感じています。今後は、会議に参加していないメンバーへの情報共有など、AIのアプトプットをより有効活用するノウハウの提供にも力を入れていきたいです。
金沢:ChatGPT Enterpriseも、今は「使うこと」から「どんな効果を生み出せるか」を問われるフェーズに移ってきています。導入から数カ月で月間アクティブユーザー率が従業員の90%に達し、社内のアンケートでも99%が「生産性の向上を実感している」と回答していて、とてもポジティブな結果を得られています。今後は、それぞれのツールの強みを活かしながら最適な使い分けを見つけていくことが課題だと感じています。
また、エンジニアの働き方も変化の途中にあります。これまでプログラミングを担当するエンジニアはコードを書くことが主な業務でしたが、今はAIが提案してくれますし、さらに自分で書いたコードをレビューしてくれるようになりました。「人対人」から「人対AI」になるという変化の中で、各チームがより良い方法を探りながら前進しています。

導入から活用、そして効果を求めるフェーズへ──異儀田も手応えを感じていると話します。

異儀田:今は社内でさまざまなプロジェクトが走り、各事業本部にAIアンバサダーも立てるなど、浸透度合いは格段に高まってきたと感じています。MIXIは、どこまでいってもアプリケーションを興して、ユーザーに価値を届けることで成長してきた会社です。この流れを追い風に、イノベーションを生み出す機運をさらに高めていき、新たな事業でしっかり市場に挑んでいきたいですね。

夢中で挑む、その先に。誰もがイノベーションを起こせる会社へ

新しいことに積極的に挑戦する姿勢と、コミュニケーションを大切にするカルチャー。その両方が息づく環境だからこそ、AI推進にも前向きに取り組むことができます。そんなMIXIらしい風土の中で、3人はそれぞれ大きなやりがいを感じながら挑戦を続けています。

定兼:AIそのものが過渡期にあり、世の中全体がAIのあり方を模索している時代に、その最前線でAI推進のプロジェクトに携われていることは本当に貴重な経験だと思っています。こうしたタイミングに立ち会える機会はなかなかないですし、そんな中で中心的な立場で動けることにおもしろさを感じています。
まだまだ活用方法を考えていくフェーズだからこそ、これから入社される方たちにも、今この時でしか味わえないおもしろさを一緒に楽しんでほしいですね。
周:MIXIは、会社として新しいことへの理解がありながら、現場にも大きな裁量がある。そのバランスがとても良いんですよね。自分たちの手でデザインして実践できる環境があるのは、大きな魅力です。
金沢:私自身、新しいサービスや技術に触れることにすごくワクワクしています。加えて、自分の取り組み次第で、社内にもそのワクワクを広げられる。自分の熱量が誰かの挑戦のきっかけになり、それが会社全体に広がり貢献できることに、とてもやりがいを感じています。2025年の新卒研修ではAIについての研修も行ったのですが、参加したみんなが、AIネイティブなんです。だからこそ、これから入社される方にも、いろいろなAIツールを自由に使えるこの環境に魅力を感じてもらえると思います。

まずは自分たちが楽しみ、仲間を巻き込みながら仕事を磨く。MIXIのバリューにある「夢中」を体現しながらめざすのは、MIXIの新たな価値を生み出すこと。異儀田は、そんな想いを込めてこう語ります。

異儀田:MIXIは事業ドリブンの会社ですが、これまでの成長を支えてきた長寿サービスの比重が大きくなっている現状があります。それを、AIを使った新しい価値創出で打破していく。「選ばれた人だけがイノベーションを起こせる」のではなく、「AIと共に、誰もがイノベーションを起こせる会社」にしていきたいんです。
業務効率化にとどまらず、ユーザーがこれまでにない驚きや体験を感じられるようなアプリケーションを生み出したいと思っています。
金沢:今は、AIを活用して間接的にサービスや事業を支えている段階です。今後、AIがユーザーと直接関わることで、これまでにない価値や体験を届けられるようになれば、大きなブレークスルーが生まれるのではないかと考えています。業務でAIを使えるようになったことで、すでに一歩、二歩は踏み出せているはず。そこからさらに前へ進めるように、チャレンジし続けていきたいですね。
定兼:そのためにも、AIがあたりまえにある環境の中で、社員一人ひとりの「こういうツールを使いたい」という想いを後押ししていくことが私たちの役割だと考えています。誰もが安心して新しいツールに触れ、自由に発想できるような環境を、これからも整えていきたいです。
周:一つひとつ成功体験を増やしていって、社内だけでなく社外にもポジティブな発信を増やしていきたいです。「AIをうまく使って成長している企業はどこ?」と聞かれた時に、MIXIの名前が挙がるように。それが認知やブランディングにもつながって、「仲間になってみたい」と思ってもらえる人が増えるよう、これからも貢献していけたらいいなと思っています。

※ 記載内容は2025年10月時点のものです

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