モンストのIP化における実現化のカギとノウハウとは?

2019.02.12

ミクシィグループでは「新規サービスの創出」「既存ビジネスの改善」「BPR」といったプロジェクトが進んでいます。このシリーズでは、事業化や組織作りなどプロジェクトで培った、さまざまなノウハウや知見を紹介していきます。

今回はモンスターストライク(以下モンスト)」のライセンスアウト(キャラクターやロゴなどの使用権を第三者の企業などへ許諾することを指す)に関するプロジェクトの話を、マーケティング戦略室 アライアンスグループの倉田にインタビュー。IP化を推進していくプロジェクトの経緯やどのような知見を得たのか聞いてみました。

きっかけはあの野球ゲーム

━━━━ライセンスアウトのプロジェクトについてインタビューしたいと思います。まず倉田さんの経歴や仕事内容を簡単に教えてください。

私は2016年4月に入社し、当時他社のIPであるキャラクターをモンストのゲーム内でコラボしてもらう、いわゆるライセンスインの業務をしていました。例えば「聖闘士星矢×モンスト」「幽遊白書×モンスト」などですね。

━━━━IPとして成長していくためにはゲームタイトルだけではなく、世界観やキャラクターまでイメージしてもらう必要がありますよね。

はい。アプリランキング上位のゲームでもキャラクターまでは知られていない。キャラクターを使って他の事業を展開させることも、基本的にはありませんでした。業界でもアプリゲームが他社のゲームとコラボすることは、あまりなかったのではないかと思います。

━━━━ライセンスアウトのきっかけは何だったのでしょうか。

最初のきっかけは2016年の年末にコナミさんからご提案いただいた「実況パワフルプロ野球(以下パワプロ)」とのコラボです。ライセンスインで「モンスト×パワプロ」、ライセンスアウトなら「パワプロ×モンスト」という両方のコラボが実現しました。インなら理解できたのですが、アウトは本当に上手くいくのか、需要はあるだろうかという不安がありました。

━━━━不安ですか。

はい。というのも、今までパワプロがコラボしていたのは野球の漫画などですし、パワプロは特徴がある二頭身のキャラがメインなので、モンストのキャラが実現できるか不安でした。

━━━━確かに、想像がつかないという不安も分かります。

そうなんです。とはいえ、ユーザーの方々に、別のゲームでモンストのキャラを楽しんでもらいたいと、社内では話していました。モンストとは別の楽しみ方をしてもらうのがコラボの魅力ですから。まだモンストを知らない方にも体験していただいて、「このイベント楽しかったな、このキャラ好きだな、あ、モンストのキャラなのか。」というくらいの意識を持っていただけたら嬉しいな、と。モンストが外に出ていくことによって、新しいファンの方も増えるだけではなく、既存のファンの方にも楽しんでいただけるのではないかと。

━━━━どのように実現していったのでしょうか。

キャラクターデザインはコナミさん側で制作してもらい、モンストの特長をうまく取り入れた、パワプロらしいキャラクターに仕上げていただきました。もともとコナミさんからライセンスアウトのご提案をいただいた段階で、キャラクターのラフ案もいただいていました。それを見てイメージは掴めていましたが、改めて「こんな風になるんだ!」という、新鮮な驚きがありました。

━━━━コラボの結果は?

セールスランキング1位をパワプロが獲得し、その時はモンストが抜かれてしまうという事態が起こりました(苦笑)。改めて、モンストのキャラクターのポテンシャルを感じましたね。

━━━━他ゲームでの影響の大きさを目の当たりにしたのですね。

はい。SNSでの反応をみると「まさか会話をするイベントにモンストのキャラが登場するなんて!」とポジティブな反響があり、今後への可能性を感じました。

━━━━ビジネスチャンスを見出したのですね。

そうですね。その反響を見た時、モンストのキャラクターの価値を客観的に示してもらえたと思いました。外のゲームの中でも、ユーザーの心を掴むことができる。それなら相手の企業にとってもメリットはありますし、我々のミッションである「モンストのキャラクターの認知度を上げて、IP化を実現する。」ということも達成できるのではないか、と。それでライセンスアウトを推進していくことにしました。

社内スキーム作りの難航と白猫コラボ

━━━━「パワプロ」はライセンスアウトにおけるトライアルになったかと思いますが、継続的にライセンスアウト事業をやっていくには、プロジェクトの仕組み化が必要かと思います。当時はどのような状態だったのでしょう。

全くありませんでした。例えばデザイン面では、後姿をどう描くか?の基準がないキャラクターもいましたし、体制面ではデザインの監修は誰がするか、シナリオチェックは誰がするか、といったことも決まっていませんでした

━━━━となると0からですね。

前提としてライセンスアウトをする構想がそもそもできていませんでしたからね。そのため、関係者と思われる人に声を掛ける、というところから、手探りでスタートしました。最初は人数も少なくて、基本的に私1人、社内監修窓口についてはライセンスインを同じ部署でやっていた方にお願いしました。ですから、ライセンスアウトの金額や、監修にどれくらいの時間がかかるのか、など試行錯誤しながら進めました。

━━━━なるほど。

このときの一連の経験があって、ライセンスアウトということも事業として広げていけるかもしれないという、可能性が現実味を帯び始めました。しかし、この時点では売り上げを伸ばすというよりも、露出を増やしIP化実現のための施策の一つでした。

━━━━まだスキームを構築するには知見が足りなかったのもありますか。

正直にいいますと、それは大きかったです。ただ「パワプロ」をきっかけに複数のコラボが実現していきます。

━━━━どういうことでしょうか。

2回目はネットマーブル社の「リネージュ2レボリューション」と、3回目はコロプラ社の「白猫プロジェクト」とのコラボが実現しました。

━━━━有名タイトルと実現できたのですね。

はい。「リネージュ2レボリューション」に関しては、先方にとっても初めてのコラボだったということもあり、大きなランキングアップと過去最高クラスの売上に繋がったそうです。

━━━━少しずつ手応えも見えてきましたね。

ええ。3回目の「白猫プロジェクト」は、モンストにとって直接の競合ですから、コラボをするか社内でも議論を重ねました。

━━━━競合だとやりづらさがありそうです。

十分な議論を重ね、ライセンスアウトの観点では、競合か否かを判断軸とするべきではないという決定になりました。まずはユーザーにとって新しい体験や、モンストのキャラの魅力を伝えられるかどうか、ということを優先するべきではないかと。また、ユーザーが流出する可能性も懸念事項としてありましたが、白猫プロジェクトとのコラボが始まってからのモンストのKPIに大きな変化は見られませんでした。

━━━━「白猫プロジェクト」側の反響はどのようなものだったのでしょうか?

ランキングが2位にまで上がって、アプリのインストール数もコラボが始まる前と比較して数倍になったというお話をいただきました。コラボによって、双方のファンの流入が見込めるので、数字の増加はある程度は想定できました。でも、それ以上の効果をもたらしたと思います。

━━━━それは何でしょうか。

「白猫とモンストがコラボ?」と、一見競合のサービスがコラボすることで、業界内で取り上げられ、話題になりました。ユーザーを驚かせるだけでなく、業界内にも大きなインパクトを与えられました。それにより「モンストとコラボできるのか」という認知が生まれるきっかけにもなりました。

━━━━それはライセンスアウトの観点から大きな前進ですね。

とはいえ、スキームはまだ試行錯誤を繰り返している状態で、予算やKPI、マイルストーンなどは整えなければいけなかったものの、それまでのフローを踏襲する形で進めていました。

業務フローは、もともと担当していたライセンスインの逆です。ライセンスインでは、版元に対して金額なども含めてご相談に伺い、決まったあとはどのキャラクターを使用させていただくか、どういう企画にするかなどを協議してから再び版元に伺ってお話を進めます。

ライセンスアウトの場合は逆で、相手の企業の担当者の方とお話をして、使いたいキャラクターや企画などの詳細をいただいて、それを社内で確認をしながら進めていきます。

━━━━ライセンンスアウトではどのような難しさがあるのでしょうか。

大変なのは監修ですね。先ほど言ったように当時はまだ正式な監修チームがありませんでしたので、キャラクターに関しては、例えばリアル3Dになった時にどのように表現するのか、装飾品も含めて考える必要がありました。デザインが簡略化されすぎると、チープに見えますから、バランスを考えながら作り込んでいく必要があります。特に、アニメになって出ているキャラクターではなく、イラストでしか出していないキャラクターは、後ろや横など、平面以外の部分を作り込んでいないということもあり、大変です。ライセンスアウトを進めるうえで監修の重要性は高まっていき、その後監修グループが発足するきっかけにもなったと思います。

━━━━キャラクターが誤った認知をされないためも監修がキーポイントになりそうですね。

その通りです。監修グループには、イラスト、シナリオなどの担当者がいて、それぞれ進めてもらっています。監修するキャラクターの数によって工数が変わりますし、社内のさまざまなプロジェクトなども担当していますから、負担をかけているという気持ちもあります。

━━━━負担をどのように軽減しているのでしょうか。

関係各所への早めの情報共有ですね。さまざまな調整が発生する中、プロジェクトを円滑に進めていくためには、丁寧なコミュニケーションが必要不可欠ですから。

━━━━どのように情報共有をしているのですか?

現在は、ライセンスアウトの年間スケジュールを立て、早めに関係各所に共有しています。

あらかじめ「○月ぐらいに○○のコラボ案件が発生しそうだ」という認識を持ってもらうことで、気持ちの負担が軽くなるでしょうし、優先順位も決めやすいですから。

━━━━確かに。

あとは、これは交渉次第でもありますが、準備期間も含め半年前から企画を進める、というのがお互いに無理がないですね。とはいえ、突発的にコラボが実現するケースも発生しますから、監修などにかかる時間によってはかなりタイトになることもあります。

課題を一つひとつ丁寧に

━━━━スキームは完成しそうですか?

今まさに対応しているところです。作業フローを改善していけるよう、関係各所のグループのマネージャーと1on1を実施しています。積極的にコミュニケーションを取りタスクの優先順位や、現場で判断ができるような基準を設けて権限委譲を行い、スピーディーに対応できる枠組みを検討しています。

━━━━現場で判断できると早そうですね。

そうですね。業務の効率化を図ることで、スキームも見えてくるかと思います。

━━━━他に課題はありますか。

まだまだありますね。例えば、プライシング。今まではコラボごとにその都度確認をして進めていました。しかし、今後コラボを定期的に行うとなると、さまざまな企業様に対して提案していきますから、ある程度の基準が必要になります。それをどれくらいに設定するか、協議を重ねている最中です。コラボする相手の規模や知名度、アプリセールスランキングなどさまざまですから、柔軟さも必要になってくるかもしれません。

━━━━明確には、難しそうですね。

たとえ多くのユーザーの方にご利用いただいているアプリだとしても、「キャラクターの価値」については未知数だった部分もあります。IPの価値は不変であるということを前提としながらも、変動していく市場価値を敏感に察知しつつ、適正な値段がつけられるように、細かいところを決めています。IPライセンス使用料というのは、明確な基準があるわけではないので、相場を見て判断するということができない分、難しい課題です。

また、KPIやマイルストーン設定、年間の売り上げ目標なども課題です。どの規模のゲームとコラボができたか、売上につながったかもありますし、キャラクターの見せ方で言えば、今までと違った楽しみ方をしてもらえるのかなどを設計する必要があります。

露出面についても課題はあります。露出のインパクトだけを考慮するなら大型IPとのコラボを考えがちですが、マーケティング的な視点では、新しいユーザーへの認知を期待できる露出も正解だと思います。

━━━━様々な課題がまだありそうですね。将来はどのような目標を想定しているのでしょうか。

スキームやパッケージングを整えつつ、定期的にライセンスアウトでコラボが実施されている状態を作りたいですね。コンスタントに露出し、モンストのキャラの認知度を上げていく。これに加えて売上への寄与ですね。もちろん「モンスト」のブランディングを維持しながらですが。

特にライセンスアウトの場合、クライアント先は、ゲームの売上に期待しているわけですから、その可能性をいかに明確に伝えられるかだと思います。IPとしての価値をどれだけ見出してもらえるかが大事になってくるわけです。

━━━━倉田さんがライセンスアウトを推進する理由は何でしょうか。

そうですね…、例えば売上でいうと、ゲームのヒットが一番インパクトがありますが、極端な話、仮にゲームがクローズすれば収益もそこまで、です。しかし、アニメや漫画など、他の媒体でキャラクターを展開し続けることで、また違った形での可能性を生み、会社を支える事業の一つにもなり得る。そういうところをIPとして目指していくことが大切だと思います。アライアンスグループとしては、少しでも認知拡大や売上拡大をサポートできれば良いなと思いますし、この先もずっと愛されるIPに育てていくための取り組みは、大事な事業戦略の一つと考えているからです。

━━━━そのような想いがあったのですね。

ライセンスアウトにおいては、アプリのキャラクターが他社のアプリとコラボするなんて、今までなく異例でした。あのゲームとコラボしたら面白いだろうなと頭で思っていても、自社のゲームの売り上げが下がってしまうのではないか、というリスクが先に立って、なかなか踏み切れないと思うんです。でも、実際にやってみて得られた知見や魅力の発見はたくさんありました。

━━━━知見や魅力ですか。

コラボするゲームだからこそ引き出されたキャラクターの新たな魅力もそうですし、IP商品としてキャラクターの将来性も見えてきました。また、個人的に感じる仕事の魅力は、コラボがいかに人との繋がりによって成り立っているかですね。

━━━━といいますと。

社内体制と社内メンバーの協力はもちろん、これまでコラボは、クライアントとの繋がりで決まるケースが多々ありました。クライアントとの関係値の構築は、この仕事の根本的な魅力と言えるかもしれません。

━━━━関係値はどのようにして作っていくのがいいのでしょうか。

それはもう、長い時間をかけて、地道にコツコツとコミュニケーションを重ねて、作っていくしかないですよね。私の場合は10年以上かけて作ってきた人間関係があります。これにノウハウは?と言われると困ってしまいますが、丁寧にコミュニケーションを重ねていくことが近道ではないでしょうか。

 

倉田 慶
2016年ミクシィに中途入社。マーケティング部アライアンスグループにて入社以降数々のモンストコラボを担当。現在もアライアンスプランナー兼ディレクターとして版元の開拓、折衝、社内調整などに携わる。

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