やり切ったと自信をもって言える1年だった 東証一部への市場変更の舞台裏

やり切ったと自信をもって言える1年だった 東証一部への市場変更の舞台裏

2020年6月23日、ミクシィの東証一部への市場変更について報告しました。それを実現するためには、もちろん東京証券取引所が設けている基準をクリアすることに加え、東証一部の企業としてのリスクマネジメント体制やガバナンスの仕組みなどを構築しなければなりません。

管理部門は、当初この東証一部への市場変更プロジェクトがスタートすると聞いた時に「今こそ、今度こそ」の想いだったそうです。厳しい審査を無事通過し、市場変更を実現したプロジェクトの舞台裏を、主担当で執行役員の島村と小林にインタビューを実施し、聞いてきました。


右/島村 左/小林

 

ゴールは市場変更、ではない?

━━━━まずは、「市場変更プロジェクト」の概要を教えてください。

島村 本プロジェクトがスタートしたのは、2019年1月ぐらいからですね。役員陣もコチラでいっていたかと思いますが、実は過去にも市場変更を複数回検討したことがあります。ただ、その時その時の会社として取り組むべき事柄の優先順位の関係で、見送ってきました。2019年スタートから2020年6月の承認なので、約一年半ぐらいのプロジェクトです。

小林 モンスト以降、急成長を遂げた事業サイドに対応できるように、コンプライアンスとガバナンス体制のさらなる強化を数年前から実施しており、2019年年始のタイミングである程度整いつつあったため、一部への市場変更を検討し始めた時期でもありました。チケットキャンプの件で世の中のみなさまにご心配をおかけしまして、第三者委員会から経営管理体制について改善の提言をいただいており、その対策が一通り完了し、運用が一巡したタイミングでもあったのも大きいです。


島村 次の事業の柱をどう成長させていくか、管理部門としてどのような事業への貢献ができるのかといった観点から、東証一部への市場変更は有効だと考えました。市場変更はゴールではなく、事業を成長させていくためのあくまでも手段です。一部上場企業は、「社会的な信用力がある」と一つの証明にもなりますから。地方圏の行政や企業と新しいビジネスを検討していくための交渉や協力体制などを進める一助にもなるだろうと。

証券会社とコンタクトをとり、現状の社内体制であれば、市場変更が可能か打診してみたところ、「可能性は十分ある」と心強い返信をいただいたので、役員陣と議論した結果、プロジェクトのGOサインがでました。

━━━━そのようなきっかけがあったのですね。お二人の主な役割はどういったものだったのでしょう。

小林 リスク関係全般、コンプライアンス、買収会社の法的論点全般が主な担当で。島村さんには、ガバナンス、経営及び事業戦略、収益計画などを担当してもらいました。

島村 最初は私と小林さんの2名でスタートしたのですが、証券会社から「◯◯に関するデータの提出をお願いします」「△△は、どの様になっているのでしょうか」と2人の担当範囲で把握している情報だけでなく、就業環境やシステム統制についてなどの調査依頼もありますから、人事本部やはたらく環境室といった部署にもサポートいただき、最終的には30名程度のプロジェクトになりました。

証券会社にも東証の審査部にも、膨大な情報を丁寧に説明していかなければなりませんから、僕らだけでは当然捌ききれません。「◯◯に関して、社内で詳しい人は、□□さんだよね?」と調査依頼事項に沿って、臨機応変に社内のメンバーに声をかけ協力いただきながら進めていきました。

 

事業スピードは緩めない

━━━━プロジェクトを進める上での課題はどのような点にありましたか。

島村 現在開発中の事業やこれから成長していく事業などの将来性をどのように論理的に説明できるか、という点はそれなりに難しかったですね。あとは、社内決裁の出し方なども改めてルールを整備し、より明瞭な形にしました。これまでよりも手間がかかるようになったかもしれませんが、全社員の皆さんのおかげで、証券会社や東証にいい心証を持ってもらえたことは非常に感謝しています。

小林 あとはM&Aですね。

━━━━どういうことでしょうか。

島村 通常といいますか、市場変更や上場を検討している企業の場合、企業買収や資本提携などのコーポレートアクションは控えます。というのも、市場変更のプロジェクトだけでも、丁寧かつ慎重に進めていく必要があるのに加え、企業買収の手続きにミスやチェック漏れがあるものなら、プロジェクトがご破算になりかねないからです。

小林 例えばですが、M&Aで対象の会社のコンプライアンスやガバナンスなどの体制に不備があったとします。そうすると、買収自体は実行出来たとしても、連結企業グループとしての責任などが問われますから、その結果、市場変更のプロジェクトが中止もしくは延期になる、というケースが想定されるわけです。かといって、企業・事業の成長のためにM&Aは必要不可欠であり、会社の将来のために見送ることも出来ません。そのためM&Aも実現させながら、市場変更も実現させるとなると、大変なんですよね(苦笑)。

島村 そうなんですよ。会社のあらゆる経済活動において審査が入るわけですからね。慎重を期して実行する必要がある。例えば、買収の時期をずらせば良いのでは、という意見もあるかもしれませんが、それは会社の事業成長のスピードのダウンやビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。それは絶対阻止しなければならない。本当に二兎を追う感じでしたね。

小林 ミクシィは今や、SNSだけの単一事業ではなく、ゲーム、スポーツなど様々な事業を展開していますから、事業領域や分野が広がれば、その分、会社のアクションも増えてくれるので難易度もあがるわけですよ。

島村 しかしながら、2019年から2020年にかけて、ミクシィとして今後の事業成長のために買収や事業譲渡を含めて計5件(内訳 買収:チャリロト社、スフィダンテ社、千葉ジェッツふなばし、ネットドリーマーズ社  事業譲渡:コトダマン)を実施しました。無事二兎を追いきれてよかったです(笑)。

━━━━なかなかに大変だったのが想像できました。ちなみに市場変更の審査フローはどのようになっているのでしょうか。

島村 まず、証券会社に市場変更を希望する旨を説明します。すると、証券会社側で案件を受けられるか事前審査が実施され、問題がなければ引受部門審査部門の審査に入ります。適格性、マネジメント体制の有効性、人事・労務体制、事業モデル、事業計画などですね。これらが問題なければ、証券取引所に推薦があがり、証券取引所の審査に入ります。

━━━━まだ審査があるのですね。

小林 ええ。ここから、証券所の審査です。担当審査官が2名ほどつきます。「Ⅱの部」と呼ばれる審査関係者のみが使用する書類の提出が求められます。これは、上場申請のための会社説明資料のようなもので、会社の沿革、業績、労務、事務運営、事業内容、経理の状況、関係会社などをこと細かく記載した書類ですね。それ以外に、数年分の取締役会、株主総会、経営会議の議事録なども提出します。すると……。

━━━━すると…ついに承認?

島村 いえいえ、まだまだ。担当審査官が提出資料を読み解いて、その内容から100問ぐらいの質問状を複数回送ってくれるんですね。この回答を担当者総出で制作していきます。正直、どんな内容の質問がくるかビクビクしてましたよ(笑)。回答を制作した後は、質問と回答内容の確認という形で実際に審査担当官からのヒアリングが複数回行われます。

小林 ちょうどコロナの影響もあり、打ち合わせに参加する人数の制限もありましたから、通常より少ない人数でヒアリングに対応しました。

━━━━その確認セッションは尋問みたいな感じなんでしょうか。

島村 いえいえ、そんなことはないですよ(笑)。審査官は紳士的な方ですし。ただ、あいまいな回答や間違った受け答えは、審査官の心証の悪化に直結しますので、応える側は非常に緊張感ありました。その審査が終わると、レポ―トが作られ、東証の中で決裁フローが走ります。その決裁が承認されれば、市場変更が承認されるわけです。

 

ワンチームで壁をクリアした

━━━━とてつもない数の審査が必要なのですね。しかし無事クリアし、6月16日に市場変更が承認されました。率直な感想を教えてください。

島村 素直に嬉しいですね。特に現経営陣は逆境の中でバトンを渡されていますし、収益的にも厳しい断面で会社経営を担っていてくれているわけですから、明るいニュースが提供できてよかったと考えています。

小林 島村さんと同じで素直に嬉しいですね。やっとの想いで、というのもありますから。また、先ほども市場変更の難易度が高くなっているとお話しましたが、この状況でよくやり切ったなと思っています。

島村 「タイミングは、今しかない」というのも大きかったですね。M&Aなどの少し時期がずれると、やり直しのリスクもあったかもしれませんから。また会社から色々でてくるアクションと並走しながらやりきってくれた部下やプロジェクトメンバーをはじめ、関係者各所のみなさんのご協力には感謝です。特にPMOを勤めたくれた私の部下には、大きな感謝をしています。

━━━━どういうことでしょうか。

島村 私と小林さんがPMとして立っているわけですが、先ほども説明した通り、売上1,000億円、従業員1,000人以上の規模の会社のあらゆる活動を全て把握するとなると、膨大な範囲の業務になるわけです。その中から、何を今判断するのかや、タスクの積み残しなどしっかり管理しておく必要がありました。そのプロジェクト管理を丁寧にしてくれましたし、各部署との調整、特に提出する資料のバージョン管理など、プロジェクトメンバーが仕事を進めやすくするために、献身的にありとあらゆるサポートをしてくれました。我々や証券会社、東証の審査官もコロナの影響で正直かなりプロジェクトがやりにくい、かつひっぱくしたスケジュールの中での対応が迫られていました。その中でスムーズな業務遂行、速やかな連絡などは、無事承認された一つの大きな要因だと思っていますし、私の心が折れずに完遂できたのも、彼、彼女のおかげです。

━━━━なるほど。確かに膨大な範囲になりますから、大勢の関係者との協力・連携が必要不可欠ですからね。

小林 役割に関してですが、私が会社のなんらかのアクションに対して徹底的にリスクを洗い出し、マネジメントしていく。島村さんが会社全体とコミュニケーションをとり、プロジェクトを前に進めていく。この明確な役割分担ができていたのも良かったかなと。

島村 あとこれは市場変更のためだけではないのですが、役員陣に働きかけて、これからのミクシィをどうしていくのか、より盤石な経営体制を構築するには、といった集中討議を継続して行ってきました。それらの動きも市場変更の承認に少なからず寄与したと思います。

━━━━お話を聞いていると、みんなで勝ち取った市場変更、の意向が強そうですね。

島村 その通りです。協力いただいている人事本部、はたらく環境室、法務部、経理財務部、経営企画部、投資・事業推進部、経営管理部といった各部署に加え、役員陣や直接ではないもののミクシィで働く皆さんが、何らかの形で市場変更のプロジェクトに関わってくれています。また、証券会社のある担当からは「貴社は、一部にあるべき企業だと思うから、私も最後まで伴走したい」と熱いお言葉もいただきました。この会社規模感、かつM&A年間5本という活発さの中での市場変更となると、IPOと同等以上の業務負荷かと思います。それでも最後まで走り抜けることができたのは、会社の未来に影響にするかもしれないというプレッシャーと、惜しみないみなさんの協力・サポートがあったからこそです。

執行役員 経営推進本部 本部長 島村 恒平

大学卒業後、複数の会社の経営管理部門を担当し、2016年4月、ミクシィ入社。経営推進本部 経営企画室に配属され、主に、事業支援、経営管理、M&A推進等に従事。 2019年4月、経営企画本部 本部長に就任。 2020年4月、執行役員 経営推進本部長に就任(現任)。

執行役員コンプライアンス本部 本部長 小林 完爾 

大学卒業後、2007年4月に法務担当としてミクシィ入社。契約書審査をメインとしつつ、サービスに関する法務業務全般に従事。2017年4月、法務部 部長に就任し、企業法務全般、知財、M&A、危機管理対応等を主管とし、法務部門を統括。2019年4月 執行役員 就任。2020年4月 執行役員 コンプライアンス本部長に就任(現任)。

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