チャンピオンになったからこそチャレンジャーであり続ける。千葉ジェッツふなばし 代表取締役 田村征也〈後編〉

チャンピオンになったからこそチャレンジャーであり続ける。千葉ジェッツふなばし 代表取締役 田村征也〈後編〉

千葉ジェッツふなばしの代表取締役社長 田村のインタビュー後編です。前編はこれまで築いてきたキャリアを中心に、後編では千葉ジェッツふなばしで取り組んでいることと、仕事観やキャリアに対する考え方について語ってもらいました。

※前編はコチラ

 

千葉県をバスケットボール王国にする

一人でも多くの方にバスケットの魅力を届けたい

千葉ジェッツふなばし(以下、千葉ジェッツ)のミッションは、「千葉ジェッツを取り巻くすべての人々をハッピーにする」。ビジョンは「千葉県をバスケット王国にする」ということを掲げています。それを実現するために、〈バスケットボール人口を増やす〉〈ファンを増やす〉〈若い選手を育てる〉という3つのことに注力していく予定です。

まず着手したいのが、バスケットボール競技人口を増やすということ。競技人口が増えないと良い選手も生まれませんし、ファンも増えません。それにはユースの育成がカギを握っています。バスケットボールは、サッカーや野球など他の競技に比べると、リーグやユースの制度が始まったのはつい最近のこと。例えばサッカーではJリーグが発足して29年が経ちましたが、バスケットボールのBリーグはまだ5年程度。ユースチームが発足したのもここ1~2年の話です。Jリーグが発足してユース育成に力を入れてきたからこそ、現在のサッカー人気が定着したのだと思います。そのため私たちは幼稚園などにもバスケットボールのボールやゴールを配る取り組みなどを行ない、幼少期のころから一人でも多くバスケットボールの面白さに触れてもらいたいと考えています。

実は、スポーツ観戦の年代別で見ると、野球は50~60代、サッカーは40~50代、バスケットボールは30~40代がボリュームゾーン。意外と思われるかもしれませんが、若い世代がバスケットボールの試合を観ているんですね。千葉県下の認知度調査を見ても、中学生くらいだと『千葉ジェッツふなばし』、『ジェフユナイテッド千葉』は同じくらいの認知度を誇っています。若い世代が知っているということは、まだまだチャンスがあるということ。若い世代からフォーカスし、5年後10年後のバスケットボール業界を支えてくれるようにマーケットを設計していく。それが我々バスケットボールチームとしてはすごく大事だと考えています。

また、これまで以上に幅広いお客様を迎え入れられる努力も必要です。試合が面白いだけでなくて、会場全体のエンターテインメント性も高めていきたいと思っています。というのもアリーナスポーツは、音響や照明などでエンターテインメント性の高い演出を加えやすい。試合を見に来るだけでなく、演者によるパフォーマンスや、高揚感をあげてくれる照明・音響効果、そのような仕掛けを施し期待値を超えるエンターテインメントに触れることで、千葉ジェッツを好きになってくれる人が増えればいいなと。とりあえず、一度でも会場に足を運んでもらう機会を持ってもらうことが大事で、初めはゲームルールが分からなくても見ているうちに覚えられるでしょうし、一度試合を見るとその後の勝敗が気になったりするもの。そのきっかけづくりをするのが私の仕事ですね。『モンスト』のTVCMを作ったときのように、クチコミで「面白いよ、すごいらしいよ」と広がっていく状態を作るのが集客の基本だと思っているので、これまでの経験を活かして突き詰めて取り組んでいきたいと思っています。

 

期待し続けられるクラブに

▲ミクシィのエントランスで、千葉ジェッツ優勝を記念した特設展示

インターネットサービスとスポーツビジネスについては大きな違いがあります。まず一つが、収益機会がかなり限られていること。ホームでの試合は年間30試合。この30試合の中でどう売上を作るか。。そして、チームがどれだけ活躍するか、どれだけ露出できるかによって、広告の価値が決まっていきます。PDCAサイクルを回すのもシーズンごとになるので、基本的に1年に1回しか回せません。タイムスパンが長いので、施策も慎重になります。

また、ビジネスの再現性が非常に難しいのもスポーツビジネスの難しさの一つ。チームのプロモーション活動によって認知やファン獲得の足がかりにはなるものの、それにはチームの実力が伴わないと意味がない。つまり勝ち続けなければならない。しかしながら、勝ち負けの絶対的な予測はできませんし、試合の勝敗は仕組化できないので経営する観点からすると非常に難しい。もちろん、だからこそ面白いという観点もあります。期待をかけられることがビジネスの根源なので、ファンやパートナー企業、地域、行政など、各方面からの要望に真摯に応えていきたいと思っています。期待し続けてもらえるクラブにすることが私の使命。「こいつならなんかやってくれるんじゃないか」と期待してもらえないと、次の打席には立たせてもらえませんから。

実は歴史を辿ると、千葉ジェッツはバスケットボール業界の中でも破天荒なタイプのチームなんですよね。日本のバスケットボール業界にはこれまで、bjリーグとNBLという2つのリーグが存在していました。bjリーグは競技性よりもエンターテイメント性の高いリーグ。NBLは競技性に特化し、実力ある企業チームが多く所属するリーグ。千葉ジェッツはbjリーグから発足したにも関わらず、NBLに果敢に参戦したりする割とチャレンジングなチームでした。また、今でこそスタンダードですが、試合前の派手な演出などもフロンティアとして挑戦していたので、目立つチームではありました。創設して間もなく、20連敗の記録があるなど実力も乏しく、常に挑戦する立場で失うものがなかったからです。そうやって常にチャレンジをして成功体験を積んできました。その後、天皇杯3連覇、そしてBリーグ優勝と成績を収め、人気と実力共にリーグトップのポジションを築きました。今後はこの成功体験を活かしつつも、新しいことにチャレンジしなければならない状況になっているというのはあります。

 

代表になって実を結んだ、2つの挑戦

自戒も込めてですが、組織運営の観点から見ても変化に決して強い組織とはいえないと思っています。これは課題の一つ。面白いアイデアが出ても「過去はこうだったから」という理由で頓挫してしまうこともちらほら。どんどん選択肢が狭まり、新しいことへのチャレンジができにくくなくなっている。過去の経験を活かしながらも、過去の成功体験を打破できるようなアイデアを出して常に挑戦していきたい、というのが私の考えです。今のジェッツを見ていると、ミクシィ時代に“成功していると、新たなものへの挑戦をためらってしまっていた時期があった”ときと似ているなと思うこともあります。チャンピオンになってもチャレンジャーでい続けるには、チャンピオンとしてのクオリティを保ちながら挑戦しないといけないので、当然ハードルは高くなっています。とはいえ、過去の成功体験に引っ張られていては新しいことができにくいのは本末転倒です。他のチームから驚かれるほど、ブースター(ファン・サポーター)と距離が近いことが千葉ジェッツの特徴です。そのブースターの声をできる限り一つひとつ拾い上げてチーム運営をしてきたのですが、ブースターの増加により丁寧に意見を拾えなくなってしまい、ブースター全員を納得させるアクションが減ってきてしまった。ブースターの声だけをチーム運営に反映させていくだけではいけない。顧客の期待を超える、ミクシィでいうところの“ユーザーサプライズファースト”の精神を、チーム運営で発揮することが今の課題だと考えています。

そんな中で、チームロゴを一新したのは大きな出来事でした。これまでのロゴは10年前に作られたもので、デザインが複雑で商業的にも扱いにくかった。時代に合わせてイメージの刷新を図るために、ロゴを新たに作り直しました。設立から10年の節目で優勝し、その後に新しいロゴを発表しました。新生千葉ジェッツとして次の10年を新しくチャンレジしていくというメッセージを発信できた。これは一番良いシナリオだったと思います。千葉ジェッツはそういう“ツキ”を持ってるクラブなんです。

またこの一年、社内体制において大きな改革に取り組みました。それは、ジョブチェンジを含めた、大規模な人事異動。良くも悪くも同じ仕事を続けているメンバーも多かったので、一度別部署や別業務を経験することで新しい視点で取り組んでもらいたいという思いもありました。また、異動は業務の引継ぎが発生します。これによって業務の仕組化を実現していく狙いもありました。将来を見据えて継続的にチーム運営をしていくためには、目の前のことを追いかけているだけではダメなんです。そのため、組織体系を変更して、目の前の仕事に取り組むチームと、少し先の未来を見据えながら今を推進するチームという、大きく分けて2つのチームが存在する組織に変えました。

これまでの体制では、どのメンバーも一年に一回のシーズンに向けて頑張るので、終わると燃え尽きてしまう。そして、またしばらくすると新しいシーズンがバタバタと始まり、リセットされたような状態で新しいシーズンに向き合う。一年を全力で駆け抜けてくれた事はもちろんありがたいことなんですが、僕らはビジネスとして積み上げ、伸ばしていかないといけない。それをなんとか形にしてこれたというのが、この一年の成果かなと実感しています。今後も千葉ジェッツの成長や可能性を伸ばせるように、運営チームとして全力でサポートできる環境を作っていきたいと思っています。また、構想段階ではありますが、新しいアリーナが完成したときに満員のお客様の中で試合ができることが、私の一番の夢であり目標ですね。

 

12年の中で辿り着いた自分の哲学

ターニングポイントは『モンスト』の誕生

私は、これまで自分が興味のあることを仕事にしてきました。好きなことでなければ、探求心が薄れてしまうから。幸いなことに、インターネットもゲームもスポーツも好きなんですよね。スマホゲーム『モンスト』のマーケティング担当だったとき、ゲームをプレイすることは仕事だと思ってない。スポーツも仕事だからではなくて、好きだから観ていました。プライベートと仕事が一体化していて、好きという気持ちが仕事の原動力になっているんだと思います。そんな私のターニングポイントとなったのは、『モンスト』での経験です。TVCMをはじめとするプロモーション施策や、台湾版『モンスト』の立て直し、大型イベント開催の成功など…次から次へと施策を打って成果が出るというサイクルを経験することができたのは、大きかったなと。いくつもの成功体験を積んできたので、新しいことに挑戦するときも成功のイメージが湧きやすくなりました。

大切なのは、ゴールイメージを持つこと。私は様々な業務の中で「どうなったら成功なのか」という状態について深く考えるようにしてきました。もちろん、目標というのは数値で測れることばかりではないでしょう。『モンスト』の目標は売上アップでしたが、千葉ジェッツの場合は「千葉県をバスケットボール王国にする」という抽象的なビジョンです。それを実現するためには、バスケットボールプレイヤーの人口を日本一多い県にする、千葉ジェッツが日本国内で優勝するレベルになる、ユース世代が全国で勝ち残れるように育成する、という具体的な目標が見えてきます。なので、どうすれば“ハッピーでグッドなのか”を常に考えることが大切かもしれません。こうなったら最高という状態から考えて、ここまでだったら合格、というラインを定める。これは、『モンスト』でマーケティングを担当しているときからずっとメンバーに言い続けていることだったりします。そして目標を言語化することも欠かせません。仕事は一人では完結しないもの。仲間とイメージを共有し、メンバーに求めるものをハッキリさせるために、なるべく言葉にしていくことも大事ですね。

 

常に挑戦し続けること、成功体験にしがみつかないこと

私の仕事観は3つあります。一つ目は、挑戦し続けること。私はこれまで、経験したことのないことに挑み続けてきました。一つひとつの経験が自信となり、挑戦することに恐れを感じることはなくなりました。これまでの経験値があるからこそ、目標を成し遂げるためには何が必要で、どんな仲間が必要か、というのが想像できるようになったので、課題をクリアしやすくなっているのだと思います。

2014年の夏頃から、『モンスト』のマーケティング施策の幅が広がりました。ゲームを作ること以外の仕事、例えばライセンスビジネスや、Web広告の出稿、攻略本の発行など、ありとあらゆる仕事を私一人で受け持つことに。ほぼ経験のない仕事なので本当に苦労しました。若手の育成をして組織を大きくしながら、新しい仕事を受けては自分でやってみて、正攻法を確立したら若手メンバーに渡していくというのを延々と繰り返していましたね。こういった働き方を経験したことで、自分は前例のない仕事に対する遂行力が高いというのが分かってきました。というのも、私は素人で無知だから突っ込んでいけたんです。経験があったらビビっちゃうじゃないですか。そしてビジネスを形にして、ユーザーに楽しんでもらうところまで、責任を持って取り組んでいけることが私の強みでもありました。

一見するとバラバラのキャリアのように見えても、全ての経験が結びついていて、これまで無駄な経験は何一つないと確信しています。経験として一括できているというのは、私の強みになっていると思います。でも、初めから狙って色々な経験を積もうとしてきたわけではありません。周りからチャンスを与えていただけたからこそ、こういったキャリアを歩むことができたと思っています。普通はこんなチャンスをもらえないと思うんですよね。中途入社で採用されたなら、経験がないと任せてもらえないでしょうし、新卒という生え抜きだからこそ「素人でもとりあえずやってみたらどうか」というように、打席に立たせてもらえたんだと。だから、ミクシィの新卒で入社できたことは、とても光栄なことだと思っていますし、環境に感謝しています。

二つ目は、人がやりたがらないことをやるということ。誰もやりたがらないことに価値があるからです。例えば、新しいことにチャレンジするときには、失敗する確率もある。だけど、チャレンジしない限りは、成功も得られません。多くの人は成功をイメージできるものしか飛びつかないと思うのですが、私は五分五分だったら飛び込むようにしています。あたりが出るまで飛び込めばいいというだけの話で(笑)。『モンスト』のTVCMを作ったときも、台湾版『モンスト』の立て直しを任されたときも成功確率は五分五分でした。もちろん成功イメージを自分なりに固めた上でですが。自分なりにその場の戦局を見て、こうすれば上手くいくんじゃないかという道筋を作って、実行してきた結果、成功することができた。でも、突き詰めて考えて実行した結果、ダメだったら仕方ないでしょう。やり切っているからこそ、失敗したとしても後悔はないですね。

三つ目が、成功体験に固執しないということ。新しいことにチャレンジできるのは、今の仕事が上手くいっているからなんです。もしも上手くいっていなければ、今の仕事を手放せないし、新しいことにチャレンジできるチャンスも回ってきません。とはいえ、上手くいっているときは、その仕事を手放したくなくなるものです。なぜなら成功体験にしがみついてしまうから。私は、新しいことにチャレンジして、上手くいったら人に渡していくという仕事を続けてきたので、今までの実績に固執しなくなりました。それよりも、経験したことのないチャレンジに挑むほうが嬉しいし、やり甲斐を感じるようになりました。私自身のキャリアについては、あまり人が歩んでこないような特殊な人生になってきていると思いますが、今までのキャリアを活かしてさらに新しいことにチャレンジできる環境があれば、これからも前向きに取り組んでみたいと思っています。

 

2021‐2022シーズンの戦い方

2021年10月から新たにリーグ戦がスタートします。コロナ禍の状況が続いている中、チームとしても、運営メンバーとしても、決して油断できない状況だと思います。20‐21シーズン、代表一年目にしてリーグ優勝という最高の成績を収めることができました。しかしながら、先述したように我々はチャンピオンでありつつもチャレンジャーでもある。その意識を選手・チームメンバーはもちろんこと、ブースター、スポンサーの皆様にもご認識いただき、共に発展し続けていきたいと思っています。

田村征也 株式会社千葉ジェッツふなばし 代表取締役社長
2009年ミクシィに新卒として入社。SNS『mixi』の広告営業や、『mixiゲーム』のアライアンス担当として従事。2015年、モンストスタジオ(のちのXFLAGスタジオ)マーケティング部 部長に就任し、『モンスターストライク』に関するイベント企画、メディア展開等を行う。2018年同社執行役員就任、翌年の2019年株式会社千葉ジェッツふなばしの取締役就任。2020年6月同社の代表取締役社長に就任。2021年千葉ジェッツふなばしのBリーグ初優勝を果たす。

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