FC東京の2023シーズンが終了。川岸社長に総括してもらった

FC東京の2023シーズンが終了。川岸社長に総括してもらった

FC東京がMIXI GROUP入りして2年目となる2023シーズンが閉幕。シーズン途中の監督交代や、新クラブエンブレムの発表など、戦績・運営・興行面のさまざまなトピックについて川岸代表に総括を聞きました。

東京フットボールクラブ株式会社 代表取締役社長 川岸 滋也
慶應義塾大学経済学部卒業。1999年 株式会社NTTドコモ入社。コンテンツ開拓やポータル運営、Webサービスの立ち上げ等、ネット事業全般に携わる。2008年7月 株式会社ミクシィ(現MIXI)入社。mixi Platformを活用したプラットフォーム戦略の検討や各種アライアンスを推進。2012年 株式会社リクルート入社。ネット系開発部門やコーポレート部門で従事後、2020年7月 株式会社ミクシィ(現MIXI)に復帰。ライブエクスペリエンス事業本部 スポーツ事業部の事業部長を経て、2022年2月 Jリーグクラブ FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社 代表取締役社長に就任。

ビジョンに向かう「スイッチ」の必要性を感じた

━━2023シーズンはFC東京にとってどのような1年でしたか?

クラブはビジネス面とフットボール面という両輪で成り立つものです。MIXI GROUP体制になって1年目はビジネス面もフットボール面も新たな第一歩を踏み出すことができましたが、2年目となる2023シーズンにおいてはビジネス面は着実に歩みを進められたものの、フットボール面は残念ながら停滞してしまい、成績面でも良い結果を残すことができませんでした。良いところと悪いところがはっきりと出てしまい、クラブとしては矛盾に満ちた1年、全体として総括するのが難しい1年になったと感じています。

━━やはりサッカークラブとして成績面で悔しさが残る?

そうですね。リーグ成績は11位(12勝7分15敗)でしたし、ルヴァンカップは準々決勝敗退、天皇杯はラウンド16敗退で、いずれもタイトルに届かなかったことを考えると悔しさがあります。

━━クラブ経営に携わって2年目という視点ではいかがでしょうか?

昨年、私がクラブの代表に就任するにあたり、主要株主である東京ガスさんをはじめ、経営に参画いただいている中核企業各社のご理解を得ながら、新しい経営プランを策定し、クラブ経営をスタートしてきたのですが、実際に「中の人」になってみると当初の経営プランがフィットするところもあれば、フィットしないと感じるところも1年目の後半にはでてきました。

━━フィットしないところというのは?

一例ですが、FC東京の「東京」ってどういうイメージなのかを各スタッフに問うてみると、スタジアムや小平グラウンド周辺エリアのイメージが強いスタッフもいれば、渋谷のような高層ビルが建ち並ぶ都心も含めた「首都東京」をイメージするスタッフもいました。他にもクラブとしてのゴール設定にバラつきがあったり、共通言語が欠けていたりしたので、意思統一の必要性を実感し、クラブのビジョンを策定しようと考えました。

━━それが2023シーズンの年初に発表した「FC東京VISION2030」ですね。

そうです。「FC東京VISION2030」は、FC東京のミッション、バリュー、スローガン & マニフェストを定めた「クラブフィロソフィー」の解像度を一段と高め、クラブに関わる選手・スタッフの目標意識を揃えるためのものとして策定しました。2023シーズンは、さまざまな研修等を通して、そのビジョンをクラブ内に浸透させる施策を行ってきました。

━━クラブエンブレムを変更するアイデアも、ビジョンを策定するプロセスの中で生まれたのでしょうか?

はい。クラブ内で何度もディスカッションを重ね、FC東京が向かうべき方向性を整理し、ビジョンを具体化していく中で、次の歴史の1ページを開くための区切り、そしてクラブが前に進むための1つの「スイッチ」として新しいエンブレムが必要だという考えに至りました。

━━最初からクラブエンブレムの変更ありきではなかったんですね。

そこは色んな誤解があって……苦しかったですね。私なりにサポーターとの対話・議論・コミュニケーションに努めてきましたが、全ての方に納得していただくところまで至らなかったので、私自身の力不足だと感じています。改めて強調したいのは、私がクラブの代表となり、新たなビジョンを策定する上で必要性を感じて発案したということであり、MIXIの意向とは関係ありません。

━━新しいクラブエンブレムは「継承と革新」がコンセプトですね。

FC東京が築き上げてきた歴史の“継承”と、クラブの新しい歴史を創る“革新”への想いをこめています。新しいクラブエンブレムを制作するにあたっては、旧来のエンブレムのデザインに使われているアルファベットの「T」や「炎」、クラブカラーの「青赤」そして「ストライプ」それぞれの要素にこめられた意味、制作時の経緯、そしてファン・サポーターが実際にどのように活用しているかなども調べて、正しく理解するべく検討を重ねました。

━━とはいえ、全ての要素を盛り込むわけにもいかなかったと思います。どんな論点があったのでしょうか?

本当に色んな案がありました。例えば、「東京タワーや浅草寺のような、東京らしいモチーフを採りいれるのはどうか」「アルファベットのTは残すべきか」「サッカークラブらしさをどう表現するか」といったさまざまな視点・アイデアについて議論しました。デザインパターンは何十パターンもあったと思います。

そうした中で「クラブカラーである青赤を使用する」「ストライプを継承し進化させる」「盾のシルエットとする」といった要素に集約し、シンプルですが、各要素に意味を込め、首都・東京をイメージさせることを目指したエンブレムになりました。

━━クラブ名を和英統一したことや、新しいロゴタイプの発表も話題となりました。

「F.C.TOKYO」から「.(ドット)」を外し、「FC TOKYO」表記になりました。さらに、2段組みにすることで、「TOKYO」の視認性をあげています。FC東京はサッカーのクラブでありながら、それ以上の存在になりたいという想いもこめています。Tシャツやパーカーといったアパレル、動画によるプロモーションや街路灯フラッグ等に至るまで、さまざまなシーンに展開できるよう拡張性・展開性を考えたデザインになっています。より多くのファン・サポーターに親近感や愛着をもってもらえたら嬉しいですね。

自ら考え動ける組織への成長を実感

━━川岸さんは社長就任時から「新しい挑戦ができる組織作り」に積極的に取り組んできましたが、現在までの手応えはいかがですか?

私が推進してきたのは、新たなクラブビジョンを掲げ、そのビジョンに対して現在地を把握し、未来に向けてやるべきことを皆で考えていきましょう、という土台の整備です。

もちろん私にも色んなアイデアやこだわりはありますが、それが必ずしも最適解というわけではありません。トップダウンで決めるのではなく、クラブビジョンの実現に向けて、ステークホルダーの皆さんと向き合いながら、必要だと思うことを考えて、実行してほしいとスタッフには伝え続けてきました。その結果、今ではいろんなアイデア・提案が出てくるようになりましたし、私自身が「あれをやろう」「これをやろう」と言わなくても、良い意味でどんどん進めてくれるようになってきたと実感しています。

━━具体的にはどのような変化がありましたか?

例えば、試合運営時のスポンサー対応です。これまではセールススタッフが試合運営のヘルプとして裏方作業に回ることが慣例のようになっていましたが、そうした慣例をゼロベースで見直し、セールススタッフが本来優先するべき業務は何か、スタッフ一人ひとりに再考してもらいました。その結果、スタジアムに来場されるスポンサーへのホスピタリティを率先して行うようになり、スポンサーとの関係性が強化されるようになりました。

また、スクール部門においても業務内容を見直したり、担当人員を増強することで、スクール生を増やすためのさまざまな施策に着手できるようになりましたし、実際にスクール生をこの2年で約500人も増やすことができました。これもクラブのビジョンが明確になったことで、どこに注力すべきか、打ち手がわかりやすくなったメリットの現れだと思います。

他にも、スタッフの起案で「ダイナミックプライシング」の試験導入に取り組みました。結果的に2024シーズンは導入を見送ることにしましたが、自分たちで仮説をたててチャレンジしてくれたことはポジティブに捉えています。

━━まずは挑戦するというスタンスが根付いたんですね。

やってみないと、良かったのか悪かったのかわからないものです。もちろんクラブに大きなダメージを与えるような実験はできませんが、小さな実験はどんどん取り組んでも良いのではないかというのが私の考えです。スタッフが自分の力を発揮しやすいように場を整えることが、社長である私の役目。ビジョンに沿ってアクションすることを地道に続けていたら、スタッフが自ら考え動くという意識改革につながったと思います。

━━今シーズンはビジネス面では好調でした。

2023シーズンはクラブ史上最高の売上高となる見込みです。スポンサーセールス、チケット収入、スクール運営、グッズ売上など、ほぼ全ての部門が過去最高の売上を出すことができました。これはスタッフみんなが頑張ってくれたからこそ出せた成果だと思っています。

━━入場者数も過去最高レベルでした。

今シーズンは、1試合あたりの平均入場者数が約3万人、延べ約50万人の方にご来場いただきました。これは2019年の優勝争いをしたシーズン以来の水準です。FIREWORKS NIGHTなどに代表されるさまざまな試合演出や青赤パーク等のアトラクション、スタジアムグルメへの取り組みの成果だと思います。味の素スタジアムの周辺で折込チラシをやってみたところ新しいお客さんが来場してくれるなど、地道なマーケティング施策も効果がありました。

━━2023シーズンは、FC東京は東京都との「ワイドコラボ協定」や渋谷区との「S-SAP協定」を締結しました。その効果・成果はいかがですか?

協定を結んでいただけたのは、これまでの活動を認められたからこそだと思うので、非常にありがたいし嬉しいことだと感じています。協定を結ぶことで、さまざまなご相談も寄せていただけるようになりましたし、我々も相談しやすくなっているので、東京都をはじめとする各自治体との関係もより深めていけると思っています。

━━具体的にはどのような活動があるのでしょうか?

例えば東京都からのPRや啓蒙活動について、試合会場で選手やマスコットを動員したコラボレーションなどがあります。FC東京側から防災・減災の普及啓発、介護・フレイル予防に向けた体操教室の開催等の提案もできるので、お互いにできることを探しながら進められるようになりました。

━━MIXI GROUPだからこそ実現できたことは何かありますか?

MIXI GROUPのプロバスケットボールチームである千葉ジェッツふなばしと、スクール運営やSNS活用、スポンサーセールスのノウハウ等について有意義な情報交換ができるようになっています。

また2023シーズンはFC東京の公式アプリをMIXIに制作してもらいました。UI/UX等のノウハウが豊富ですから、クオリティの高いものができたと満足しています。2024シーズンも開発を継続して、より良いものにしていく予定です。

フットボールの取り組みは道半ば

━━2023シーズンの成績についての総括もお願いします。

Jリーグ戦は12勝7分15敗での11位、ルヴァンカップは準々決勝、天皇杯ではラウンド16での敗退となりました。残念ながらいずれのタイトル争いにも絡めず、厳しいシーズンとなりました。シーズン途中にはピーター・クラモフスキー監督に交代し、フットボールスタイルの路線は継続しつつ、守備の再整備を行ない、失点を減らし、結果としてクリーンシートの試合を増やすことができたことは一つの成果だと捉えています。一方、攻撃においては、好不調の波が大きく、得点が期待できそうなシーンで決定力を欠く場面も多く見られました。ファン・サポーターの皆さんにはストレスがたまる試合も多かったかと思います。

フットボールの取り組みは道半ばです。スローガンである「東京が熱狂」を実現するために、今シーズンからFC東京のフットボールスタイルを「+1 Goal(ワンモアゴール)」と定めました。これは、1点とってもさらに得点を狙う攻撃的なスタイルを目指していこうという意思表示です。トップチームからアカデミー。スクールまで浸透を行い、FC東京のフットボールスタイルの確立を今後も目指していきます。

━━川岸さんは、監督や現場スタッフとはどのような会話をしているのでしょうか?

私はフットボールのプロではありませんので、戦術やメンバー選考についてどうこう話をすることはありません。監督やスタッフと「今日の試合をどう分析し、振り返っているか」や「上手くいった場面 / 上手くいかなかった場面は何が違うのか」といったことを聞くことはありますが、その意図は、監督の想定する戦い方が実現できているのか、監督の意図通りに選手たちが動けているのか、何が課題なのかを理解するためです。私は、クラブとしてできることは何なのか?をいつも現場スタッフに問いかけながらサポートしていく役割なので、そういう会話がほとんどですね。

━━2023シーズンは若手選手が数多く台頭してきました。その点についてはどう捉えていますか?

光栄なことに「2023Jリーグ 最優秀育成クラブ賞」を受賞することができました。育成については数年前から力を入れており、さまざまな取り組みが今開花してきているのだと思います。若手選手たちはクラブの誇りですし、アカデミーの育成力はFC東京の強みだと捉えています。

━━来シーズンへの意気込みをお願いします。

ビジネス面については、自ら考えて進められる集団になってきたと思うので、今後も前進させていきます。例えば、ファミリー層へ向けたU-12チケットの設定、MXテレビさんと相談していますが試合の放送拡充など、新エンブレムを活用した商品開発や、新しいファン層へ届く施策をさらに強化していきたいと思います。フットボール面においては、どのように「勝てるFC東京」にしていくかがテーマですね。スポーツとは難しいもので、理想のスタイルを掲げていても実際の試合で上手く機能するときもあれば、上手くいかないときもあるものです。困難なときこそFC東京が目指すフットボールに確信をもって全員で戦えるかどうかが重要だと考えています。一丸となって、上位で戦えるシーズンにしていきたいですね。

━━川岸さん自身はどのようなことに取り組む予定ですか?

ここまでの2シーズンは、私はビジネス面に比重を置いてクラブを率いてきましたが、これからは私もフットボール面の解像度を一段上げて色んなことを考えて、対策を打っていきます。マイクロマネジメントをするわけではありませんが、強化部のサポートは特に注力していく分野です。スカウティングや分析、選手とのコミュニケーション等に優先的に時間が配分できるよう、強化部スタッフが専門領域で最大限能力を発揮してもらえる環境を整えていきます。「こういうスキルを持ったスタッフやコーチが必要」というのであれば、そこにどう予算をつけるかを一緒に考えていきたいです。

FC東京のフットボールスタイルを実現し、かつ勝てるチームになるために何がクラブとして必要かを議論し、着実に手を打っていきたいと考えています。いずれにしてもビジネス面とフットボール面の両輪をしっかりと前進させて、さらなる高みを目指して全力で取り組んでいきます。2024シーズンもよろしくお願いします。

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