最近よく耳にする「NFT」。アートや、音楽、写真、アニメ、ゲームなどのデジタルコンテンツの固有性を証明するために「NFT」を利用した事業が国内外で拡大しています。このNFTはそもそもどのような仕組みで成り立っているのか、そしてどんなサービスで活用される可能性があるのか。様々な角度からシリーズでお伝えしていきたいと思います。
第一弾はNFTの基礎について。ミクシィ社内でNFT事業を担当しているデジタルエンターテインメント事業本部の今井に、NFTの基礎知識を解説してもらいました。
※本記事は、『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計まで デジタルデータが資産になる未来』(朝日新聞出版)を参考に解説してもらう形で作成しています。
NFTはデジタルデータの「唯一性」を認識する技術
NFTとは、Non-Fungible Tokenすなわち「非代替性トークン」の略称です。「トークン」とは「代用貨幣」や「引換券」などの意味もありますが、ここでは「デジタル資産」と理解しておけばわかりやすいでしょう。
「非代替性 = 代替が不可能」とはどういうことかというと、リアルを例にあげてみましょう。例えば、一点ものの絵画やサイン入りユニフォーム、あるいはシリアルナンバーのつけられた限定モデルのスニーカーのように、唯一性が認識されるもののことです。
同じサイズ、同じ柄のスニーカーだったとしても、シリアルナンバーや有名選手のサインがあると、完全に一点モノになりますよね。全く同じように見えても異なるモノ。それが非代替性です。
デジタルでも同様に、唯一性を認識されるデータ単位が「NFT」ということです。デジタルデータはそれ単体をコピーすることは容易ですが、その無限のデータの中から「本物」「唯一無二」を見分ける技術がNFTということです。
反対に「代替性トークン」はFT(Fungible Token)と言われ、リアルでは「現金」、デジタルでは「仮想通貨」がこれに当たります。つまり全ての1万円、1ビットコインは平等であり、Aさんの1万円とBさんの1万円は同価値であり、同一のものとして認識されるということです。
NFTによって信用が担保され「取引」が可能に
NFTによってデジタルデータが取引可能になったのは、ブロックチェーン技術(仕組みについては後述)によって、信用が担保されたからと言われています。
先ほど例に挙げた「サイン入りユニフォーム」の場合、このユニフォームを持っている人が転売しようとする際には、これが本物であることを証明するために、例えば鑑定書をつけてオークションに出品するということが行われます。デジタルデータの取引においては、この鑑定書にあたるものがNFTであると言えます。つまり、このデジタルデータは、誰が作ったものなのか、誰が所有しているものなのかを担保してくれるのが、NFTというわけです。
ブロックチェーン技術とは
このNFTを実現できるのが、デジタルデータのコピーや改ざんを防ぎ、価値や唯一性を守るのに活用される技術「ブロックチェーン」です。
ブロックチェーンとは「取引履歴(ブロック)を暗号技術によって鎖(チェーン)のようにつなげ、正確な取引履歴を維持しようとする技術」のことです。「分散型台帳」とよく呼ばれ、一極集中ではなく、多数の人々のコンピュータによって常に同期が取られる仕組みで管理されているため、一部のシステムが停止・故障しても、システム全体の運行・稼働に与える影響を抑制することが可能です。
これまでのクラウド型データベースも複数のコンピュータに分散されています。バックアップも取られているし、エラーや改ざんを検出・修復することもできますし、大手企業が提供しているのであれば、その信頼性・安定性も高いでしょう。しかし、この仕組みは一極集中の中央集権的な仕組みであり、この仕組みが成り立っているのは「このサービス提供者が、悪いことはしない。」という信用があるからであって、物理的な担保がされているわけではありません。一方で、ブロックチェーンは、これがたとえサービス提供者であっても、記録されたデータの改ざんや消去ができない(+参加者も自身の記録を消せない)という点が最大の違いになります。この仕組みによる担保があるからこそ、デジタルデータに対して、NFTが「鑑定書」として足り得るのです。
まとめると、ブロックチェーンの特徴は大きく以下の4点といえます。
・改ざんが非常に難しい
・システムダウンが起きない(正確にはシステム全体がダウンすることがない)
・取引の記録を消せない
・自律分散システムである
NFTマーケットプレイスとは
NFTはスポーツ、アート、ゲーム、メタバース等の様々な領域で活用されています。これらNFT関連サービスを取り引きできるのが「NFTマーケットプレイス」と呼ばれるものです。NFTの世界的なトレンドにより、数多くのNFTマーケットプレイスが急増しています。有名なNFTマーケットプレイスとして、アート、スポーツ、ゲームアイテム、イベントチケット、メタバースの土地や服など様々なジャンルのNFTを取り扱っているOpenSea(オープンシー)、アート系NFTを中心に取り扱っているRarible(ラリブル)やFoundation(ファンデーション)などがあります。
NFTと暗号資産(仮想通貨)の関係
NFTの購入に使うことが多いのが、イーサリアム(ETH)、FLOW、ビットコイン(BTC)等の暗号資産(仮想通貨)です。暗号資産は国内でも各仮想通貨取引所と呼ばれるサービスを展開しているところで、仮想通貨の売買が行われています。NFTマーケットプレイスの中には、こうした暗号資産を用いずに、クレジットカード取引で購入できるところもあります。
NFTの活用事例
NFTは、実際どのような領域で活用されているのでしょうか。ここではNFTが大きく話題になった3つの事例(ゲーム、トレーディングカード、アート)をご紹介します。
■NFT × ゲーム | CryptoKitties
NFTが大きく注目されたきっかけの1つとして、カナダのゲームアプリ会社Dapper Labs(ダッパーラボ)*が開発したブロックチェーンゲーム「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」が有名です。
*2021年11月ミクシィと業務提携
「クリプトキティーズ」は、NFTを使うことで、ユーザー同士がお互いに育てた動物のキャラクターを売買したり、ネット上でトレードしたりできるオンラインゲームです。初期には1匹のキャラクターが1000万円以上の金額で売買され話題になりました。
■NFT × トレーディングカード | NBA Top Shot
従来は主に紙ベースで販売・流通されてきたトレーディングカードの世界でNFTが活用され、大きな盛り上がりをみせています。NFTトレーディングカードで最も有名なのが、アメリカのプロバスケットボールリーグのNBAをテーマにした「NBA Top Shot」です。このサービスでは、各トレーディングカードに選手たちのプレー動画が記録されており、ユーザーはそれを手に入れ、見ることができます。また自分が持っているカードの売り出しや、他ユーザーが持っているカードの購入ができる機能や、自分のカードを他ユーザーに見せたり、他ユーザーとコミュニケーションをとったりできるサービスが提供されています。
リアルなトレーディングカードの場合、物理的に劣化することがありますが、NFTであればデジタルデータであるため劣化することなく、鮮明な画像・動画がいつでも見られるメリットがあります。またNFTは取引されるたびにブロックチェーンに履歴が記録されるため、真正性が保証され、偽造リスクが小さくなるというメリットもあります。
■NFT × アート | CryptoPunks
NFTアートブームの最初の火付け役となったのは「CryptoPunks(クリプトパンクス)」というNFTアートプロジェクトです。AIによって生成された24×24ピクセルのシンプルなドット絵のキャラクター画像が1万点存在し、それぞれユニークなデザインで同じものがありません。キャラクターの多くは人間の男女の顔なのですが、中には宇宙人、類人猿、ゾンビ等の希少なキャラクター画像が存在しています。このCryptoPunksのキャラクターのひとつが2021年1月、約8000万円で取り引きされたことで世界的な話題になりました。NFTによって「希少性」の証明が可能となり、アートの価値を高めた有名な事例となりました。
まとめ
NFTが、デジタルアートやゲームにおける高額な取り引きが大きな話題を集めたため、NFTは投機アセット的なものとして見られがちです。しかしながら今や私達の日常生活に定着した「SNS」や「メッセンジャーアプリ」も、登場から一定の年月をかけて定着していったように、NFTも各事業会社が今後サービスを切磋琢磨するなかで、例えば映画『レディ・プレイヤー1』のように、メタバースの世界を楽しむ時間が増え、NFT化された限定アイテムやアバターの服などを購入することが当たり前になる…といった価値観の変化がおこり、いつしか健全なマーケットとして定着していくのではないでしょうか。
一方、NFTは市場拡大のスピードが速いため、フィットした法律、規制・ルールについては、日本はもちろん世界的にもまだあまりこれから整備が進んでいく予定です。NFTは今後、NFTマーケットプレイスのユーザビリティ(使いやすさ・わかりやすさ)の向上、NFTの発行・保有・販売にまつわる法律関係の整備、暗号資産としての金融規制…等の諸課題を解決しながら、成長を続けていくことになるでしょう。