エンジニアリング領域を担う取締役執行役員 村瀬のインタビュー後編です。CTOでもある今、エンジニアの組織戦略、そしてエンジニアが歩むべきキャリアについて、村瀬の考えを語ってもらいました。
※前編はコチラ
■ミクシィエンジニアの組織体制について
【理想は、周りから「何をしているんだろう?」と思われるような組織。】
ミクシィのエンジニア組織は、各サービス・プロダクトごとに活躍するエンジニアチームとは別に、開発本部というチームが存在します。開発本部の基本スタンスは、“謙虚で効果的な支援”。トップダウンで指示を出すわけでもなく、各プロジェクトにおいてシステム面の手助けが必要になったときに開発本部に依存せずとも、何故かスムーズに、かつ事業部に大きな効果がもたらされるようなサポートをしていくという柔軟なスタイルです。例えば、技術選定やプロジェクトの進め方、採用など、現場で活躍するエンジニアが決断に迷わないよう、フォローをしています。
ミクシィグループが目指しているのは、数千名規模の会社です。エンジニアの増員も想定し、現在はナレッジ共有を目的とした勉強会の開催や教育体制の整備を行なっています。プロジェクト横断的に社員同士のコミュニケーションを活性化させる目的で情報共有ツールなどの導入も行っています。
開発本部が中心となり直接問題に当たっていくスタイルは、多種多様で大量の事業を抱えている会社ではもう古いと思っていて、そういうことを続けていると手離れできない組織になってしまうでしょう。開発本部に相談が持ち込まれる前に、近場の人に頼れば上手く対応ができていれば、大きな事故を回避することもできるし、スムーズにプロジェクトを進めることもできるはず。基本的に「開発本部って何をしているんだろう?」と思われる組織のほうが良いのではないかと思っています。開発本部が会社全体を支えることは変わりませんが、個々を支えなくても大丈夫な状態にすることも必要だというのが私の考えですね。試行錯誤しながらベストな組織体制を探っていければと考えています。
私が組織作りで大切にしているのは、自分と異なる価値観です。考え方や行動が異なる人と働くことで、自分なりの考え方がアップデートされ、また違う世界が見えるようになるし、お互いにいい影響を与えることができると思っています。もちろん、会社や組織、事業に対して同じ方向を向いているということが前提ですが。
私が全体通してエンジニアに言いたいのは、自分たちが前に進むためにケンカしようが失敗しようが、個人を否定されるわけではないので、あまり心配せずにガンガン突き進んでほしい、ということですね。
【CTOというポジションを選んだのは、活躍のフィールドを広げるため。極端な話、CTOは誰が担当してもいい。】
CTO のミッションは適切に案件をクローズする行動ができ、時期とプロジェクトの状態を踏まえて臨機応変に対応しながら、システム面において経営陣への助言と開発体制への助言ができることだと捉えています。
まず、役員としては、経営での成果を出しつつ、業界の潮流を見定め、新しい技術や組織の方針を取り入れていくべきかどうかを提言する責務を担っています。そのためには、最新技術と会社の状況という両面を把握していることが欠かせません。一方、メンバーに対しては、例えば障害を例に挙げると、外部からセキュリティの攻撃を受けているとか、サーバが停止し続けているといった、いわゆる技術的問題に対してフォローを行なう責務や、技術等の決断、選定に迷わないようなフォローができるようにすることです。また事業を伸ばす中で、何でも話し合える組織を作り上げることも仕事の一つですね。
開発本部以外の話であれば、マーケティングチームなどから「こういう技術でこういうものを作りたい」という相談に対して、実現可能かどうかを判断したり、それを導入することによって何か変わるかについて提案することもありますし、当社の業務提携先であるスタートアップ企業に対して、技術支援や組織体制の整え方といったノウハウ共有も重要な仕事になります。私は技術領域の執行役員ではありますが、CTOを名乗っている理由もそこにあって、CTOという立場は技術領域に偏らず、自分の視点を活かしながら他部門へのサポートもしやすいんです。CTOというポジションのほうが、フットワーク軽く行動できると考えています。
私は執行役員という立場にあっても、メンバーの気に掛かることがあれば、些細なことでも直接相談できる存在でありたいですね。上司に相談してからではなくても全然構わないと思っていて、会社の方向性と個々人がやりたいことがマッチできるように助言していくことが、私の役目だと感じています。
ボトムアップ組織としては極端な話、CTOがいなくても――つまり村瀬龍馬という存在がいなくても自立していることが一番重要です。CTOという席があること自体はいいのですが、CTOが発信している言葉が同じであれば、そのポジションに就く人は誰でもいいと思うんですよね。ですので、私の考えや思いを明文化し提示しておけば、次の執行役員やCTO、子会社の人たちも、引継ぎやすいのではないかと。組織や人を上手く支えるという意味で、自分の思想を言語化することは必要なのかなと感じてはいます。
■価値あるエンジニアとは?
【新技術をキャッチアップし、自分の仕事にどう活かすかを考えられる。そして今後求められる技術かどうかを判断できる。】
私が考える価値あるエンジニアとは、日々目まぐるしく生まれている新技術を、今とこれからの事業にどう適応していくべきかを想像できるエンジニアです。端的に新技術の情報だけ受け取ると、現実が見えないんですよ。自分の会社の事業に当てはめると現実まで見えるようになるので、現実的に適応可能どうかというところまで考えられるようになる。そこまでできると、エンジニアが手を動かせばいいだけの状態になるんですね。手を動かしたタイミングの早い人が、その技術の第一人者になれるし、その後に始めた人たちはいい感じのタイミングでいい機能を提供できるでしょう。
その技術が世の中に定着するかどうかはまた別の話で、そのアーキテクチャーが今必要なものなのか、半年後に必要になるものなのか、3年後に活きてくるものなのかを考えて実装しないと、技術を追求する価値が見い出せないでしょう。他人に「なぜ今これを作ったのか?」と問われたときに、自分なりの判断力を持ってちゃんと自分の言葉で言えるべきだし、判断すべきだし、考えるべきだと思います。
今必要がない技術を追求するというのは、評価されづらいものです。でも、「一年半後に役に立つから今勉強しているんです」というのであれば、一年半後に役に立ったかどうかを証明できるように、エンジニアは仕掛けていかないといけない。「いつか役に立つ」ではなく、明確な時期を踏まえて、今なぜ必要なのかを説明できることは結構重要です。「ここまでに必要なのでこれをやります」、「ここまでに必要な理由は市場規模的にこういうことになっているからです」と、ちゃんとした議論ができ、判断できるエンジニアは価値があると思います。最新技術を追う中で、何が想像できて何が想像できないかをちゃんと自分の中で判断でき、想像できない部分をどう補うか、今補う必要があるかを踏まえて、勉強できる人は価値があるかもしれない。それはどの職種に対しても言える気がしますが。どんな情報も分解して、抽象化して、再構築や転用を行なう能力は必要です。
そしてもう一つ価値があると思うのは、自分の意志を持って働けるエンジニアです。例えば「モンストのサーバサイドを開発していました」というだけでなく、なぜそうしたのか、どんな工夫をしたのか、どんな課題があって、どう解決したのか…ちゃんと当事者意識を持って、自分の想いを持って仕事をしている人は惹かれますね。さらに、手を動かすのが早い人、手を動かし始めるのが早い人。コードを書くのが早いということではなくて行動力の話で、行動に結びつくことを一番先に始めた人が優秀なエンジニアとして評価されるのだと思います。
■エンジニアの自己投資について
【若いうちに安く回収するのはもったいない。10年後に大きなリターンがあるかどうかを考えて、自己投資をしよう。】
20代から30代前半くらいの人は、貯金せずお金を使ったほうがいいと考えています。価値あるエンジニアになるためには、経験と実績を追い続ける必要があると思うんですよ。経験と実績のために、お金を払ってでも得られる体験や情報は得ていったほうがいいし、お金を払ってでも仕事のスピードが速くなるのであれば、その速さのほうにお金を投資したほうが成果がでます。とはいえ、投資をいつ回収するかを踏まえておくことも重要です。
その未来に対して明確に逆算できるかというと、できないことのほうが多いと思いますが、なんとなくお金を渋るか渋らないかの話で言うと、渋らないほうが得なんじゃないかなというのは自分の感覚としてありますね。あくまで体験や感覚、能力を正しく得られることが重要であって、無駄遣いはしてもしょうがないですが。
自己投資というのはすごく難しいですが、将来に回収することまで考えて投資すれば、叶えられる方向に動くことができると思うので、そういうところを踏まえて投資していくのがいいでしょう。分かりやすい例だと、英語ですね。英語を勉強することは、情報を得られる世界が広がること、海外で働きたい、外国のプログラマと会話したい、という明確なモチベーションになるので、そこに対して本気で取り組むのなら自己投資はいくらでもやるべきです。学び方は自分のタイプに合わせて、“最短”で“最安”を目指すのが一番だと思います。
【何に自己投資をするか?は、準備はしっかりとして見極めていくべき。】
何に自己投資すべきか悩んだとき、大切なのは「同じ決断は二度するな」ということです。以前と同じ悩みがたまたま出てきたとき、前に悩んでいた材料を引き出すこと、そして同じ決断を二回するということはとても無駄。エンジニアの世界にも、Don’t repeat yourself(二度書くな)という言葉があるんですよ。同じことを繰り返すのではなくて一回で済ませられる方法を考えよう、という考え方は私も賛成です。長すぎても問題がありますが、何か始めるときに一回目は時間をかけて悩んでも問題ないと思うんですね。判断材料を集めるのに時間がかかるのはむしろ良いことだと、テーブルに全て並べて決断したものはほとんどぶれることはないでしょう。しっかり今後を見据えて、同じ決断をしないように、じっくり時間をかけて見極めることも重要です。
勉強以外に、体験に投資するのもいいと思うんですよ。ライブのイベントに行って、「そこでしか得られない感覚を見たい」というのも自己投資だと思うし、経験の数で人は勝負できるところもあるはず。例えば極端に多く映画をたくさん見て、なんらかのアウトプットをし続けていたら、時間はかかるかもしれませんがそれなりに自分の意見や感想もできて、お金を稼げるくらいにつながることだってあるわけじゃないですか。アニメだろうがなんだろうが、突き抜けた人たちになれるので、そういう人たちには情報も集まってくるし、取材も来るし、稼げるようになる。それは自己投資につながっていると思うので、時間の使い方という意味での自己投資でいうと、一貫していたほうがいい気がしますね。私の場合の自己投資も、色んな所に足を運んでひたすら人に会うということをしています。知らない世界をどんどんキャッチアップしたいという思いが強いので、昨年は社外の人と接点を持つことが多かったですね。今年も引き続き、社内外問わず、人と会うことを続けていきたいと考えています。
中には自己投資で失敗するのが怖いという人もいると思いますが、失敗を通じて理解すること、認知すること、そして次のことを考えられるのがアドバンテージになるのかなという感じがします。何も自分で決断しなかったときの失敗はなんの意味も持たないですが。
本来は学生のうちに自分が打ち込める楽しいことを見つけられたら最高ですが、学生は残念ながら就活が始まってしまうと、就職先を嫌でも決めないといけない。自分のやりたいことが見つかっていない人も多いと思うのですが、それはすごく不幸だと思っていて。30代くらいになってはじめて余裕が生まれて、仕事と両立して趣味も充実して、趣味のほうが楽しくて脱サラしましたという人もいるじゃないですか。そういう人たちは学生時代に考え切れなかった部分もあるでしょうし、働く中でやり甲斐や安定感などの優先度が変わってきたこともあるはず。お金が入ってプロダクトにも自分にも時間が割けれるような状態になったら、そこで自分がやりたいことを見つけるために、色んな経験したほうがいい。自己投資を経て得た経験があればきっと、40歳を過ぎても楽しいままいられるし、60歳過ぎてもそこまで自分を知っていれば、幸せに過ごすこともできるんじゃないかなと思いますね。
※記事内容についてはインタビュー時点のものです。
取締役執行役員 CTO 村瀬 龍馬
高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。2009年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。2013年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部 本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、現在は執行役員CTOを務める。2019年6月、取締役就任。
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