2022年2月、Jリーグクラブ FC東京を運営する東京フットボールクラブ株式会社の新代表に川岸が就任しました。ミクシィが抱えるIT・Web・エンターテインメントの知見をクラブ運営にどのように活用していくのか?そして悲願のリーグ優勝に向けたチーム作りの方向性は?川岸代表にインタビューで伺いました。
刷新ではなく、クラブをさらに盛り上げていく
記者発表の記念撮影
(左:ミクシィ 代表取締役 木村弘毅 中:川岸滋也 右:東京フットボールクラブ 大金直樹 前代表取締役)
━━FC東京の代表就任おめでとうございます。改めて今回の経緯を伺えますでしょうか。
ミクシィとFC東京の関わりとしては、2018年からクラブスポンサー・株主として、さらに2019年からはマーケティングパートナーとして、ファン・サポーターの方々が仲間と一緒に楽しめる空間の提供などの支援を行ってきました。そして2021年11月のJリーグ理事会、および12月のFC東京臨時株主総会での承認を経て子会社化することになりました。
━━実際のところ、反響はいかがですか?
ネット上で検索すると色んな反応を目にしますが、ファン・サポーターの方々を始め、概ね好意的に受け入れていただいていると感じています。その背景には、2018年からXFLAGとしてサポートしてきた「青赤横丁(現:青赤パーク)」の活動や、ユニフォームの胸スポンサーなど、これまで継続してきたベースがあったことが大きいと思います。
記者会見では、主要株主である東京ガスさんをはじめ、スポンサー中核企業各社との協力関係の継続も発表しましたし、スタジアム近隣の府中、三鷹、調布、小平、西東京、小金井の各市との関係を今後も大事にしながら、ミクシィの拠点でもある渋谷を中心とした23区においても様々な取り組みをしていきます。刷新ではなく、クラブをさらに盛り上げていくためのグループ会社化であると受け止めてもらえていると思います。
━━川岸さんがミクシィに復帰したのは2020年7月ですよね。ずっとIT系のキャリアを歩んできた川岸さんがスポーツ事業に関わることになった理由は何でしょうか?
もともとスポーツはエンターテインメントとして全般的に好きなんです。サッカーはもちろん野球、バスケ、アメフト、ゴルフ、F1などメジャーなスポーツはだいたい観ますし、基本ルールやレギュレーションも概ね理解しています。その中でもサッカーは世界で人気No.1のスポーツですし、マーケットも大きいのでスポーツ事業をやる上ではサッカーに関わりたいとミクシィに復帰する前から考えていました。
━━ご自身のサッカー経験についてはいかがですか?
実際にボールを蹴るのは正直苦手ですね(苦笑)。昔、体育の授業でゴールキックを任されたんですが、ゴールキックがハーフウェーラインまで届かなくて、なかなか相手フィールドに攻め入れない…という思い出がありますね。バスケやバドミントンなど上半身を使うスポーツは得意なのですが、サッカーはどちらかと言うと「観る側」ですね。
━━ビジネスとしてスポーツに関わることになったきっかけは何ですか?
2012年に一度ミクシィを離れ、リクルートでネット系の開発部門やコーポレート部門で、いわゆるDX化の推進を主に担当してきたのですが、テクノロジーが浸透することで生産性が圧倒的に向上し、現場にポジティブな変化が起きていく様子を数多く目の当たりにしてきたんです。
こうしたDXによる変革・成長がもっと期待できる領域って何だろう…?と考えた時に「スポーツ」は伸びしろが大きい魅力的なマーケットだと思ったんです。いつか自分の強みであるITの知見を活かしてスポーツビジネスに関わりたいと考えていたところ、古巣であるミクシィとの縁があり復帰することになった次第です。
━━木村さんとは、どのような話をしたのですか?
もともと木村さんとは、前に在籍していた時から一緒に仕事をしていて気軽に話せる間柄だったこともありますし、2017年頃から木村さんが中心となってスポーツ市場への参入をミクシィが進めている様子も外から見ていたので「ぜひスポーツビジネスの推進を手伝わせてください」と私からお願いする形で復帰が決まった感じです。
新しい発見をファン・サポーターに届けたい
━━Jリーグについては、どのように見ていますか?
私は1993年の開幕からJリーグはずっと観てきました。他の国々と比べても順調に成長してきたリーグで、今ではアジア屈指のプロサッカーリーグになったと思っています。私はプレミアリーグ(イングランド)やリーガ(スペイン)などの海外サッカーも観るのですが、日本でサッカー人気がさらに高まっていくためには、やはりJリーグがエキサイティングであることが重要だと思いますし、まだまだ成長のポテンシャルがあるリーグだと思っています。
━━FC東京としては、どのようなクラブ運営を目指していくのでしょうか?
「ビジネスとしての成功」と「競技成績としての成功」の両方を追求していくことになりますが、スポーツビジネスの難しいところは、それぞれ二律背反することもある点ですね。例えば収益で黒字化を達成しても、チーム成績が悪ければファン・サポーターの期待に応えられたとは言えないですし、高額年俸のスーパースター選手を獲得したとしても、チーム財政が苦しくなってしまうと経営としては成功とは言えません。それにスーパースターを獲得したからといって、必ず好成績につながるわけでもありません。スポーツクラブの経営は一筋縄ではいかないだろうと覚悟しています。
━━ファン・サポーターからはビッグクラブ化を期待されていると思いますが。
Jリーグのクラブ事業規模は、J1クラブの上位でも50億~70億円ほどで、事業規模としては中小企業レベルなのが実情です。ファン・サポーターたちからの大きな期待にも応えながら、事業予算の中でバランスをとりつつ、クラブとしてサスティナブルな成長ができるように舵取りをしていきたいと考えています。我々は日本の首都のクラブですし、クラブ名もずばり「FC東京」ですから、名前負けしないような偉大なクラブにしていきたいですね。
━━新しいFC東京のフロントは、どのような組織にしていきたいですか?
首都・東京という土地柄的に、色んな人材が日本中から集まり、交流が生まれ、新しいチャレンジが起きる場所だと思うので、FC東京のビジネススタッフも変化を恐れずどんどん新しいことに挑戦していけるカルチャーの組織にしていきたいですね。
ミクシィからは私を含めて約10名がFC東京へ出向し、もともとのチームスタッフとの融合をしながら新しい挑戦ができる組織作りを始めているところです。ファン・サポーターに新しい発見を届けていけるクラブにしていきたいと考えています。
━━ミクシィから新たに出向するメンバーには、どのような人材を選んだのでしょうか?
ファン・サポーターを増やしていく、あるいはパートナー・スポンサーとのリレーションを強化するスタッフや、マーチャンダイジング関連を手がけるビジネス系スタッフが中心になっています。またスタジアム内のエンターテインメント化を推進するスタッフとして、過去プロ野球チームでスタジアム演出を手がけていた方にも加わってもらっています。
東京は年少人口の一番多い都道府県であり、我々にとっては未来を見据えた「サッカーの普及活動」も重要なミッションですので、「アカデミー、スクールの強化」を手がけるスタッフも送り出しています。
━━事業戦略としては、何を重視していきますか?
私としては、スポーツビジネスを3つの段階に分けた構成を考えています。まずはスポーツとしての「良いコンテンツ作り」ですね。次にそのコンテンツをどこで・どのように観てもらうかという「場作り」があり、さらにその先にスポーツをどう楽しんでもらうかという「コンテンツ消費の仕方」の形を作ることがあります。
FC東京というチームは、1つ目の「コンテンツ」そのものですから、まずは誰もが観たくなる・応援したくなるスタイルのチーム作りをしていきたいと考えています。
━━勝利を目指すのが大前提だとは思いますが、どのようなスタイルを志向するのでしょうか?
試合結果が「1-0」より「4-3」で勝つ方が望ましい…というわけでは必ずしもないですが、スポーツとしてのエンタメ性で考えると、ハラハラ・ドキドキするシーソーゲームの展開の方が面白いですよね。東京にはスポーツ以外にも様々なエンタメの選択肢がある中で「一緒にサッカーを観に行こう」と友達を誘ってもらえるようになるには、90分で1点しか入らないよりは、ハイライトになるシーンがたくさんあって、スタジアム演出等も含めて一緒に喜んだり、スリリングな展開を味わえたりする方が魅力的だと思うんです。FC東京としてはそういうエンタメの提案が数多くできるスタイルを目指していきたいと考えています。
━━フロントとしてチームの戦い方にはどの程度関与しますか?
クラブとして「魅力的なサッカースタイルを目指す」という大きな方向性は示しますが、私自身はサッカーの専門家ではないので、監督・選手の人事やチーム戦術などには口出しは一切しません。補強に関してもクラブとしての方向性と予算感を強化担当者に伝えますが、私から誰を獲得しろといった話はしません。もちろんクラブの代表者なので、チーム強化の方針について担当から説明を受けますし、理解もしますが現場に介入するようなことはないですね。
━━「場作り」と「コンテンツ消費の仕方」についてはどのようなアイデアがありますか?
サッカーの醍醐味を伝えようとすると、やはりサッカー専用スタジアムに勝るものはないと考えています。客席とピッチの距離が陸上競技場型のスタジアムよりも近い分、観客が味わう臨場感も、ファン・サポーターの応援がチームに与える勇気も違うと思いますので。サッカー専用スタジアムを都内に構えるという夢は持ち続けて、中長期的にプロジェクトに取り組んでいきたいですね。
また「Fansta」による飲食店と連携した場作りもさらに進めていきますし、NFT等のテクノロジーを活用したサッカーの新しい楽しみ方も検討中です。
━━新しいファン・サポーター層の獲得も大事ですよね。
そうですね。私としてはYouTubeやSNS等を活用して、FC東京のことを好きな人が、自分の好きなポイントを、好きな方法で他の人に伝えていくことってすごく重要だと思うんです。FC東京について情報発信してくださるインフルエンサーの方々をミクシィとしてお手伝いする活動は、ぜひしていきたいと考えています。
━━ミクシィならではのIT・WEB・エンタメの知見をどのように活用していきたいですか?
FC東京へ出向するスタッフの他に、渋谷のミクシィ本社からデザイナーやエンジニアがお手伝いできることもあるでしょうし、ゲーム・スポーツ・イベント事業で培ってきた様々なノウハウを活かすことができるだろうと考えています。
また、B.LEAGUEの千葉ジェッツとは、ビジネスモデルが近いですから、スポンサーセールスのやり方や、スクール事業の運営方法等のノウハウの交換をはじめ、クラブ間の連携や交流を深めていきたいですね。ちなみに千葉ジェッツの田村代表は、彼がミクシィに新卒入社した時から「田村くん」と接してきた仲なんですよ。今やクラブチームの代表としては彼が先輩ですが(笑)。「必要な時に必要な会話をしていこうね」と話をしています。
━━さいごに、クラブの代表として成し遂げたいことを聞かせてください。
やはりファン・サポーターをはじめとする、FC東京に関わる全ての方々にとって念願のリーグ優勝は成し遂げたいですね。2019年にあと一歩のところで優勝を逃した悔しさは今でも忘れていません。クラブの規模感や首都東京のクラブという意味でも、多くの方々から優勝を期待されていると思いますので、その期待に応えたいと思っています。チームスタイルを変革するので、1年目は苦労するかもしれませんが、競合クラブとも伍して戦えるチームを目指したいですし、常に上位争いをして優勝を狙える魅力的なクラブにしていきたい。スタジアムに足を運ぶのが楽しみで仕方ないですね。