先日開催された「Web3が巻き起こすバーチャルコミュニケーションとリアルコミュニケーションの未来」。
ミクシィ代表取締役社長 木村と、株式会社gumiを設立し、現在は株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェの代表取締役を務める國光氏とのトークイベントです。國光氏は2022年3月に『メタバースとWeb3』という書籍を出版したばかり。Web業界が注目する「Web3」について考察を深めるべく、今回の対談が実現しました。本記事では、対談のトーク内容を中心にレポ―トします。
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イノベーションとフラストレーションがWeb3を生んだ
━━はじめのテーマは、「Web3」という世界について。具体的にどのような世界なのか教えてください。
國光 Web3の世界は、大きく分けて2つの側面があります。一つ目が、ブロックチェーンというテクノロジーがもたらした、NFTをはじめとするイノベーション。もう一つが、SDGsに近い一つの社会運動です。もともとインターネットはヒッピーカルチャーや、人々に自由や権利を、という流れの中で始まったわけですが、Web2が訪れたことでごくごく一部のプラットフォーマーがアイデンティティやデータ、富を全て握るという社会になりました。そこで多くの人が感じたのは、「これが本当に自分たちの作りたかったインターネットなのか?」ということ。もっと人々を自由にしたいという革命が起こってきた。この二つの軸がWeb3を生んだ大きな背景だと思います。
木村 一部のプラットフォームがスマホなどの新しいイノベーションを起こしてきました。そこにサードパーティーが新しいゲームを提供しているのですが、自由なアイデアを提供しづらい部分もでてきました。新しい付加価値の提供や生産性の向上が実現しにくくなってきた中で、そういったフラストレーションを新しいテクノロジーと一緒にぶつけようという動きなのかなと捉えています。
國光 Web3は一つのビジネスモデルであり、一つのムーブメントでもあると思います。ビジネスモデルとしての側面では、Web3は既存のプラットフォーマーをディスラプト(破壊)できる可能性があると思っていて。フリマアプリを例に挙げると、本来、売りたい人と買いたい人がいれば、直接取引をすればいいじゃないですか。なぜアプリが必要なのかというと、知らない人同士が取引するときに、信用を担保する必要があるから。でもWeb3では、スマートコントラクトで直接売り手と買い手をつなげば、フリマアプリは必要なくなる。突き詰めて考えると、プラットフォーマーが提供しているものは、トラスト(信用)そのものなんじゃないかと思います。
木村 なるほど。NFTについてはどうお考えですか?
國光 NFTはデジタルデータだけど限定商品が作れるビジネスとして価値を持ちました。もともとエンターテインメントはデータそのものを売っていたんです。音楽はCDに入れて、映像はDVDにして、ゲームはパッケージに入れて。ネットが出てきて、デジタルデータの複製コストがゼロになった。データそのものが売れなくなってきて、コンテンツそのものを売っているのではなくサービスを提供しているという意味合いが強くなりました。NFTが誕生したことで、データそのものに価値が出るようになった。これもシンプルな話で、インセンティブの民主化が起こったと。
木村 インセンティブの民主化…というのは?
國光 今まではインセンティブ部分が過度に株主に寄りすぎていました。当然、大ヒットしたゲームは、株主や会社で働いている人たちが貢献している。でも本当に貢献してくれたのは、初期の頃に毎日毎日プレイしてくれていたヘビーユーザーだったり、それを友達に紹介してくれた人だったり、それを延々と配信してくれたYouTuberだったりするわけです。そういう人たちへの貢献は、今まで金銭的享受がなく、一切評価されていなかった。ゲームのプレイやゲームの紹介をすると、インセンティブとしてトークンがもらえるとなると、サービスがより広がっていくんじゃないでしょうか。Web3がもたらしたテクノロジーが新しいビジネスを生み出していくと思いますね。
コミュニケーションはどう変わるのか
━━次のテーマは、「バーチャルコミュニケーション」と「リアルコミュニケーション」について。國光さんは著書内で『バーチャルのコミュニケーションは加速する』と書かれていました。一方木村さんは『リアルコミュニケーションの大切さ』を社内で発信していますが、お二人のお考えを教えてください。
國光 若い人の場合はリアルで友達と会うよりも、メッセンジャーアプリやSNS、オンラインゲーム、ソーシャルゲーム上でコミュニケーションする時間のほうが圧倒的に長いと思うんですね。この時間はさらに加速していくのは間違いないでしょう。
木村 私自身は、リアルなコミュニケーションはしばらくなくならないと思っているんですよね。友達とご飯を食べるときって、リアルじゃないと食べられない。だからこそリアルコミュニケーションはずっとあり続けると思っているし、逆に言うと付加価値がどんどん上がっていくと思います。
國光 僕は悲しいかな世代間ギャップがあると思っていて。昔だったら、仕事後、社員を飲みに誘ったら喜んだけど、今は全員嫌がると思うんですよね(笑)。我々おじさん世代と比べると若い子の世代では、その重要さは徐々に減っているのかなと。
━━コロナ禍でイベントがオンライン化されるケースが多いのは事実かと思いますが、木村さんは今後、この状況でどのようにリアルなコミュニケーションを取り戻していきたいとお考えですか。
木村 インターネットやITのテクノロジーが進むことで、非常に強いオンデマンド化が進んでいますよね。通販サイトにせよ動画配信サービスにせよ、自分の元にお好みのものを持ってきてくれるじゃないですか。そういう状況の中で、みんなが同じものを見てワーッと盛り上がる、例えばスポーツ観戦を一緒に体験することが価値だと思っていて、僕らはテクノロジーを使って友達とお店を探してそこで一緒に試合を見る『Fansta』というサービスを運営していますが、テクノロジーを使って逆に対面で楽しんでもらえるようなサービスを届けていくことで、リアルなコミュニケーションは取り戻せると思っています。
國光 なるほどね。私はそういうリアルコミュニケーションはなくなりはしないけれど、価値は下がると思っているんです。僕らはちょっとした視覚情報や聴覚情報の共有であればバーチャルで、飲み会やご飯を食べるのはリアルなほうがいいよね、オンライン飲みは嫌だよねという感覚。オンライン上で味覚や嗅覚は再現できないから、味覚や嗅覚を伴うコミュニケーションならリアルがいいという話なのかなと思っていて。リアルコミュニケーションは、味と匂いがテーマのところに価値が出ると個人的に思うので、スポーツの場合は試合を見るだけならバーチャルでもいいけど、スタジアムでお酒を飲んで美味しいものを食べてとか、そういう価値はより高くなると思いますね。
木村 人間は、脂肪と糖質を一緒に食べたり、強烈な匂いや味を感じると、脳からβ-エンドルフィンという物質が出るそうです。それ以外の刺激ではなかなか代替しづらいですよね。
國光 確かに。ちょっと話は変わりますが、実際『モンスターストライク(以下モンスト)』ってリアルな友達と遊ぶというところが流行ったわけじゃないですか。今でもリアルな友達とプレイするユーザーが多いんですか?それともバーチャルな友達とプレイしている?
木村 基本的には対面で遊んでもらうのが『モンスト』の肝なので、リアルコミュニケーションを追求しています。対面の価値を届け続けるのがミッションですね。
國光 コロナ以前とコロナ以後では、データ的に変わりましたか?
木村 そんなに変わってないですね。
國光 結局はバーチャルな友達よりも、リアルな友達とつながるほうが強いのかもしれないですね。『モンスト』をはじめ、SNSやメッセンジャーアプリもリアルな友達とつながる人が多いですから。でも今まではリアルな友達とのコミュニケーションをエンハンスするSNSが強かったけれど、Web3ではいよいよバーチャルグラフの中のオンライン上での自分の人格、自分のアイデンティティを使って人間関係を築くという社会が来るんじゃないかというのが、メタバースが大きく語られているテーマでもありますね。
木村 親密性をつかさどる情報伝達物資にオキシトシンというものがあって、これは実際に人と長い時間会っていると、オキシトシンが出て来るようになるそうです。オキシトシンを感じる間柄になったときは、その人との関係性が強いと。その代表格が家族ですね。今だとそのバーチャル空間上では、オキシトシンが感じづらいというのはあると思います。バーチャルで出会った人の間でも、リアルにその相手を感じられると、そこにオキシトシンが湧いて、親密性ができると。それができると僕はバーチャルでも同じような濃い人間関係というか、愛着というものが出てくるのかなと思います。
━━ありがとうございます。次のテーマは、Web3の未来との向き合い方について。コミュニケーションの在り方は変わっていくというお話がありましたが、ビジネスチャンスとしてはどんなものがありますか?
國光 僕はgumi Cryptosで20億の1号ファンドと130億の2号ファンドを運用しています。1号ファンドが注力して投資した領域は3つ。一つは金融系、他にはゲーム、NFT領域、あとはブロックチェーン自体。2号ファンドも引き続き、金融系とゲームNFTのところを中心に投資しています。今後はUnityのようにブロックチェーン同士をつなぐ、クロスチェーンというソリューションが間違いなく重要になると思っています。加えてアイデンティティのところは重要ですね。よく言われるのが、Web1のときのアイデンティティはメールアドレスとパスワード。Web2ではFacebookログインやGoogleログイン。Web3では、ウォレットになると言われています。ソーシャルグラフならぬウォレットグラフ、トークングラフという形として出てくるであろう新しいアイデンティティには注目しています。その中でもゲームNFTは、今すさまじく大きくなっていくところでしょうね。
━━ビジネスチャンスという観点だとどうでしょうか。
木村 そうですね、これは意識を変えていかないとズッコケるんじゃないかなと。「NFTの新たなプラットフォームを作ります」というように、結構勘違いをしているプレイヤーが数多くいると思うんですよね。やっぱり今のプラットフォーマー中心の中央集権型に本気で違和感を覚える若い人の感覚のほうが正しいと思うし、そこに素直に向き合って取り組むのがいいのかなと思います。今、既存のプラットフォーマーがこぞってNFTに注目していませんか?
國光 木村さんが仰るように、NFTは今、ゲーム×NFTといった第三世代まで来ているのに、多くの企業がただNFTを発行するだけという第一世代で止まっているんですよね。そのイノベーションスピードに付いていくことが重要かと。
ゲームを“やり込む”ことが、先駆者になる唯一の方法
━━では次に、「Web3」時代を生きていくためのキャリアについて伺いたいと思います。Web3時代にはどういうスキル、どういうマインドが必要でしょうか。
木村 古くは共産革命に遡りますが、「資本主義に対しての共産革命というのはテクノロジーが進み切った状態で、人間が全ての労働から解放されて、富や付加価値を享受するだけになったときに達成する」とレーニンが唱えていたそうです。これは学生時代の予備校の講師が盛んに言ってたことなんですけど(笑)。資本主義が行き過ぎている中で、一つの国家を超えるほどの富がプラットフォーマーに集中している。それに対してフラストレーションが集まっている状況ですよね。加えて、AIやロボットの発展も目覚ましい。単純に労働力を提供するところでいくと、AIやロボットにはなかなか勝てない。そこに「新しい価値がほしいんだ」と言える人というのがたぶん重要になってくると思うんですよね。
國光 なるほど。それはずっとそうですよね。もう少し具体的なことを付け加えるとしたら、スマホのヒットゲームを出した人って、徹底的に他のゲームをやり込んだからだと思うんです。絶えず新タイトルをプレイして勉強し続ける人が、ヒットを出し続けられている人なんだろうなと思っていて。それはWeb3でも一緒で、世界中でリリースされている色んなタイトルをとにかくやり込むこと。その中で、ヒットタイトルの仕組が掴めるようになるので、そこが決定的に重要かと思いますね。
木村 國光さん、求める人材を今ストレートに言いましたね(笑)。
國光 (笑)。最近、会社の制度として割と多いのが、上限金額を決めた形で自由にNFTを使っていい形にしつつ、プレイする中でもし儲かった分はインセンティブとして社員に還元するというもの。社員のモチベーション的にも重要ですよね。本当にやり込むのはすさまじく重要で、やり込んでいくとゲームに詳しくなるし、さらにブログを書いてインフルエンサーとかになったら、給与が跳ね上がるチャンスも大いにあると思います。特に初期にプレイし始めた人のほうが競争は緩いですし、当然リターンは大きくなるから。この業界にいる人は、大きなチャンスだろうなと思いますね。
木村 確かにチャンスですよね。この領域は。先日、ミクシィの理念体系を刷新したのですが、その際に行動指針のバリューを「発明、夢中、誠実」という内容に決めました。ミクシィの人間は夢中で何でも取り組んで、笠原さんを筆頭にサービスを磨き抜く人が多い会社だと思っていまして。夢中になれる人は採用されやすいので、ぜひこれをご覧のみなさん、ご応募よろしくお願いします(笑)。
━━それではこれが最後のテーマです。「Web3」時代で想定される社会変容について。お二人のお考えをお聞かせください。
國光 これは…共産革命につながるんですか?
木村 そうなっちゃいますよね(笑)。共産主義や社会主義のように、思想に近いところに来ているんだろうなと。民主的に中間搾取をなくしていくというのが、Web3の在り方だと思います。
國光 Web1、Web2、Web3におけるユーザーの高揚感に注目すると、Web1はニュースを見るだけといったところから始まり、Web2になって誰もがテキストや動画を通じて情報発信できるようになった結果、SNSなどのソーシャルサービスが伸びた。今回のWeb3は今までと何が違うかというと、“オーナーシップ”です。ゲームをひとりでプレイするのが楽しい、友達とのゲームプレイも楽しいというところから、ゲームが流行ってゲームの価格が上がることによって、自分の資産も増えて楽しい、という感覚を持てるようになる。先ほどもお話ししましたが、ゲームでトークンを発行するようになれば、初期からプレイしてくれていたユーザーや、そのゲームをYouTubeで配信してくれた人、記事を書いてくれた人にも恩恵が行く。そうなるとよりゲーム自体の広がりは加速するでしょうね。多くの人が感じる社会変容でいうと、オーナーシップの民主化、インセンティブの民主化という形があるのかなと。言い方を変えると、みんながある意味資本家になれる、ということにも等しいのかなと思いますね。
木村 確かに。私は、テクノロジーの進歩を受けて、どれだけ社会をアップデートできるかだと思うんですよね。アップデートというのは、新たな面白さや便利さ、そういう付加価値をどれだけ生めるか。そうでないと、大きな社会変容にはつながっていかない。新しいものというのは、最初は取るに足らない、誰もが気に留めない小さな改革から始まり、知らず知らずのうちに世界を席巻するんだろうなと思っています。
━━━視聴者質問タイム━━━
Q.Meta社(旧Facebook)の市場は拡大、浸透すると予測しますか?
國光 これは間違いなく拡大していくでしょうね。ちなみにメタバースをあえてVRハードの市場として考えると、Oculus Quest1というハードが2年間で120万台、Oculus Quest2は1年半で1500万台販売されました。今年の年末で2000万台を超えてくるだろうと。今色々な企業で動きが見られるので、ハードメーカーが各社出揃ってくる形になると思います。3年以内にVRのハードは一億台を突破し、家庭用ゲーム機と同じ規模の市場に成長するのは間違いないと。そのときのメタバースの市場規模は恐らく半分くらいなので、そういった意味では巡航速度で進行してくると思います。
木村 メタバースの成長のカギはどんなところにあるんでしょうか。
國光 それは三段階あると思っていて、一つ目は世界中のゲームユーザーを掴めるかどうか。二つ目にタブレットPC市場を取れるか。タブレット市場を取ると、ゲームユーザーだけでなく職場や学校でもVRが使われるようになるためです。いよいよ2025~2026年にポストスマホとして、VR、ARグラスの戦いが始まると思います。
Q.メタバースが広がりコミュニケーションの形が変わっていくと、人権侵害、いじめ、ヘイトスピーチ等コミュニケーションにおける負の側面も新しい形が出てくることを懸念しています。法規制やテクノロジーでの解決など、解決の方向性についてご意見あればお聞かせください。
國光 これはWeb2、Web3に関係なく、引き続き大きなテーマかなと思いますね。
木村 難しい問題ですよね。人と人の間ってどんな時代もバイアスがあるもの。僕らはソーシャルネットワークを研究している過程で、中間にAIが入ってバイアスを取り去ると人と人とはもっとつながるんじゃないかということを議論していたこともありますが、それをやって果たしてコミュニケーションは面白くなるのだろうか…と。
國光 そうそう。
木村 ケンカするくらいがいい、という見方もありますし。
國光 AIが関係性を捉えてくれるコンテクストまで拾ってこないといけなくなると、さらに複雑な問題ですよね。
Q.日本のWeb3の成長、進化に対して、リアルな法改正(税改正)が足かせになることはないでしょうか?日本とWeb3産業がWin-Winになるには、何が必要でしょうか?
國光 問題点は4つに絞られていると考えます。一つはトークン発行を実現するための仮想通貨免許の取得。二つ目は、監査法人の問題です。監査証明を出すために監査法人をどうするか。三つ目はガバナンストークンの未実現利益に対する税制の問題。四つ目は、日本のVCではLPSという契約があるためトークンに出資できないという問題。この4つがあると日本では実現できないので、この辺の課題を解決していくことが重要ですね。
今回はオンライン視聴と、一部の社員方にオフライン参加という形で実施しました。対談イベント終了時間を過ぎても、オンラインやオフラインで多数の質問が寄せられ、関心が高いテーマだったことが伺えました。「Web3」がこれからどのような発展を遂げるのか、楽しみに待ちながらも、ミクシィも渦中で存在感が発揮できるように注目していきたいと思います。