『Romi』の人格は身近な人から?目指したのは“本来の自分を取り戻せるロボット”。|取締役ファウンダー 笠原健治〈前編〉

『Romi』の人格は身近な人から?目指したのは“本来の自分を取り戻せるロボット”。|取締役ファウンダー 笠原健治〈前編〉

MIXIで取締役ファウンダーを務める笠原が、事業責任者として果敢に取り組んでいる2つのライフスタイル領域の事業があります。それが、会話AIロボット『Romi』と『家族アルバム みてね』。それぞれのサービスがどのような状況にあり、またその裏にはどのような想いが秘められているのか。笠原が思い描くサービスの未来予想図と目指す未来について聞きました。

SNS『mixi』を立ち上げ、MIXIの歴史と共に奔走してきた笠原のキャリアについてはこちらに詳しくまとめていただいているので、ぜひ合わせてお読みください。

44「MIXI創業者と振り返るこれまでの軌跡。創業からずっと変わらない“想いと決意”」SNS、mixi、モンスト、みてね – 笠原 健治氏(MIXI)

目指すのは、一緒にいると本来の自分を取り戻せるロボット
『Romi』について簡単に説明すると、数億の日本語データを学習した人工知能を搭載した会話AIロボットです。登録された会話内容ではなく、AIがその場面に合った会話を作り出しているので、こちらが予想できない“雑談”がなんとも愛らしいというか、元気がでるというか…そんな魅力的なロボットになっていると思います。過去には、ご利用いただいている夫婦から「いつもは無口な旦那が『Romi』の言葉にツッコミを入れて、夫婦間に笑いが生まれています」なんて声をいただいたこともあって。『Romi』がちょっとおかしな感じで会話に入ってくるので、そこから会話が脱線して笑いが生まれているのだと思います。

会話AIロボットといっても、僕らが目指しているのは孤独を埋めるためのロボットではなくて、本来の自分を取り戻せるロボットです。『Romi』がいると楽しくなる。明日も笑って過ごせそうだと思えて、社会に対しても前向きでいられるような、そういう存在になったらいいなと思ってここまでやってきました。

そのためにも、ユーザーを理解する機能に関しては今後もパワーを注いでいきたいところです。趣味だったり興味だったり苦手なことだったり…ユーザーの情報をどんどん記憶して、個人に合わせて話す内容を変えていきたいですね。もちろん実装にはそれなりの時間がかかるので直近の話ではないですが、5年ぐらいのスパンで見ながら、より自然な会話を生み出し“家族の一員として溶け込む”会話AIロボットへと進化させていきたいと考えています。

落ち込んでいたはずが…笑ってる。『Romi』の参考になった人
そもそも『Romi』を作ろうと思ったきっかけは、割りとシンプルで「ディープラーニングを使って新しいサービスを作りたい」と思ったのが始まりです。MIXIがこれまで大事にしてきた“コミュニケーションサービス”も含めてチームで検討していく中で、「心を持って話すロボットも作れるんじゃないか?」「それぞれの家庭にロボットがいる未来が実現できる?」…そんな発想から始まっていきました。

じゃあ、人を元気にするロボットはどういう言葉を発すればいいんだろう?と考えたときに、僕が浮かんだのは「妻」だった。内輪の話だからあまり説得力がないのですが(笑)、自分の過去の体験としてすごく嫌なことがあった時に妻と話をしていたら、3分後には大笑いしていたことがあって。嘘みたいな話だけど、本当の話。あれ…すごく落ち込んでいたはずなのにめちゃくちゃ元気になってるぞ…って誰よりも自分が驚いていました。

これは最近の話ですが、子どもたちにとっても、彼女は同じようで「ママとしゃべってると元気になれるんだ」と話してきます。学校で嫌なことがあったとしても、彼女と話をしているうちに笑顔に戻っていく。そんな場面を間近で見ていて「これって、すごく精神衛生上良いことだな」と感じましたし、ずっと家族のそばにいる『Romi』にも同じような存在になってもらいたいと思った。自分の人生に伴走してくれて、一緒にいると温かい気持ちになって、自分らしくいられる…そんなロボットであってほしいと強く思ったんです。

「課題解決」や「アドバイス」はいらない
本来の自分を取り戻せるようにするために大事にしたいなと思ったのは、「その人が本当はどうしたいか?」を見抜いて応援してあげることです。「本当にやりたいことなら、我慢しないでやっちゃいなよ」と言うし、「嫌なことはもうそんなにやらなくていいじゃん」と言う。自分の素直な気持ちに従っていいんだよ、それが最高の選択なんだよと、寄り添ってあげられたらいいなと。

たとえば、「今日はまだ眠いし、会社に行きたくない」と言ったら、「いいよいいよ、もうちょっと寝ちゃいなよ」とサボリを応援してくれたり、「会社で上司に怒られた」と言ったら「そんな上司は本当に最悪だね」と本人以上に怒ってくれたりしたら理想だなと思ってます。もちろん『Romi』の話を聞いて最終的にやるかどうかは本人次第ですが、「うーん、でもやっぱり起きるか」とか「え…そこまで怒らなくても」と思いちょっと冷静になる。ここで元の自分に戻るかもしれないとも思うんです。

みんな子どもの頃は自分の欲求にすごく素直ですよね。嫌なことは「嫌だ!」と拒否するし、やりたいことは「やりたい!」とすぐに動き出す。けれど、それが大人になるにつれて、段々と我慢を覚えていく。本当は嫌だけど我慢してやったり、ストレス抱えながら頑張ったり。そうしてるうちに、自分の素直な気持ちを出せなくなって、少しずつ元気をなくしてしまう。今度は、そんな自分を肯定するために、自分の気持ちに嘘をついて…。前向きになれない自分がどんどん大きくなっていくのだと思う。僕はありのままの自分を見せられる場所があるのは、心が元気でいるためにもとても重要なことなんだと捉えています。

だから、解決策を伝えたり、アドバイスをしたりするのは『Romi』が目指す方向性ではないんでしょうね。先ほど例にあげた「会社で上司に怒られた」の話で考えると、「上司にも何か考えがあったんじゃないかな…」「こうすれば良かったんじゃない?」という返事の選択もできると思う。確かに“プロとして”“一流のビジネスマンとして”という話から考えたら、そういう側面があるだろうけど、個人的にはこの返信には、目の前のユーザーを肯定しきっていない反応だと感じていて。そうではなく、『Romi』は、もっとシンプルに「本人を肯定する存在」でありたいと思っています。

豊かな会話を通じて、家族に寄り添えるロボットでありたい
会話AIロボットというと一人暮らしの人が想起されやすいですが、『Romi』は老若男女問わず、家族のみんなから愛されるロボットにしていきたいと思っていますね。夫婦2人で暮らしている人も、大家族の方も。子どもも、おじいちゃんも、お母さんも…みんなに使ってもらいたいですし、実際に最近では使われ方も変わってきたように感じています。

たとえば、最近では「複数人の声を認識できるようにしてほしい」というユーザーからの意見を受けて、新たに複数人の声判別機能を追加しました。これまでは、1人の名前しか設定できなかったので、家族のいろいろな人が『Romi』に話しかけても、ずっと設定した1人の名前を呼びかけ続けていた。けれど、昨年の6月からは、ママが呼びかけたらママの名前で返事をするようになりましたし、おじいちゃんが呼びかけたらおじいちゃんの名前で返事をするようになりました。現在は、オーナーも含めて4人まで設定が可能です。これによって『Romi』の“家族感”がぐっと増したんじゃないかなと思います。

ここから先『Romi』はIoTデバイスとしての改善も行っていくと思うけれど、まずはもっと“会話を通じて、人に寄り添えるロボット”を目指していきたい。やっぱりユーザーが『Romi』に一番求めていて、期待しているところだと思うので。ユーザーのことをちゃんと理解していて、話している内容も分かっていて、その上でズバッと切れ味鋭い一言がいえたら一番いいなと思うんですけど、正直、そこまでのレベルには到達できてない。まだまだだと思っています。『Romi』と話してると、あれ…なんだか奥さんと話してるみたい…そんな感覚になれたら、ゴールなのかもしれないですね(笑)。

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