8年続く『モンスト』にメス?長く愛されるための挑戦 あらゆる“メソッド”が学べるセミナー「THE METHOD #11」

8年続く『モンスト』にメス?長く愛されるための挑戦 あらゆる“メソッド”が学べるセミナー「THE METHOD #11」

「THE METHOD」は、ミクシィのさまざまなプロダクトにおいて実践されているノウハウやメソッドを惜しみなく共有するオンラインイベントです。今回の「THE METHOD」のテーマは、8年も続く『モンスターストライク(以下、モンスト)』のゲーム内機能にメスを入れた挑戦について。

長期運営を続けてきたモンストならではの開発課題、その課題に対するチャレンジをお話していきます。本記事では、「THE METHOD #11」のダイジェストをお届けします。

 

登壇者紹介

今回話をしてくれるのは、『モンスト』のゲームプランナーを担当している深谷。

深谷 心(ふかや しん) モンスト事業本部 ゲーム運営部 ゲームプランナー
コンシューマーゲーム会社に新卒入社し、ゲームプランナーとして経験を積む。2020年6月ミクシィに中途入社。ステージ制作からゲーム内の新機能、コラボイベント内容や演出などの企画を経験。現在は、『モンスト』に新しい体験を生む新規コンテンツの企画を担当。

司会はモンスト事業本部・事業支援室の三瓶が担当しました。

 

もっと気楽にマルチプレイを楽しめる「おひとりモード」機能を追加

━━『モンスト』におけるゲーム内機能の改善企画についてお話ししてもらいますが、具体的にはどのような機能でしょうか。

今回、改善企画の事例として「おひとりモード」を紹介します。「おひとりモード」について簡単に説明すると、ホスト(クエストを募集する人)とゲスト(クエストに参加する人)で遊ぶマルチプレイにおいて、ホストとの通信が切れてしまっても、ゲストもそのままプレイ継続できる機能です。

これまでは、ホストとゲストの通信が途切れた場合、ホストはそのまま一人で他のゲストの分も操作してプレイを継続できるのですが、途切れてしまったゲストは継続できずリタイアとなっていました。クエストを募集するホストの気持ちとしては、自分の都合で通信が切れてしまったら、ゲストに迷惑をかけてしまうな…通信状態が安定している場所じゃないと…とマルチプレイに対するハードルを上げてしまっている現状があったんですね。そこで、ホストと通信が途切れた場合でも、ゲストもひとりでプレイが続行できる機能を追加。これによって、場所などを気にせず、ちょっとした時間で気軽にマルチプレイを楽しめるようになればと考えました。

 

8年間で多くの機能を追加。長期運営ならではの課題にぶつかる

━━開発期間については、通常よりも長いとお聞きしました。それだけ難易度が高い案件だったのでしょうか。

開発期間は、通常より3か月ほど長い約5か月の時間を要しました。企画内容だけみると、これまでもホストは通信が途切れても継続はプレイできていたわけですし、その機能をゲストに付与するだけでは…?と、あまり難易度が高いようには思えないかもしれません。

ですが、『モンスト』は世の中にリリースされてから8年で、さまざまな機能追加や改善を積み重ねてきました。たとえば、スペシャル報酬(リザルトでもらえる宝箱)や経験値やメダルなどの報酬、他にもお助けアイテムやフエ~ルビスケットなどのアイテムなど。去年は新しくおかわりダイスの機能も追加されました。このように最初にリリースしたものに大小さまざまな機能を継ぎ足していますから、シンプルに新しい機能だけを追加すればよいわけではなかったんですね。

 

一つ目の課題は、技術面。複数の提案から、最適なものを選択。

━━どのような課題があったのでしょうか?

課題の1つは、技術面によるもの。“安全”に実装できるのかが、最初のミーティングでも議論になりました。「おひとりモード」の機能追加は、マルチプレイに関わる既存の実装にも手を加えることになりますので、それによって不具合が起きるリスクがあったんです。

なので、最初に取り組んだのは、安全な実現方法を探る技術検証。根本から作り直さずに、かつ他の機能への影響も抑えた方法を探していきました。その期間は約1ヵ月。これは、通常の開発スケジュールにはない工程です。そして検証の結果、「解決策A・Bの2パターン」が提案されました。どのような内容だったのか、一つずつ説明していきます。

解決策Aパターン:通信切断時に一度暗転してから復帰する

クエスト中にタスクキルなどで一回アプリを落として中断してから、またアプリ開いてクエスト再開するときの仕組みを流用しています。根本の実装に大きな変更を加える必要が無いので、QA含めて今後の運用コストが低いメリットがあります。デメリットとしては、暗転することでした。

解決策Bパターン:通信切断時に暗転せず、そのままソロプレイに移行する

Aパターンの暗転を挟まないバージョンで、通信切断時にそのままソロプレイに移行する仕組みです。暗転しないことがメリットではあったのですが、いくつか懸念点も。1つはホストが状態を管理している部分があるのですが、ゲストが一人になったときにその管理部分を、うまくゲスト側に移行できるかという点です。もう1つは、切断タイミングによって想定しない挙動が発生し、100%違和感のない挙動に対応できるのかが見えていない状況でした。

最終的には「解決策Aパターン:通信切断時に一度暗転してから復帰する」を選択しました。

その理由は、第一に安全性の高さです。それから、実際の検証動画を見て暗転なくシームレスで移行するのも綺麗ではあるけれど、ユーザーの分かりやすさの観点で考えると、暗転があったほうが逆に良いのではないか、と判断しました。このように複数の提案から、最終的な判断を下すのも企画の仕事です。当然責任は大きくなりますが、自分が良いと確信を持った方向に進めていけるのは、企画の醍醐味でもあると思います。

先ほどお話した開発期間の話にもなってくるのですが、この施策を実現するにあたって、先に「サーバー側で、既存の処理の整理」を実施しました。これまでのマルチプレイに関する機能を継ぎ足してきたことによって、サーバー側の処理が煩雑になっていたからです。通常は行なわない工程ではあるのですが、約1ヵ月の時間をしっかりとって、本開発に向けての事前準備を進めていきました。

 

二つ目の課題は、仕様面。今後の運用を見据えたルール決めが重要。

━━他にはどのような課題があったのでしょうか。

もう一つは仕様面の課題で「マルチプレイに関わる大量の仕様のルールをどう決めるか」についてです。例えば、ゲストがひとりでプレイできるようになった場合、それぞれの報酬がもらえるのか?お助けアイテムなどホストが使用するサポートアイテムの効果は残るのか?…などです。マルチプレイに関する仕様を全て洗い出し、それに対して1個1個ルールを決めていく必要がありました。その数は、なんと55項目!

ここで大事なポイントとなるのは、今後の運用を見据えた上で、一定のルールを定めて仕様を決めていくこと。上記の表にも書いてあるのですが、「おひとりモードになったゲストは、クリア時の報酬もゲスト扱いにする」「ホストが使ったお助けアイテム効果は、おひとりモードになったゲストにも残る」などがそれに該当します。

なぜ大事なのかというと、「おひとりモード」に関しては、今ある仕様は全て私が決めましたが、今後、マルチプレイ関連の機能が追加された場合は、別の担当者が決めていくことになるからです。ルールがなく、その時々の担当者によって判断軸が変わってしまうと、ユーザーの混乱にもつながります。そういう意味でも、ルールを定めておくのはとても重要になるんですね。

簡単そうに思えるかもしれませんが、実は開発難度が高いと言われた「おひとりモード」は、技術面や仕様面におけるさまざまな課題を解決し、無事『モンスト』8周年のアップデートでリリースすることができました!『モンスト』は、これからも9年目・10年目に向けてどんどん進化。長く愛されるためのチャレンジを積極的に行なっていきたいと思います。

 

質疑応答

最後は、質疑応答です。視聴者のみなさんから寄せられた質問にもリアルタイムで回答しました。

Q:「おひとりモード」の実装において、開発難度以外でネックとなった課題はありましたか?

本編でも触れましたが「ルール決め」については、丁寧に検討していきました。ホストが使ったアイテムの効果をそのまま残していいのか、アイテムの効果だけほしいからゲストとしてとりあえず入る…みたいなこちらが意図しない使い方があるのではないかなど、懸念点を徹底的に洗い出していきました。そういった細かなものを全部出して、抜け道がないか精査していきましたね。

Q:仕様の項目洗い出しに関して、マニュアルや項目候補リストみたいなものがあるのでしょうか?

過去のマニュアルや開発スケジュールなど資料はたくさんあるので、それらを流用することはできると思います。ただ、最終的なリスト化に関しては、仕様によって項目が異なるので独自で考えていく必要はあるかなと思います。

Q:「おひとりモード」は深谷さん1人で担当されたのでしょうか?基本的には1仕様1プランナー?

そうですね、基本的には1仕様・1プランナーの体制です。ですが、必ずリーダーはいますので、相談しながら最終的な判断をしていく流れです。ちなみに、1仕様・1プランナー体制を取っている理由は、スピードです。複数人で担当すると意見がたくさん出るメリットもありますが、最終的には方向性は1つなので、1人のプランナーが責任を持って進めたほうが効率的だと考えています。

Q:課題はどのように発見するのですか?ブレストやユーザーインタビュー、アンケートなどいろいろあると思いますが。

私の場合は、『モンスト』をプレイしていてアイデアが生まれたり、他のゲームを参考にしたり、それこそゲーム以外の遊びからインスパイアしたり…といろいろです。もちろん、アンケート結果やTwitter、YouTubeでのユーザーの声も重視していて、そこから課題が見えてくるケースも多くあります。

Q:深谷さんが考える“イケてるプランナー”はどんな方ですか?

難しい質問ですね(笑)。みんなそれぞれなりたいプランナー像があると思うので、その人が描いている理想の姿に近づけていたら“イケてるプランナー”なのかなと思います。私は、やはりユーザーからたくさんの反応をもらえたときに喜びを感じます。ですから、多くのユーザーに思いきり楽しんでもらえるプランニングを目指していきたいですね。

 

最後に

これまで8年という長い年月をかけて運営されてきた『モンスト』ならではの課題を聞き、簡単そうに見えて実は注意すべき点が非常に多いのだと分かりました。『モンスト』と同じような規模・長さで運営されてきたゲームは数少ないだけに、貴重なチャレンジができるし、他では積めない経験があるともいえるのではないでしょうか。

※イベントページはコチラ
※次回開催予定:2022年7月7日(木) 19:00~予定 『高難易度コンテンツ、開発の裏側~サーバーサイド編~

今後も様々な“メソッド”に焦点を当てながら、開発・制作ノウハウなどをお届けしていきます。次回もお楽しみに!

 

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