2018年9月10日、エンジニアを目指す学生・IT業界に携わる若手エンジニア向けのテックカンファレンス「BIT VALLEY 2018」が、渋谷区文化総合センター大和田で開催されました。
これはサイバーエージェント、DeNA、GMOインターネット、ミクシィの4社が、渋谷をIT分野における世界的技術拠点にすることを目的とした「SHIBUYA BIT VALLEY(※1)」の構想の中で立ち上がったテックカンファレンスです。
※1「ビットバレー」は、渋(bitter=ビター)と谷(valley=バレー)をかけ合わせた造語で、1990年代後半からIT系ベンチャー企業が渋谷で続々開業していたため、その周辺地域を指す呼称として生まれました。
長谷部渋谷区長による開会挨拶に始まり、サイバーエージェント 代表取締役 藤田 晋氏、ディー・エヌ・エー 代表取締役会長 南場 智子氏、GMOインターネット 代表取締役会長兼社長・グループ代表 熊谷 正寿氏による『渋谷×新規事業論』という題目のKeynoteを実施。ビットバレーが生まれた時代のエピソードや、若手のエンジニアへのメッセージ、渋谷への想いを語ってくれました。
弊社の会長の笠原は海外出張のためビデオメッセージにて登場。「エンジニアのチームやデザイナーのチームなどと意見を言いながらプロダクトを進めていく工程はいまだに楽しいと感じている。『家族アルバム みてね』に携わりながら、そこで得た知見を業界にも還元したいし、このBIT VALLEYの潮流も含め、日本の技術向上のために一役買いたい。」と、想いを伝えました。
さくらホールのメイントラック、プラネタリウム階のサブトラック1、及び、サブトラック2の計3つの会場で行われたセッションには、AI、ブロックチェーン、エンジニアリング組織、TDD(Test Driven Development)、ゲーム、クラウド、スタートアップなど、テクノロジーを中心とした様々なテーマで展開されていました。ミクシィグループのエンジニア達も計5つのセッションに登壇。
カンファレンスには、1000名以上の方にご来場いただき、参加された方に満足いただけるプログラムだったかと思います。
カンファレンス後、改めて4社の運営代表者(サイバーエージェント 長瀬氏、GMOインターネット 稲守氏、DeNA小林氏、ミクシィ 村瀬)にインタビューを実施。「BIT VALLEY 2018」開催意義、「SHIBUYA BIT VALLEY」の想い、今後の取り組みなどについて語ってもらいました。
サイバーエージェント 長瀬氏(右)、GMOインターネット 稲守氏(右中)、DeNA 小林氏(左中)、ミクシィ 村瀬(左)
4社共通の想いを実現するため
━━━━まず、「BIT VALLEY」という名称を使ったのはなぜでしょうか。
稲守 今だから話しますが「Tech VALLEY」も候補に挙がっていました。技術が未来を切り開くのは間違いないと思っていますから。しかし、それだと「Tech」だけが先行してしまう恐れがある。想いとしては未来志向、つまり起業家マインドを持ち将来を技術で作っていくべきだという点でした。だからこそ昔の言葉ではありますが、「渋谷」「起業家」「技術」から連想される「BIT VALLEY」にしました。二転三転したんですけどね(笑)。
━━━━そうだったのですね。では「BIT VALLEY 2018」の開催のきっかけについて教えてください。
稲守 私が地方の学生との会話や地方の技術コミュニティへ参加した際の経験から、「地方と都心部との学生の間に学ぶ機会や情報粒度の格差がある」とも個人的に感じていました。
長瀬 私自身も同様の課題を感じていました。また、元々、“深刻なIT業界のエンジニア不足”が背景にあります。この課題を解決するために何かできないかと考え、「IT業界やエンジニアの魅力をもっと若い世代に伝えていかなければ」と思い、渋谷区へ相談にいきました。
自社だけでなく、渋谷区と一緒に進めることで社会的意義も高まりますし、渋谷の企業が一つになることで注目される大きなイベントにできるのではと思い、各企業さんにお声がけしました。これが、イベント発足のきっかけです。
村瀬 お話をいただいてからは「参加したい」と即答しましたね。みなさんの想いにも共感しましたし、もっと渋谷に注目してもらえればという想いもありました。また、私自身が普段の採用活動で地方と都心部の学生の間の格差については感じるところもありましたから、何らかの協力をしたいと。
小林 私達も同様に賛同しました。プロジェクトの進め方としては、4社を中心に様々な企業さんとカンファレンス実現に向けて協力していきました。通常だとこの規模のカンファレンスなら1年間ぐらいかけて会場手配や準備などを行うものですが、#0のカンファレンスとして非常に短期間でこのクオリティで実現できたのは素晴らしいことだと思います。
長瀬 本来はネット配信も実現したかったのですが、予算やスケジュールの関係で難しいところがありました。しかし、100名ほどの学生(※2)が地方から参加してくれたのは大きな成果だったかと思います。
※2 地方の学生約100名に会場までの交通費最大5万円をカンファレンスの協賛企業でサポート
稲守 各社に賛同いただいたものの、時間とリソースが限られている。しかし、各社が同じ想いを持ち、熱量を持ってスピーディーに意思決定をし進めることができたからこそ、この短期間での開催にこぎつけたのだと思います。
長瀬 構想から開催まで3ヶ月ぐらいでしょうか。本当にみなさんの協力があってこそですね。やるからにはプライドを持って各社が協力できたのは大きかったと思います。
小林 例えば、定例ミーティングでKeynoteのモデレーターを誰にするかという議題がでた時も、定例やSlackで真剣に検討を重ね、「技評の馮さんではどうだろうか(※3)」と意見が出たので、馮さんにすぐにコンタクトをとって打診し、決定しました。人脈、巻き込み力、リソースなど各社が持つ強みを惜しみなく存分に発揮したからこそ実現できたと思います。
※3 株式会社技術評論社 クロスメディア事業室室長 馮富久氏
━━━━4社がスピーディーかつうまく連携できた理由は何でしょうか。
小林 4社とも元々は渋谷で創業したITベンチャーで、何となくノリもわかっていた。加えて、お互いが普段業務で使いなれているSlackでのコミュニケーションを採用するなど、共通点も多く連携がスムーズでした。
稲守 多数の利害関係者と一つのことをやる際に思惑が合致していないと、プロジェクトが前に進まないことが多々あります。しかし、各社とも潜在的な社会の課題認識や、どのような技術ブランディングを実行していくべきか課題を持っていました。また、今回は渋谷区の都市開発とたまたまタイミングが合いましたし、区長がプロジェクトのミーティングに参加してくれたことで、取り組みに期待を寄せてくれているのも理解できました。そのように利害関係を超えて共通の目標を持ち、早い段階で各社が共通のマインドになれたのが大きかったのではないでしょうか。
長瀬 世の中の流れと合致して、まさに今のタイミングにこの4社で実施できたのは、素晴らしいと思いますね。
再集結する場
━━━━それぞれ共通の想いがあったために急ピッチで実現できたのですね。当日のコンテンツで印象深いものには何がありましたか。
小林 南場、熊谷さん、藤田さんの控え室での雑談風景ですね。とりとめもない話ではありますが、あのお三方が並ぶと圧倒されるものがありますから。あと個人的には、その隣に並ぶ村瀬さんが面白かったですね(笑)。
一同 笑。
村瀬 緊張感しかなかったですよ(笑)。
小林 それぞれが渋谷で起業して、競い合いながらサービスを拡大してきた。とはいえ、カンファレンスの場では「久しぶり!」と声を掛け合い、壇上でも違和感なくトークできる3名の関係性が印象的でした。
稲守 私は、当日の運営で正直手一杯(苦笑)。汗だくでしたし。
長瀬 印象深いのはプラネタリウムの会場でのセッションですね(※4)。球体の天井にスライドが投影され、登壇している様子は斬新なものがあったかと思います。あとは、「SHOWROOM」と「AbemaTV」のセッションなど渋谷らしいコンテンツがよかったですね。
※4 カンファレンス会場に「渋谷区文化総合センター大和田」のコスモプラネタリウムを利用
稲守 ダイバーシティに関するセッションなども、このカンファレンスの特徴でもあるかと思います。メインは技術に関するものですが、渋谷らしいというか。あとこれはコンテンツではないのですが、当日100名近いスタッフが楽しみながらやってくれていたのは感慨深いものがありました。集合写真でもテンションMAXでしたから(笑)。
村瀬 面白かったのは、元々ミクシィで働いていたエンジニアが登壇している姿を見られたことですね。新卒としてミクシィに入社し、退社後起業してそれぞれが活躍する中、10年近い時を経てまた集まることができている。大きなビジョンやミッションを堂々と語る姿をみて、誇らしい気持ちにもなりました。
━━━━それは素晴らしいですね。
村瀬 あとは、今回弊社の若手エンジニアも登壇したのですが、「また登壇したい」「もっと出たいです」と意欲が高まっていました。彼らの良い影響に繋がったのもよかったと思います。
━━━━エンジニアが再集結する場所や若手の成長に繋がる機会が提供できたのは大きいですよね。今後「SHIBUYA BIT VALLEY」はどのように発展していくのでしょうか。
長瀬 Keynoteの3名が囲み取材の中で、「今後定例ミーティングをやる」と宣言したので、まずはそこで課題の洗い出しと解決手法を模索して続けていきたいですね。例えばビザの問題が発生したとしても区と協力することで規制緩和に繋がったりなど、何かしら解決手段に近づくような議論などがあってもいいですね。
稲守 長谷部区長が「エストニアの電子政府」の話をしていましたように、渋谷区がブロックチェーンの技術を使って何かやってみるなど、各社が持っている技術の実証実験を渋谷でできる可能性があるのは大きな励みになります。
村瀬 そうですね。区長や渋谷区もテクノロジーを使って街を変えるということに期待しているのも、テクノロジーの会社としてワクワクしますね。
小林 「区もテックに関わっていく」「政策にテックを反映していく」など渋谷という街が技術や取り組みを理解し、ビジョンを持っているのは嬉しいですね。コミュニティ運営をしている立場から意見を言いますと、このようなコミュニティカンファレンスは年に一回実施したらそれで終わりのようなこともありますが、区と一緒にやっていくことで会社単位ではできない様々なことにもチャレンジができそうです。
━━━━官・民の協力する姿勢に賛同してくれる企業が増えるといいですよね。
カンファレンスその後と、これから
小林 そういえばイベント開催後、「あの取り組みは面白いよね」「渋谷に引っ越したいけどどうしたらいいか」といった声を知り合いの企業さんからいただいています。今回のイベントを皮切りに盛り上がっていく渋谷というコミュニティに、企業も人も集まり広がっていければ、どんどん発展していくはずです。「SHIBUYA BIT VALLEY」がそのサポートをできる存在になっていきたいですね。
村瀬 地方の学生が東京を訪れた時に、渋谷で気軽に集まることができる場所を提供できたらいいですね。色んな人と繋ぐ機会なども提供できるはずですし。
一同 それはいいですね。
稲守 次回のイベントも、学生が休みの時期に開催したいですよね。
長瀬 そうですね。いずれは、一万人規模のイベントに、できれば街中がお祭り状態にしたいです。みんなで頑張れば不可能ではないと思いますから。
小林 渋谷の街全体がカンファレンス仕様になっていてほしいですね。映像であれば◯◯に、Fintechなら△△に行くなど、色んな企業が参画しているイメージです。
稲守 イベント開催期間中、夜の街に繰り出したら、そこら中でエンジニアが飲んでいて、気軽にコミュニケーションできる空間も作りたいですね。
小林 改めて考えるとエンジニアだけのイベントにこだわる必要がない気もします。モノ作りに関わる人という観点であれば、デザイナーでもサウンドクリエイターでお楽しめる場所を作りたいですし、参加者の成長を促す起爆剤になれたらいいですね。
━━━━構想を実現していくための活動に期待したいです。最後に渋谷がエンジニア、クリエイターの街として認識されるために、または発展していくためにどうしていくべきだと考えますか。
稲守 まずは“エンジニアやデザイナーが気軽に集まる場所は渋谷”というブランドを確立していくことが必要だと思います。
小林 そうですね。そのためにも大きなイベントだけでなく、小さなテーマでもいいので継続的にイベントをやり続けたり情報発信し続けたりすることで、渋谷の文化として根付いていくのではないでしょうか。
村瀬 サービス開発と同じですね。常にアップデートし続ける必要があるかと。
長瀬 渋谷の再開発という絶好のタイミングだからこそ、数千人のエンジニアやクリエイターが集まってくる可能性があり、集積効果も見込めるはずです。物理的に近い距離が新しい価値の創出にも繋がるでしょうし。
村瀬 「渋谷のラジオ」での情報発信や毎年開催している「しぶやの夏祭り」など、渋谷に既にあるコンテンツも有効活用しながら、渋谷と一緒に盛り上げていくことで「渋谷=モノ作りの街」という未来を描けると思います。
最後に
4名のインタビュー中に「今や小学生がプログラミングやサービスプレゼンしたりする時代」という話がありました。常に進歩する技術が、時代の変化や新しい価値観をもたらしていることは確かです。シリコンバレーのように渋谷の街が「世界の新技術拠点」として、またモノ作りの街として発展していくために、ミクシィグループも貢献できればと思います。
「SHIBUYA BIT VALLEY」に関するお問い合わせは<shibuya.bitvalley@gmail.com>まで。