アニメ「進撃の巨人」コラボのストライクショットはこうして作られた。VFXデザイナーの演出へのこだわり

アニメ「進撃の巨人」コラボのストライクショットはこうして作られた。VFXデザイナーの演出へのこだわり

モンスターストライク(以下モンスト)』をプレイしたことがある方なら、誰しもが知っている「ストライクショット(以下SS)」。以前、エンジニアとVFXデザイナーの対談を行い、その制作フローやこだわりについて紹介しました。今回はアニメーション部分に着目し、どのように制作を行っているのか、VFXデザイナーである佐々木と高橋の二人に、ひとつのストライクショットが出来上がるまでの工程をすべて語ってもらいました。

今回は特別に許可を得て、「モンスターストライク×進撃の巨人」コラボで人気を博した「人類最強の兵士 リヴァイ兵士長」のド派手なストライクショットが生まれるまでのドキュメントをご紹介します!

 

ストライクショットが出来るまで

━━はじめに、制作のフローを教えていただけますか?

高橋 ざっくりいうと、制作の工程はこんな感じです。

1.企画チームがSSの概要を決める
2.該当バージョンで開発するインゲームの仕様について会議を行う(ギミック会議)
3.担当者の割り振り、開発開始
4.制作および実装
5.調整およびブラッシュアップ
6.アニメーションのFIX、SEの制作依頼
7.SS演出のFIX


━━なるほど。主にどのようなツールを使って作っていくのでしょうか?

佐々木 モンストではアニメーション制作をCocosBuilder(以下Cocos)というアニメーション制作ソフトを使って制作しています。FLASHやAfterEffectなどのタイムラインアニメーション制作に近いツールです。そこで制作したアニメーションファイル(以下CCBファイル)をクライアントエンジニアに渡して実際の画面で動作できるように組み込んでもらいます。

━━ありがとうございます。では早速、ひとつずつ伺ってもよいですか?

高橋 (1)は、コラボやオリジナルのキャラクターなど、新しいSSを制作することになった際に、まずプランナーチームでどのようなSSにするか話し合い、おおよそ決まったものを文章ベースでもらいます。

「人類最強の兵士 リヴァイ兵士長」の場合…

スピードとパワーがアップ&立体機動装置で最初にふれた敵を攻撃し、フィニッシュで弱点に向かって移動し乱打する/乱打した敵の攻撃ターンを遅延する/立体機動で移動する際に必ず最初にふれた敵を通過する


━━どういう動き、ではなくてSSの機能が決められてる感じなんですね。

佐々木 それをもって、(2)のギミック会議と呼ばれる会議で、プランナーやエンジニア、VFXデザイナーが参加する会議にかけます。だいたい2時間くらい、ですかね。どういう攻撃を何回くらいするのか、そこに弱点は含めるのか、などの仕様を共有するための会議です。

高橋 たとえばコラボの場合だと、そのIPが好きな人から細かな演出の機微などをヒアリングしたりして、ビジュアルの演出イメージをふくらませるためのものでもあります。

佐々木 どのようなアニメーションにしてどういった演出にするかは僕たちの仕事なので、この時点では仕様や要件だけ決まってる感じです。

━━なるほど。それで(3)の担当者の割り振りについては、以前お話いただいたように、そのキャラクター愛が強い人だったり作品が好きな人だったりが担当すると。

高橋 そんな感じですね。タスクの量によって差配することもありますが、基本的には自分の作りたいキャラクターのSSを作ってもらうことが多いかなと思います。

━━では、(4)の実際に開発に入っていく段階はどうなるのでしょうか?

佐々木 まず、クライアントエンジニアに動きの開発を進めてもらうために、ざっくりとしたラフの素材を渡します。案件ごとに違いますが、だいたい4〜5個くらい、ですかね。

高橋 リヴァイの時だと、まずはこのようなアンカーの素材をつくるところから初めました。

▲左/FIXしたデザイン 右/仮実装時のラフ

高橋 最終的には左のようなデザインにするのですが、この時点では大まかなかたちが分かればよいので右のような一旦シルエットだけ想像できるモチーフだったりエフェクトだったりの素材をまとめて渡して、開発を進めてもらいます。

▲開発ツール上での制作画面

━━ここでクライアントエンジニアにバトンが渡されるわけですね。

高橋 そうです。それで、クライアントエンジニアが実装してくれている間に何をするかというと、仮素材で渡したモチーフやエフェクトのブラッシュアップ、ですね。Cocos上で細かな動きを一コマ一コマ調整していくイメージです。

━━アニメーションということは、1秒間に何コマも画を描いて動かしてるんですよね…?

佐々木 いえ、Cocosは毎秒30フレーム(1秒間に30枚の絵)で動作していて、Flashでアニメーションを作るのと同じように、このモチーフが次のフレームにはどこまでどう動くか、ポチポチ細かな作業を積み上げてアニメーションを作っていきます。だから、1秒間に30枚絵を描くわけではないです(笑)。ある程度動きと動きの間は、人間の目が補完してくれるので、動きの起点になる部分の絵をひとつひとつの細かなCCBファイルに分けて、実装のための準備を進めていきます。

▲左が移動中のエフェクト、右が斬撃時のエフェクト

━━おおお…ここで動きが決まっていくわけですね

佐々木 このツールはかなりアナログな機能しかないので、すごく使いやすいものではないんですが、もう何年も触り続けてるのでうまく機能を組み合わせて割と自在に動かせるようになってますね。

高橋 アナログですよね。だからこそ、ソフト内のさまざまな機能を駆使して本来ソフトウェアの制作者も意図していないような動きを実現できてるっていう(笑)。

佐々木 たぶん、僕このツールについての技術書を書けるレベルなんじゃないかと思います(笑)。開発している人から見ても、かなり使いこなしてる方かと。

━━アナログなツールなだけにテクニカルな使い方がたくさんあるわけですね。

高橋 …とCocosで作業している間に、クライアントエンジニアから(4)の最初に渡した仮素材で実装したものがあがってくるので、確認して、さらに細かな調整を重ねていきます。

━━細かな調整というと?

佐々木 たとえば、どれくらいのスピードで移動して、何回斬撃を加えて、フィニッシュはこれくらいのエフェクトにすると決めていても、実際に実装してもらうと、フィールド上のキャラクターのエフェクトとの兼ね合いや動きの体感時間などで、思ったよりも地味に感じてしまったり、逆に派手に感じてしまう場合があるんですね。

高橋 リヴァイの場合、作品を知っている人からすれば”最強”のイメージが強いキャラクターなので、なんだか強そうなSSに見えないとか思ったよりあっさりしたSSだと、ユーザーは喜んでくれないんです。

━━それはどうやって調整していくのですか?

高橋 キャラクターによってどのような演出にするか様々なんですが、リヴァイの場合、クライアントエンジニアとの調整の中でボールのスピードを上げて画面を横切る回数を増やしたり、フィニッシュの斬撃の回数を細かく増やしたりして、よりリヴァイらしさを感じられる演出を目指しました。

佐々木 Slack上に、クライアントエンジニアとVFXデザイナーだけが参加している#ギミックキッチンという部屋があって。そこで演出の手応えについてやりとりをしたり、このIPならもっとこうした方がいい、と意見し合ってブラッシュアップを重ねていきます。工程でいうと、(5)にあたる部分がこの調整の段階ですね。

━━ギミックについて議論する場。その感覚って、結構ニュアンスが強いものではないですか?

佐々木 僕らとクライアントエンジニアの付き合いも長いので、そこはだいたい合ってるというか。それは長年一緒にやってる部分も大きいですが、なにより皆モンストのヘビーユーザーというのがかなり大きいかなと思いますね。

高橋 たしかに。このSSでどれだけ敵にダメージを与えられそうか、とか、このレアリティだとどれほど強いSSなのかなどはモンストをプレイしまくっているから感覚で身についている部分は大きいですね。画面を覆い尽くす爆発なのにこのダメージなのかよ!みたいなのってがっかりして楽しくないじゃないですか。

佐々木 SSの間って、ユーザーからすれば何もすることがない時間なんですよ。画面を見つめることしかできない。だから、まず大前提として、その時間見ていられるSSにしないといけないし、「できることなら何回見ても飽きのこない演出を作りたいですね。

━━退屈に思われない秒数、とかあったりするんでしょうか?

佐々木 そこは秒数というよりも、ユーザーの感じる体感時間なのかなと。同じ10秒でも長く感じることもあれば短く感じることもある。プレイしているユーザーが演出を見ていても納得できる結果が得られるなら多少長くてもいいと思っています。

高橋 リヴァイのSSの場合だと、ほぼワンパン(一発KO)で倒せるので、ユーザーからすれば「このSSを出せば勝てる!」と思われてるはずなので、少々長い演出でもSSが終わるのを心地よく待てるんですよ。それでステージが終了になるなら、これで終わると思ってもらえるので長めの演出でも大丈夫。逆に、これがあまり強くないキャラクターだとそれだけ待ってはもらえないので、ダメージが少ないSSは動きを早くしたり細かくすることで体感時間を短く感じてもらう、というふうに調整していきます。

▲弱点エフェクトとフィニッシュのエフェクトが干渉して斬撃が見えない

 

▲干渉しないエフェクトを制作

 

▲最終的なフィニッシュのエフェクト

━━ダメージ量に体感時間、キャラクターの持ち味…色々なバランスをとりながら作られているんですね。リヴァイで工夫されているところって他にもありますか?

高橋 このキャラクターの場合、SS前に共通して”ブレードを抜くシーン”があるんですけど。そこまではリヴァイも同じですが、実はSSの最中は、原作にならって片手だけ逆手で剣を持ってるんですよ(笑)。これは作品が好きなクライアントエンジニアから出た意見で、リヴァイなら逆手でしょ!と、リヴァイのために演出を変更した部分ではあります。

▲#ギミックキッチンで実際にやりとりされたコメント

━━そんな細かなところまで…!でもかなり気づかれにくい部分ではありますよね?

佐々木 画面の中で見ると本当にちいさな変化なので、気づく人は多くはないと思うんですけど、自分が作品のファンだったら気づくと思うし、気づいた時に嬉しいじゃないですか。全員に気づいてもらえるようなこだわりじゃなくても、そのこだわりに気づいて喜んでくれる人がいるなら、そのためにも細かな演出には気を配ってますね。

▲リヴァイのSS。片方だけブレードを逆手で持っている

高橋 このコラボに限らず、そういったファンが喜んでくれるような演出、というのは積極的に取り入れている部分ではあるので、ユーザーの皆さんにもぜひ楽しんでほしいと思います。

━━SSにもっと注目したくなる話ですね。その次の工程はどうなりますか?

佐々木 細かな調整と行ったり来たりしたあと、(6)でアニメーションがFIXになったらコラボ先の版権元に監修確認に出します。ようやくその間にSEを作ってもらって、アニメーションに実装して再度監修に確認、そこでようやく演出FIXになります。

▲演出のために最終的に使用した画像の一覧

 

VFXデザイナーになるためのスキル

━━こうやって出来上がったSSを見ると感慨深いですね…。ひとつのSSにもこれだけのこだわりが詰まっているとは知りませんでした。

高橋  かなり職人的な業務ではありますよね(笑)。

佐々木 でも、こうしたSSの中の細かな演出によって、ユーザーに「このキャラクター欲しい!」とか「使ってみたい!」とか思ってもらえるかどうか決まる部分も大きいと思うので、より喜んでもらえるSSを作るために努力は惜しまないです。

━━聞いていると、SSを手掛けるのは至難の業に思えます。VFXデザイナーになるのは大変…?

佐々木 うーん、Cocos上の技術的な部分は教えられることも多いですし、演出面も過去に制作してきたアニメーションデータなどがあるので、演出を作ること自体はできると思います。ただし、ただ作るだけじゃなくモンストの演出として正しいのかどうかをロジカルにを考えられないと務まらないかな。

━━どうすれば着実に目指していけるのでしょうか?

高橋 シンプルなところでいうと、まずはモンストをやりこんでもらうことでしょうか。エンジニアと開発を進める時に「あの◯◯のSSの時みたいな動きで…」と過去のSSを参照しながら動きを決めたり、ディテールを詰めたりするので、その共通言語がまず大事かなと思います。もちろん、技術があるに越したことはないのですが、エンジニアとタッグを組んで開発を進めていくので、そこのコミュニケーションの確度が高いことはとても重要ですね。

佐々木 エンジニアとの共通言語でいえば、もしかしたらモンストをやりこんでいるだけじゃなくて、コンシューマーゲームをたくさん遊んできていれば、コンシューマーゲームが好きなエンジニアとは同じように「○○のゲームの△△のシーンのあの演出」とかで通じ合えるのかもしれない(笑)。 

高橋 あと、これはメンバー全員に持っていてほしい気持ちではあるのですが、ユーザーに届ける”商品”の制作を担っているんだという意識はすごく大事だと思います。SSの演出ひとつとってもクリエイションを自分でハンドリングできる部分があります。自由度が高い分、制作する演出の先にユーザーの顔が思いうかんでいないといけないと思います。かっこいいと思うから、これでいいと思う!と突き進んでしまうと喜んでもらえる演出は作れないと思うんですね。

佐々木 そうだね。実際に、直接このSSを買ってもらうわけではないので少しイメージしづらい部分はあるかもしれないですが。この演出でキャラクターの魅力を後押しするぞっていうような気持ちがないと、良い演出は作れない気がします。正直にいってしまうと、そこをやらなければ手間は減らせる。だけど、ユーザーを喜ばせたい楽しませたいっていう気持ちがあるから、やる。シンプルですが、自ら手を動かしてものづくりをしていると忘れがちな部分でもあるので、こういった思いを持ってる人が仲間になってくれると嬉しいなと思います。

佐々木 善久(写真右)
アパレル、飲食などの接客業を経て、30代に地元印刷会社にてグラフィックデザイン、Webデザイン、Flashアニメーション制作を経験。上京後アプリ・ゲーム開発会社にてアニメーション制作を本格的に学び、2014年にミクシィへ入社。モンストのUI設計やゲーム演出を手がける。現VFXチームリーダー。
高橋 剛(写真左)
Webデザイナーなどを経て、ソーシャルゲーム開発会社に入社しブラウザゲームの演出制作を行う。アプリの新規開発に関わったのち退社し、2016年5月ミクシィに入社。以降、モンスターストライクのSSや友情コンボなどの演出制作を担当。
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