私のミッションは、マーケティング専門の組織を無くすこと。執行役員 根本悠子〈後編〉

私のミッションは、マーケティング専門の組織を無くすこと。執行役員 根本悠子〈後編〉

マーケティング領域を担う執行役員 根本のインタビュー後編です。求人サイト「Find Job!」からSNS「mixi」、スマホアプリ「モンスターストライク」(以下、「モンスト」)というさまざまなプロダクトの企画運営、そしてプロモーション、マーケティングを経験する中で辿り着いた、組織戦略・マーケティング戦略について語ってもらいました。

※前編はコチラ

■ミクシィ社におけるマーケティング本部の組織戦略
【マーケットインの思考を会社全体に根付かせていくため、マーケティング本部が誕生。】

2018年4月から、プロダクトの成長をより加速させていくため、全プロダクトを統括するマーケティング本部が誕生しました。背景には、事業領域が広がりモンストで実践してきたバイラルマーケティングをはじめナレッジシェアやマーケットインの思考を社員全体に根付かせるためです。

また、もう一つの背景として、モンストのマーケティング戦略を担うメンバーとサービス企画・運営を手掛けるメンバーが、プロダクトサイドと一緒に課題、仮説、実行、検証をきちんと導き出すことの重要性を実感していることが挙げられます。モンストの周年イベントなどはそれの最たる取り組みだと思ってます。

【ロジックとストーリーは、モノ作りの指針になる】

新しいアイデア・技術・UI/UXを通じて質の高い体験を作り、プロダクトをスピーディーに生み出せる組織体制は私たちミクシィグループの強みです。

しかし、

「このサービスのターゲットとは?」
「どう使ってもらうべきか?」
「市場でのポジションは?」
「どのような差別化をしていくべきか?」
「バイラルマーケティングがどう効いて、どうグロースするのか?」

など、勝つための「ストーリー」や「戦略」は重要。と、頭ではわかっているものの、ぼんやりしたゴールやスケジュールドリブンでモノを作ることが、まだまだ多いような気がしています。それ自体を否定しているわけではなく、すぐに形にできるのは強みですが、企業である以上「プロダクトとして勝てるかどうか」の青写真を描くことが必要です。確実な未来は誰もわかりませんし、「必ず勝てる戦略」は難しいかもしれませんが、勝てる確率を上げていくためにマーケティング思考をモノ作りと伴走させていくべきだと考えています。

例えば、ポジショニングマップを引いて、狙うべき市場を決めただけで安心してしまうことが実は多いような気がしていて。誰も参入していないということは、もしかしたらブルーオーシャンではなくて参入障壁が高いから誰も参入しない、そもそもそこにニーズがない可能性もあるのかもしれない。

でも「非合理だけどリスクを取ってでも参入するべきだ、なぜなら●●だから勝てる可能性が高い」といったように分析結果とストーリーがあります。それがプロジェクトメンバーに浸透していれば、モノ作りの情熱を持ちつつも、事業としての成功確率を高めていくために「やること・やらないこと」が明確になり、マーケティング側とプロダクト側が対立することなく効率的に推進ができるのではと思っています。

【同じ方向を目指す。社員全員がマーケターになってほしい。】

同じ船に乗っているメンバーが、「この船はどこに向かうのか分かりません」という状況になってはいけない。マーケティングの部署だけがマーケティングのことを考えるのは本質的には違うんだろうなと感じています。職種問わず、プロジェクトに関わるメンバーがプロダクトの価値を言語化できて、同じ目標に向かって進んでいくことが一番大事だと思っています。とはいえマーケティング思考を、あるべき論で推進し過ぎると「評論家?」「面倒くさいかも」と思う方もいるかもしれません。

だからこそ、マーケティングのメンバーには「“寄り添う”というイメージを持ってほしい」と伝えています。お互いの関係性を早く積み上げて、プロジェクトとしての一体感や達成感も味わえると考えているためです。そして、マーケティング思考をプラスしたモノ作りがあたりまえになれば、マーケティング本部は解体しようと思っています。

■ミクシィが得意とするバイラルマーケティングについて
【SNS「mixi」やモンストに関わる中で実感。バイラルマーケティングの力は社会現象につながる。】

バイラルマーケティングについては、体系化と言語化し、勉強会やナレッジシェアリングにて推進、浸透させていこうと思っています。

私はこの会社でプロダクト領域・宣伝領域の両方を経験しているので、それを今まさに紐解いてテキストに落としています。各領域における「バイラルとはなんぞや」を概念として、きちんと全社に伝えていくことがマーケティング本部の一つのミッションでもあります。

 

社内で現在進めている勉強会の資料から一部抜粋すると、


“「友人や知人から紹介されるサービスは、指数関数的に事業が伸長する」ことを、SNS「mixi」や「モンスト」で体現している。例えば、初期のSNS「mixi」はサービス利用に招待制を用いていた。それがブランドイメージとして“特別感”を醸成していたと考えていて、友人が友人を招待し急拡大、社会現象に繋がった。もちろん有機的な関係値が付与されている機能やコンテンツ(日記や足あとといったシンプルな仕組み)が、コミュニケーションを活性化した背景にあると考察。

モンストの初期もオーガニックにバイラルが広がり、TVCMを実施したときにはすでに「モンスト知ってる?」「やってるよ、招待するよ」という状態が作られていた。「共闘」や「招待機能」は「プロダクトのバイラル装置」として設計されていて、友人を誘いやすい状況に繋がったと考察。
「プロダクトのバイラル装置」がない(もしくは機能していない)と、プロモーションでユーザーを獲得しても、それ以上広がらない、もしくは離脱する状況になる。つまり拡大、伸長させるにはバイラルマーケティングがコアコンピタンスであると仮説立てしている。”


プロダクトが設計すべき「バイラル装置」というのは、バイラルする仕組みのこと、つまりユーザー同士が誘いたくなる機能やインセンティブの設計や体験などのことを指すと社内では定義しています。

もう一方、プロモーションにおける「バイラルコミュニケーション」は、「バイラル装置」が効いている前提で、日常のコミュニケーションやシチュエーションの中で“mixi”や“モンスト”というパーセプションが取れるかどうかに尽きます。

モンストのプロモーションで差別化を図ることができたのは、他社とは違う打ち出し方で「みんなで遊ぶと楽しい」という“プレイした先の価値”つまり、本質的な価値のブランディングを徹底して行ったことが成功につながったと考えています。

【マーケティングとは、人(顧客)を知ること。】
マーケテイング本部におけるマーケティングの定義は「マーケティングは人(顧客)である」としています。結論、“人を知る”ことだと思っています。「何をしたら、人の課題が解決できるか」「どうしたら、人の心が動くのか」を考えることも“人を知る”ということでしょう。既存のサービスだったらその既存のユーザーが「何があったら嬉しくて、何をすると離れていくのか」を考えることも重要です。

「誰に何をしたいのか」「その人たちが求めてるのは何なのか」「潜在的に求めていることって何だろう」ということを追求していく。これは、私たちが大切にしている理念であるユーザーサプライズファーストに繋がります。ユーザーを意識するのは当然のこと、さらに上をいく予想外の体験による、驚きや感情が動くことで、誰かに言いたくなるのは人間の心理としてあって、それがバイラルの源泉になると考えています。

■マーケターとして求められる力
【交通整理をすることもマーケターとしての使命。】

“giveの心”ってめちゃめちゃ大切だと思っています。

持ち得るすべてを使って寄り添いながら、支援というgiveを惜しまない。それが成功確率を高めていくことに対して、マーケターとしてプロフェッショナルな向き合い方だと思うんです。

例えば「ターゲットは高校生」と定義されていたとして「高校生って誰のことですか?」と、問うこともあるかもしれません。もともと考えていたことに水を差すようなことでも、目的のためには必要な交通整理の場合もあると思っています。

納得できるまで、プロジェクトメンバーの意識合わせをすること。リリース後に仮説や狙いが外れていたとしても、みんなが納得して同じ目標に向かっていれば、失敗も納得できて「知見」になると信じています。

【傾聴力と柔軟性。失敗や成功を分かち合える人材になってほしい。】
マーケターは傾聴力と懐の深さを持っているべきだと思いますし、自分の知見を提供するだけではなくて、プロジェクトメンバーの一員として一緒に成功も失敗も分かち合えるマインドを大事にしてほしいなと思っています。当然「どうしてもここは曲げられない」という譲れない局面もあるとは思いますが、プロジェクトのメンバーとしてどう折り合っていくかという提案力や巻き込み方もそうですし、迎合や忖度ではなく「そういう考え方もあるのか!」と素直に思える心の柔軟性も問われる。だからこそ、マーケターのスキルセットで大事なのはコミュニケーション力だと思います。マーケターはユーザーだけでなく、チームメンバーのクセみたいなのも含めて、“人を知る”ことが重要ですね。私はミクシィ社のクセの強い人たちが大好きです(笑)。

 

マーケティング領域 執行役員 根本 悠子
広告制作会社、株式会社NHN Japan(現 LINE株式会社)等を経て、2007年5月株式会社ミクシィに入社。Find Job!でコンテンツ企画・プロモーションに従事。2008年8月SNS mixiのプロモーショングループに異動。以降SNS mixiのユーザーコミュニケーションに携わるユニットのプロダクトオーナーを経て、2014年4月育休より復職しモンスターストライクのマーケティングを担当。 2017年5月モンスト事業本部マーケティング部部長就任。モンスターストライクに関わるマーケティング全般を統括。2018年4月、当社執行役員マーケティング領域担当、マーケティング本部長。(現任)
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