モンスト事業本部で組織開発を務める水本は、Find Job!事業部(現ミクシィ・リクルートメント社)に求人の制作スタッフとして入社し、その後人事部へ異動。中途・新卒採用全般を担当し、人事企画や労務など幅広く人事キャリアを歩んだ後、新規事業にチャレンジ。今度はモンスト事業本部の組織開発にチャレンジするというミクシィ社内でも異色の経歴を持っています。今回は、キャリアチェンジを通して得た経験や、今後の展望について聞きました。
━━現在水本さんは、モンスト事業本部でプロダクトや事業成長のための組織開発を担当されています。ミクシィでは入社からこれまで10年以上のキャリアを歩んでいるかと思いますが、これまでの経緯を聞かせてください。
はい。僕は、求人情報サイト「FINDJOB!」の、求人広告の撮影担当として2004年に入社しました。撮影のほかに、求人広告のライティングも担当させていただきましたね。求人制作業務を通して、クリエイティブ面はもちろんのこと、エンジニアの業務理解などのスキルが身に付いた一方、求人広告のクリエイティブだけでサービス成長に寄与することに限界を感じてもいました。そんなときに人事部で自社の仲間になってくれる人の採用にチャレンジしてみないかと声がかかり……。
━━そうだったのですね。でも、採用は未経験ですよね。
はい、採用は未経験でしたが、最初に担当したのは新卒採用。ミクシィも会社として公に新卒入社社員を募集するのはこのときが初めてでした。当時の採用目標人数は、エンジニアが30名と総合職が10名。
━━いきなり高い目標ですね。
そうですね(笑)。右も左もわからない中で初の採用業務ではありましたが、なんとかその年の新卒採用をやりきりました。目標に対しての結果はエンジニア25名、総合職8名と未達だったんですが(苦笑)。その後、中途入社のエンジニア採用をやってみないかと声をかけていただきました。ミクシィにとって、エンジニア…つまりモノづくりができる人材の採用は重要事項だったのですが、当時はそういうことをあまり理解していなかったです。ごめんなさい。
学生時代に専攻していた油絵を描くことと、エンジニアの業務における考え方が似ている部分もあって、共感しやすい部分も多く、楽しかった思い出があります。僕自身は、コードを一行も書けませんが…。
━━どのあたりが似ているのでしょうか。
絵を描く時ってザクっと完成図を想像し、どうやったらそれを実現できるかを考えていきます。その考えた通りに描いていくのですが、イメージ通りにカタチにできなかったり、当初想定していた描き方だとうまくいかなかったりして試行錯誤しながら、はじめに想像した完成図に近づけていくのですが、そのプロセスが似ているなぁと。
━━エンジニアの採用はうまくいったのでしょうか。
幸運にも当時は、SNS「mixi」のグロース期だったこともあり、感度が高いエンジニアの皆様から「面白そう」とたくさん応募いただきました。
━━絶好調ですね。失敗しらずというか。
そんなことは全くなく、目標の採用人数を大幅に下回らせる失敗や採用における重要な場面でもう一押しのアクションが足りなかったなど、ありとあらゆる失敗をしたと思っています。今、振り返ると、採用業務未経験で始めたこともあり、他社が一般的にやっている手法なども知らない状態だったので成長の頭打ちのラインに来ていたのだと思います。
━━キャリアの伸び悩みですね。
そうですね。そんなときに、人材紹介事業でキャリアアドバイザーの経験を持つ方が入社され、彼から採用に必要な基礎知識をキャッチアップすることができました。そのおかげでこれまで我流だった経験に一般的な基礎知識がマージされようやく採用に必要なスキルと知識のベースが完成したと思います。その後は、マネジメントレイヤーや事業戦略などより難易度の高いポジションの採用にチャレンジしつつ、人事全般の業務を理解するため人事企画へ異動となりました。
━━採用以外にも人事関連は色々な経験をされているのですね。
人事企画でのはじめての仕事はミクシィで今も運用されている「ミクシィ・キャリア・チャレンジ制度(通称mcc)※」の設計と運用でした。
※部署毎に求人を掲載し、メンバーは所属上長への相談や許可がなくても求人に応募でき、条件に合致すれば社内異動が実現する
━━おお、そうなんですね。使う側ではなく、作る側だった、と。
当時社員が希望する部署や職種への異動を自由に申請できる「フリーエージェント制」が世間のトレンドになっていて、ミクシィでも取り入れてみようというのがきっかけでした。
━━人事企画も未経験での配属ですよね。
そうです。採用のときと同じように最初は我流でやっていたのですが、組織制度を大きく見直す際に、HRに特化したコンサルタントの方から色々と教えてもらう機会がありました。その頃から僕の中で、人事関連の知識がパズルのピースがカチカチとはまっていくように、体系化されていきました。ちなみにこのときに僕たちのチームが作った評価制度や、仕組みは今でも使われています。
━━その後は、HR領域での業務を続けられたのでしょうか。
その後、事業の下降と上昇の中でHRの幅広い領域に携わらせてもらったのですが、もともとプロダクトに興味があったこともあり、今度はHRの知見をベースにプロダクトに携わってみたいと思うようになっていました。そんなとき、人事内での組織変更もあり上司に相談してみたところ「思い切ってをやってみたら?」と背中を押してもらい、「minimo」や「みてね」などを開発しているVantageスタジオの責任者である会長の笠原に頼み込む形で相談をし異動をさせてもらいました。
━━人事部からプロダクト側に戻られたのですね。担当されたのは、どのような事業でしたか。
最初の企画はこれまでの経験から着想したHR領域でのプロダクトです。「職務経歴書や履歴書を書かずに転職ができる世界観」を思い描いて、人事システムをクラウド上で全て統合して使えるサービスでした。Vantageスタジオの採用も担当していたので、朝の2時間は採用業務、午後から企画のミーティングに参加する日々を送りました。結局このサービスは、営業コストがかかることや利益幅が低いこと、ミクシィが取り組む意義がさほど見えないことがネックとなり、残念ながら企画段階で終了しました…。
━━ミクシィで取り組む意義…難しいところですね。
アイデアとしては面白いと思ったんですけどね…。その時期Vantageスタジオでは、VRとAI、コミュニケーションの3領域でサービスを考えようとしており僕もそこに参加させてもらい、チームで毎日調査とディスカッションを行いました。VRでもAIでもコミュニケーションを軸にしたサービスを作るという方針があり、その中で僕はVRを使ったプロダクトを担当することになりました。仮想世界×オープンワールド×ゲームをテーマに企画を詰めながら、仮想世界でのコミュニケーションの検証を進めることになりました。
━━仮想世界と言えば、2000年代後半にコミュニケーションサービスが大流行しましたよね。
そうなんです。仮想世界ははじめの物珍しさはあるのですが、その後の継続につながるものがこれといってないんですよね、そのためコンテンツとしてのゲーム要素を活用してコミュニケーションが発生しないかと考えました。ゲームと仮想世界の融合だからこそ面白いとコンセプトを検討したんですが……。ゲーム要素を抜いたコミュニケーションのみに絞って検証を進めて行ったところ、モックアップを作成しても「何が面白いんだっけ…?」となってしまい(苦笑)。チーム内をまとめることもできず…。残念ながらまたしてもローンチされることなく企画はクローズしてしまいました。
━━チャレンジが続きますね。
その後もいくつか新規事業の企画を提案し、ついに承認され「CHAROP(チャロップ)」というSNSサービスをローンチすることができました。
━━新規サービスへのチャレンジが、ついに実ったわけですね。
想定よりもビハインドしてはいたものの、着実にユーザー数は積み上がっている状態でしたが、KPI未達というところで、プロジェクト開始から1年半でこれまた残念ながらクローズに至りました。
━━あらら、それは残念。悔しいですね。
そうですね。サービスがグロースしなかった理由について詳しくはコチラにあります。くやしい思いをした新規事業へのチャレンジでしたが、チーム組成について大きな学びもありました。
━━具体的には。
チームの目的(存在意義)を事業の成功というシンプルなものにすること、プロダクトをチームで作っていく際に適切なフレームワークを使って意思統一や意志決定をすること、全員がそれぞれの状況を明確に把握できるタスク・スケジュール管理手法などですかね。そのおかげで、上手くいくチームの秘訣が見えてきたように思います。
━━CHAROPがクローズしチームが解散した後、モンスターストライク(以下モンスト)を運営しているモンスト事業本部に異動され、組織・事業開発にチャレンジされています。これまでHRや新規事業を経験されてきて事業部をどのように思われていましたか。
モンストは“プロダクトへの愛が強い人たち”が運営しているサービスです。一方、僕は自分が発案した新規事業がクローズした直後だったこともあり、特にやりたいこともない状態でした(笑)。当初モンスト事業本部の話があった際も、前のめりというマインドではなかったです。ごめんなさい…。
━━そうだったんですか!どのような心境の変化がありましたか。
異動して1週間経つかどうかくらいで、モンスト事業本部の部長陣やマネージャーの方達に組織や状況についてヒアリングさせてもらった時ですね。話を聞いていくと、多少の組織課題はあるけれど「モンストってまだまだ全然いけるやん!」と思ったんですよね。理由はヒアリングした人たちが自分たちのプロダクトを心の底から信じているというのが話している中で伝わってきたからです。しかも、それぞれのできることを考え最大限の努力をし続けている様子が業務ヒアリングの中で見えていました。普通ならプロダクトが成熟期に入り若干のダウントレンドに入ってしまうと閉塞感が組織に生まれメンバーの士気もダウンします。なのに、モンストでは全く逆の現象が起きていました。
━━なるほど。
なので、この組織なら勝ち筋はあると思ったんです。
━━現在はどのような業務を担当しているのでしょうか。
モンスト事業本部の戦略を実現するための、採用活動、組織開発などです。事業戦略の実行に必要な人材を定義し採用したり、ときには組織に問題がおきてないか組織サーベイを実施し、状況を見極めて改善施策を実行したり、事業を成功に導く戦略を実現するための組織づくりを行っています。
━━いわゆるHRBPですね。
そうですね。
━━仕事として面白いのはどんなところでしょうか。
HRの専門スキルを事業の課題解決や戦略の実行のためのアクションに活用していけるのは面白いです。現場に寄り添う形でHRの視点から課題解決していくというアプローチははこれまでなかったので、解決できなかったことが解決してうまく物事が進んでいくというようなことも体験できたりしています。
━━組織がよくなっているような実感はありますか。
定量面を見ると、少しづつですが結果が付いてきている気がします。例えば、異動当時各グループをヒアリングしてみると、「施策に取り組みたいけどリソースが……」「◯◯をできる人材が社内にいなくて……」といった多くの採用課題が見えてきました。そのあたりは、数ヶ月後から採用決定数が増加しましたので、大きな組織課題の解決に繋がってきていると思っています。
━━他には。
組織のボトルネックになっている点が見えてきたので、組織体制の変更なども行っています。まだまだ、道半ばではありまけどね。
━━採用と新規事業立ち上げの経験は、モンスト事業本部での組織開発にどのように活きていると思いますか?
新規事業では0→1の体験ができたので、プロダクトや事業に最低限必要なものというのが体感として理解できたように思います。なので、これがないと死ぬというものと最悪3ヶ月は大丈夫みたいな優先度の付け方はかなり活きていると思います。あとは、事業責任者や事業責任者に近い部門長も間違った決定をしてしまうことがあるということも体感したので、こんな時って誰かの助けが必要だよなぁという想像ができることも今の業務に活きているかもしれないです。
━━今後モンスト事業本部をどのような組織に導いていきたいですか。
導くっていうような大袈裟な考えはないのですが、個々人の能力や才能が組織として活かしていけるような組織にしていきたいですね。そのためには中長期的な取り組みとして個々人の能力や才能を可視化していく「ピープル(タレント)マネジメント」や、個々の相関性を分析して意思決定を助けるような「ピープルアナリティクス」の仕組みの活用が必要だと。それもHRの理屈ではなく、事業の理屈で活用できるようにようにしていくことが求められると思っています。
━━ちなみにHRと事業がうまく紐づていないと具体的にどのような問題が起きると考えられますか?(逆にうまく紐づいているケースでも良いです)
ありきたりなんですが、事業を動かすのは人なのでHRのことを考えていないと事業自体を的確に動かすことができなくなります。HRと事業がうまく紐づいていないと組織運営のコストが上がり事業が持っている本来のポテンシャルを組織のコンフリクトが食い潰してしまうというような問題がおきます。
成長フェーズだと気づかないのですが、成長が鈍化した途端にこれまでうまく行っていたことがうまくいかなくなるというようなことが起きたりします。
━━なるほど。
今、モンスト事業本部の組織開発は僕が担当していて属人化されてしまっていますが、いずれは他部門でもノウハウや知見を展開して、ミクシィの組織全体のボトムアップを実現していきたいですね!
水本 敦則
2004年株式会社ミクシィに入社。2006年から人事部門に異動。人事部門では会社業績の大幅な上昇と下降のサイクルの中で「人材の獲得・配置」「人材の評価」「組織開発」「労務」などほぼ全ての領域を担当。2016年から新規事業に取り組み、小規模ながら責任者としてサービスのリリースとクローズを経験。2019年8月よりモンスト事業本部にてHRBPを務める。