「THE METHOD」は、ミクシィのさまざまなプロダクトにおいて実践されているノウハウやメソッドを惜しみなく共有するオンラインイベントです。
今回の「THE METHOD」では、『モンスターストライク(以下、モンスト)』のサウンドプロデュースについて。
『モンスト』の世界観やキャラクターを表現する音楽制作は、どのようにして行われているのか?その制作工程を徹底解剖していきます。本記事では、「THE METHOD #7-2」のダイジェストをお届けします。
登壇者の紹介
登壇者は、サウンドプロデュースチームでリーダーを務める生亀。
司会はモンスト事業本部・事業支援室の三瓶が担当しました。
━━最初に、サウンドプロデュースチームが手がけている業務について教えてください。
『モンスト』のサウンドは3つのラインで制作されていて、その中でサウンドプロデュースチームが担当しているのは、『BGM制作』『歌唱楽曲制作』『PV・イベントのサウンド制作』。キャラクターを表現する音づくりの担当がメインになります。たとえば「超究極ジャスティス」や「超究極コクウ」「超究極フェルシア」のクエストBGMなどがそれにあたりますね。
【1】BGM制作
特定のキャラクターに紐づいたBGM制作など。
【2】歌唱楽曲制作
アベルなど歌唱楽曲を用いたPV、モンソニ楽曲など。
【3】PV・イベントのサウンド制作
限定キャラの初登場PVや獣神化PVのサウンド制作、オーケストラ、モンソニライブなどで使用されるサウンド制作など。
そもそも“サウンドプロデュース”って、何?
━━大前提の話にはなりますが…“サウンドプロデュース”とはどのようなものなのでしょう?
『モンスト』におけるサウンドプロデュースという視点でお伝えすると、「世界観やキャラクターデザインの一環である」と考えています。
前回、『THE METHOD #7』において、サウンドデザイナーからサウンドデザインとは「体験デザインの一環である」と話がありました。サウンドデザイナーが手がけるのは、サウンドエフェクト(以下、SE)が中心。一方、キャラクターに紐づいたサウンド制作を手掛けるサウンドプロデューサーの場合、この言葉が適切かなと思いますね。
━━キャラクターの魅力を伝える要素の一つだと?
そうです。キャラクターを表現する場合、イラストだけではなく、テキスト、ムービー、サウンドなどの要素が非常に重要になってきます。よりディティールを鮮明にすることで、世界観やキャラクターの魅力が増していく。サウンドで色付けていくことがサウンドプロデュースだと解釈しています。
━━サウンドプロデュースチームの役割が分かってきたところで、次に『モンスト』のBGMは、どのように制作されるのか教えてください。
BGM制作の工程には『知る』と『決める』があります。世界観やキャラクターのイメージを情報として把握し、それらをBGM制作の要件として定義する。僕は「イメージを音に結びつけていく作業」と呼んでいて、その工程には3つのポイントがあります。
【1】「ゲームの仕様」を知り、「尺や構成など」を決める。
どのぐらいの長さの曲が必要か、ループする必要があるか…など、実装に必要な情報を把握し、楽曲の尺や構成を決めていきます。
【2】「世界観の設定」を知り、「曲調や使用楽器など」を決める。
楽曲で表現するのはどのような世界観なのか、舞台背景やキャラクター設定を細かく把握し、音楽のジャンルや使用する楽器を決めていきます。
【3】「シチュエーション」を知り、「展開や明暗、細部など」を決める。
これから作る楽曲はどのようなシチュエーションで流れるのかを把握し、感動的、テンションが高い…など想定されたシチュエーションをもとに取り入れるべき要素を決めていきます。
━━イメージを音に変換…おもしろいですね。実例で紹介いただけますか。
では、「超究極コクウ」というクエストBGMの制作で「曲調」や「使用楽器」をどのように決めたのかをお話ししたいと思います。
まず、このクエストのボスである「コクウ」に関する情報を把握していきます。舞台設定は、火ノ国。和の世界観が印象的な場所です。性格は、自身の目的実現を最優先。そのためならば世界の破滅も厭わない…という思想の持主。そこから、「和」の要素と戦闘シーンに合う「バトル曲」のイメージが浮かび、“和風ロック”のワードで着地しました。
ですが「コクウ」のイラストを見ていただくと分かるのですが、完全に「和」ではないんですよ。錫杖(しゃくじょう)を模したピストルや袈裟を模したマントなど、西洋の文化が溶け込んでいる。なので、100%「和」だと違和感が生まれるかもしれない。そこから、もう一歩踏み込んで、和風の曲調に西洋音楽の要素を入れるほうがマッチするのではないかなど、和洋折衷の方向でバランスを考えていきました。
このように音楽的イメージを言語化する作業を繰り返しながら、「コクウ」の“音楽の原型”を決めていきました。
━━キャラクターのイメージを音と結びつけ、そこから完成した楽曲を聞いてみたいです。
テキストだと分かりにくい部分もあるので、ここでは最終的にどのようなBGMが完成したのか、実際の楽曲を聴いてもらいながら解説していきたいと思います。具体例で用意したのは、「超究極フェルシア 道中BGM」です。
まずはこのBGMの設定を見てみましょう。
▼「超究極フェルシア 道中BGM」の設定
これらの情報をもとに、フェルシアをどのような音楽で表現するのかを考えていきます。ここで必要になるのが、先ほどからお話ししている「イメージを音に変換する作業」。音楽的要素を言語化していきます。
そして定義した要件は、以下です。
▼「超究極フェルシア 道中BGM」の要素
完成した最初のデモ曲がこちらです。
※再生ボタンを押下するとサウンドが流れますので音量にご注意ください。
出来上がったデモを聴いての僕の感想は「フェルシアの雰囲気が表現されていて、とても良いBGM」でした。ただ、同時に僕のフェルシアのイメージと違う部分もありました。デモを聴いた瞬間に「こっちだ」というメロディーやアイディアが浮かんだので、すぐにデータに起こして調整していきました。特に違うと感じたのは「メロディーの悲壮感」と「研究室を彷彿とさせる閉塞感」の部分です。そして、最終的に完成したBGMがこちらです。
※再生ボタンを押下するとサウンドが流れますので音量にご注意ください。
このように、新たな提案をしたり、アイデアを出したりしながら楽曲をブラッシュアップしています。
━━キャラクターや世界観を音で表現すべく、妥協せず磨き上げていくんですね。
そうですね。サウンド制作を通じて、『モンスト』の世界観やキャラクターの魅力を補強するようなイメージ。そして、その積み上げた先に、私たちが掲げる“ユーザーサプライズファースト”の実現がある。『モンスト』のユーザーに、もっとゲームを楽しんでもらえるような感動を届けていきたいと思っています。
最後は、質疑応答です。視聴者のみなさんから寄せられた質問にもリアルタイムで回答しました。
Q.スマホでゲームをする場合、マナーモードでやることが多いと思います。音楽制作されている側からすると「音を出さずに遊ぶこと」についてどう思われますか?
普段、マナーモードで音を出さずにプレイしている方でも、『モンスト』の代表的な音楽は知っていらっしゃると思うんですよね。それだけで、ゲームの世界観を伝える音楽としては、役割を果たしていると考えています。マナーモードでプレイされるから、ゲームにサウンドがなくてもいい、という話ではなくて。それはまた別の話かなと思っています。
Q.ディレクションしていて、プロデューサーとクリエイターの作りたいものが乖離していたら、どう対応されますか?
『モンスト』の場合だけなのかもしれないですが、乖離しているケースはほとんどない印象です。ただ、もしあったら、その場合は制作前に乖離を埋めるような話し合いが必要だと思います。制作後は大変ですから(苦笑)。お互いに表現したいものが何かをすり合わせる、そこから足したり、引いたりできるとよいのではないでしょうか。
Q.これまで作ってきたBGMの中で、苦労したものは?
あまり思い浮かばないので、そんなに苦労していないかも(笑)。理由は、『モンスト』のキャラクター設定がしっかりしているからだと思いますね。たとえば、キャラクターが持つ武器の材質までもが決まってる。これは硬い、柔軟性があるとか、そういう情報をもとに考えられるのでイメージしやすい。結果、音にもつなげやすいんだと思います。
Q.たくさんBGM制作をしてきて、得られる達成感は?
やっぱりクリエイティブが形になったときは達成感が得られますね。ゲームに実装されて、思っていた世界観やキャラクターの雰囲気が表現できていると、素直に嬉しい。さらに、Twitterなどにユーザーの方から良い反応が書き込まれていると、最高の気分です!先ほど紹介した「超究極フェルシア 道中BGM」は、嬉しい声を多くいただきました。
Q.音楽制作で、世界観やキャラクターの設定以外で心がけてることはありますか?
メロディ、リズム…どこかに「耳に残る要素」を作るようにしていますね。耳に残らず、サラッと流れてしまっては体験として勿体ないですから。また、似たような音楽にならないことも気を付けているポイント。キャラクターごとに、それぞれの音で差別化しています。
BGM制作は、サウンドディレクターの頭に浮かんだイメージから音楽制作されているのかと思っていましたが、そこには重要な工程がもう一つありました。それは、音楽的要素をきちんと言語化すること。すべてはキャラクターや世界観のために作る音楽、そんな信念が感じられた話だったように感じました。
オンラインセミナー「THE METHOD」は、今後も開催予定。
※詳細はこちらのページから。
様々な“メソッド”に焦点を当てながら、開発・制作ノウハウなどをお届けしていきます。次回もお楽しみに!